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メンタルくそつよ大学生のめっちゃ楽しい死に戻り  作者: 佐藤悪糖
夕焼優希の日記帳③ そして季節は冬になり
22/28

天より来る死

 またしばらく日が空いてしまった。

 日々というのは分からないものだ。今を流れる時間には特別な意味があるようで、いざ振り返るとどうにも筆がまとまらない。日々は当たり前に過ぎ去って、ただ心の内に優しい心持ちだけを築いていく。なんだかポエミーになってきたのでこの辺にしておこう。


 そんな毎日を忘れないように記録するのが日記の役目ではないかと思われるかもしれない。だが、プロ日記書きを自称する夕焼優希はいい加減な筆は握らぬと心に決めている。書く内容に困るのであれば、潔く筆を置くのもプロとしての矜持だ。つまり、全くもって大したことがなかったのだ。マジで。最近の私、超平和。


 これだけでは仕方ないので、最近あった落ちのない話をいくつか綴ろうと思う。


 ある日、私は日向に連れられてライブハウスに出頭した。そこで待ち受けていたのは日向が所属しているバンドメンバーたちだった。

 去る休日に、私たちは駅前ゲリラライブを繰り広げることで現象を生き延びた。それは良かったのだが、突如降った大雨によって日向がバンドメンバーから無断借用していたアンプが壊れてしまったのだ。

 弁償を覚悟して私は謝りに行った。あいにく持ち合わせは無いが、働いてでも返すつもりである。正直にそう申し出ると、彼らは嬉々として私の身柄を確保した。曰く、腕の良いリズムギターが一人欲しかったらしい。

 そんなわけで、私は彼らと共に何度かバンド活動に勤しんだ。その最中で聞いたのだが、駅前ゲリラライブの一件はインディーズバンド界隈で伝説になりつつあった。その当事者である私と日向を加えたバンドは、現在メキメキと知名度を上げている真っ只中だ。

 おかげでチケットの売れ行きも好調で、この分だともう数回もライブをすれば私と日向の借金はチャラになる。

 借金が無くなった後もバンドを続けるか否か。それはまあ、前向きに考えていこうと思う。


 それ以外にも、学校の行事として中間考査があった。私はこれでも不真面目なりに勉強だけはやっている。社会的に脆弱な夕焼優希にとって、成績は自分を守る盾になるからだ。今となってはそんな風に気を張る必要は無いかもしれないが、そういう習慣があったので今回の考査も焦るような真似はしなかった。しかし、日向は焦っていた。だろうねと思った。つくづく期待を裏切らない奴である。


 そんなわけで私が彼女の勉強を見てやることにした。日向の家に上がりこんで試験範囲を整理すると、彼女は早々に教科書を投げ出した。こんな量とても覚えきれない、試験まで一週間しかないんだぞ、と。

 なるほど時間が足りないらしい。私は言った。じゃあ、時間作るから包丁貸してくれる? 日向は顔面を蒼白にし、必死に教科書をめくり始めた。冗談だったのに。


 この女、一度スイッチが入ると目覚ましいまでのやる気を見せた。分からないところがあれば分かるまでとことん聞いてくるのだ。私が他人に教えるのが不慣れなこともあり、私たちは時々にゃんにゃんと喧嘩しながら対策を進めた。その甲斐あってか、試験後の日向はやり切った良い顔をしていた。

 結果はまだ帰ってきていないが、きっと、悪くはないはずだ。


 さて、そんな風に過ぎ去った日々を思い返しているわけだが、やはりと言うかなんというか、私には心当たりがなかった。

 どこかにあるはずなのだ。知らず知らずの内に避けていた、偶然の不幸が。そうでなければおかしい。


 なぜならば。

 私は今も現象とタイムループの中に閉じ込められて。

 毎日を死の中で過ごしているからだ。



 *****



 今回の現象について整理しよう。

 最初の一回目、私は自分が死んだと全く気が付かなかった。ある夜に自宅の階段下で眠りにつき、翌日学校に行って、二時間目の国語の途中でようやく気がついた。これ、昨日と同じだと。

 その日の休みに日向に相談しに行ったが、あの女は気がついていなかった。少しは期待を裏切ってほしい。


 日向がポンコツなので私は一人で考えた。少なくとも眠る時までの記憶はあるので、事件は私が寝ている間に起きたと仮定しよう。家の人たちに殺されでもしたのだろうか。そう考えたので、私は今晩家で寝るのを諦めた。久々に夜の散歩でもしていよう。


 念の為散歩には日向も付き合わせた。彼女はぶーぶーと文句を言っていたが、いざと言う時にはこいつが頼りなのだ。そんなことを言ってやると日向はうざいくらいにやる気を出しはじめた。言うべきではなかったと後悔している。

 丑三つ時をすぎた頃、空がぱっと明るくなった。真昼のような明るさではなかった。夕焼けのように赤い光が、ストロボのように瞬いた。何事だ。そう思う間もなく、私は衝撃に吹き飛ばされて死んだ。


 翌日、私と日向は昨夜の現象について話し合った。日向は言った。ありゃ隕石じゃねえか。いくらなんでもと思ったが、否定できる材料はなかった。

 何が起きたかを確認するために、私と日向は終電で隣町に移動した。もしも隕石が降ってきて死んだなんていう漫画のような事故だったのなら、これで回避できるだろう。その後に起きるであろう現象によって再び死ぬかもしれないが、その時はその時だ。


 結果として私は死んだのだが、今回はいくつかのことを確認できた。まず死因だが、本当に隕石だった。日向の言う通り、空の彼方から衝撃を撒き散らしながら火の玉が降ってきたのだ。隣で空を見上げる日向も呆然としていた。んなアホな。それが彼女の遺言だった。ちなみに私の遺言はマジかよだった。


 もう一つ。隕石は私が居た場所目掛けて降ってきていた。これが何を意味するかと言うと、隕石は現象によるものだということだ。つまり私はまたどこかで偶然の不幸を回避して、幸福の総量を埋め合わせるために隕石が降ってきたのだと推測できる。


 最後に被害の規模について。隕石が降ってきた時、私と日向は隣町の駅前でぶらぶらと時間を潰していた。さすがに人通りは少なかったが、今回の隕石にそれらの要素は影響しないだろう。

 あの隕石は、素人目に見ても、街半分を吹き飛ばして余りある大きさがあったのだ。

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