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メンタルくそつよ大学生のめっちゃ楽しい死に戻り  作者: 佐藤悪糖
夕焼優希の日記帳③ そして季節は冬になり
24/28

ぐちゃぐちゃになりますように

 廃ビルの一室で日向は寝入ってしまった。

 窓日の差す暖かい場所でじっとしていたからか、日向は気がつくと寝息を立てていた。私は彼女を置いて、一人で廃ビルを後にした。


 気持ちは凪のように静かだった。なんとなく、あそこにいけば彼女に会えるだろうと思った。運命に導かれているような、そんな不思議な感覚がした。


 いつか私が覚悟を決めた、病院の屋上。サンタクロースは、その場所でじっと空を見ていた。


「来たんだね」


 探したよ。私は言った。うん、とだけ彼女は答えた。


「それで、どうするの」


 結論を出す前に、まずは答え合わせからだ。どうして二度目と三度目の現象が起きたのか。それを紐解かなければならない。

 一度目の事件には、廃ビルの崩落に巻き込まれるという明確な契機があった。その事故を避けた結果、本来起きるはずだった不幸を埋め合わせるために現象が発生し、私はそれに巻き込まれた。しかし、二度目と三度目の現象には契機となる事故は無かった。


 そもそもこの考えが間違っていたのだ。本来起きるはずだった不幸を埋め合わせるために、不幸が起きる。このパターンで現象が発生したのは、最初の一回目だけだった。

 二度目と三度目の現象が発生した理由は別にある。それはつまり。


「本来あるべきではない幸福があったから、それを埋め合わせるために不幸が起きた。そう考えてるんだね」


 肯定した。

 この幸福という奴には、嫌というほどに思い当たるところがあった。最初の現象を乗り越えてから、日向と過ごしてきた時間は、間違いなく幸せだったのだ。


 幸福の正体が分かれば後は逆算するだけだ。どうしてこの幸福があるべきではないのか。そんなことは分かりきっている。私は、あの屋上で死ぬべきだったということだ。運命だか因果だか知らないが、現象を引き起こしているそれは、私が生きることを明確に否定している。


 だから。


 私が生きて幸せになるほどに、現象は規模を広げながら何度でも繰り返されるのだ。


 以上が、私が出した結論だ。答え合わせを終えた後、私たちはしばらく佇んでいた。柔らかな春の風が、屋上に干された真っ白なリネンをはためかせていった。


「こんなつもりじゃなかったんだよ」


 サンタクロースは言った。


「こうなることを考えなかったわけじゃない。だけど、何かがどうにかなるのかもって思ってた。いつかきっと、このルールを打ち破る何かが見つかるんじゃないかと思って、私は。でも……」


 彼女は静かに語っていた。運命を受け入れる殉教者のような、凪いだ感情がそこにあった。

 それは私と、よく似ていた。


「私にはもう、幸せが何なのかわからない」


 サンタクロースの目には、深い後悔が刻み込まれていた。

 その時私は理解した。彼女も私と同じだったのだ。私たちは皆、同じ地獄に落ちていた。


「ごめんなさい。恨むなら、私を恨んでください。どうか、自分を責めないでください。全ては私が始めたことです」


 私は首を振った。誰かを責めたいとは思わなかった。

 いつかのように、私はサンタクロースにお願いをした。もし過ちをやり直せるのなら、一つだけ無かったことにしたいことがある。自分ではできないから君に任せたいと、そう言った。

 彼女は泣きそうになりながら頷いた。


 今、屋上の縁でこの日記を書いている。これを書き終わったら終わらせるつもりだ。


 この日記は日向に宛てた手紙でもある。私が出した結論を、どうか彼女が誤解しないように。私は自分の意志でこれを選んだのであり、日向が気に病むようなことは何一つ無い。もっとも、我が最愛の友である日向ならば、こんなことをせずとも私の言いたいことは伝わってくれるだろう。


 さて。事情説明はこんなところだろうか。

 ちょうどこの日記も後一ページだ。最後のページには、今の気持ちを記して終わりにしよう。



 *****



 葛藤に意味なんてなかった。

 決意に意味なんてなかった。


 努力に意味なんてなかった。

 挫折に意味なんてなかった。


 熱意に意味なんてなかった。

 諦念に意味なんてなかった。


 正義に意味なんてなかった。

 悪徳に意味なんてなかった。


 幸福に意味なんてなかった。

 不幸に意味なんてなかった。



 私が生きたことに、意味なんてなかった。


 私が死んだことに、意味なんてなかった。




 世の中の



 幸せな



 何もかもが



 ぐちゃぐちゃに



 なりますように

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです! 作者さんのセンスが本当に凄くて馬鹿二人の会話には思わず笑ってしまいますし、シリアスな展開も最高です。具体的には、月島さんに疑似タイムループ体験させるとことか、夕焼がライブで…
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