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ミーナちゃんの冒険  作者: paiちゃん
33/35

M-033 カベを破壊しての脱出


 私達が始末を終えた魔物は、スラバと呼ばれる生物らしい。魔石を残さなかったから、魔物ではないのかもしれない。


「キメラではありませんが、遺伝子を操作された人工生物です」

 ディーさんの言葉は、私にはちんぷんかんぷんだ。

 キャシーさんが小さく頷いているから、少しは理解できたのかな?


「通常のスラバも脳を3つ持つと言われているが、3つ目の脳は首の付け根の胴体内にあるはずだ。あのように頭の姿を現すことはない」

「だが、結果的には同じように倒せるんだな。もっとも大きさが半端ないが」


 スラバの残骸を見ながらリードさん達が感想を漏らしている。

 リードさんが残った頭を引き付けて、その間に【アクセル】で身体機能を上昇させたヴォルテンさんが数回長剣を振るって、どうにか首を落とした。それでも胴体にある頭の周辺から触手を伸ばして2人を絡めとろうとしていたが、私の放った爆裂球付きのボルトで頭が破壊されたところで戦闘を終わらせることができた。


「もう1つ、頭が残ってたらと思うと、冷や汗が出てくる。俺達にはかなり時間が掛かったに違いない」

「だが、ディーさん達なら、さほど時間も掛からないのだろうな」

 それは私も思うところだ。その力の差が黒と銀のレベルの違いなのかもしれない。でも、この建物の魔物は魔石をほとんど持たないようだ。

 フラウさんが「キメラ種ですから」と一言で説明を終えてしまったけど、アキトさん達にはそれで十分なんだろうか?


「急ぎますよ。4階ほど下では激戦のさ中です。ぐずぐずしていると巻き込まれないとも限りません」

 ディーさんの言葉に皆がドキリとしたみたいだ。リードさんまで前に踏み出した足を止めて後ろを振り返っている。


「俺達は足手まといになるだけってことか! まぁ、噂がどうも本当らしいから、ここは逃げるしかなさそうだ」

 私達が駆けだしたところで、私達を軽く追い越したディーさんが先頭を走る。

 走ると言っても、ディーさんは足をまったく動かさない。床面の少し上を滑るように移動するのだ。いつの間にか背中から4枚の羽根が左右に伸びている。羽根から光の粉が零れ落ちるように見えるのは、なんなんだろう?


「妖精族という話を聞いたわ。本当に空を飛ぶように移動するのね」

 ちらりとキャシーさんを見ると、感動してるのだろう、目に涙が浮かんでいる。

 そういえば、ディーさんの話はおばちゃんが色々と教えてくれたけど、フラウさんのことはあまり話してくれなかった気もする。おばあちゃんがお嫁に行ってから、ネウサナトラムで暮らすことになったと聞いたから、あまり一緒に狩をすることが無かったんだろうな。

 でも……、2人ともエルフ族の血を継いでいるのだろうか? 

 ディーさんの姿は、象牙に刻まれた彫刻と同じ姿だ。ディー姉さまは達は年を取ることがないと話してくれたけど、あの象牙の姿の通りでアキトさん達も私の前に現れるのだろうか?


「次の角を曲がる前に止まってください。先にある壁を破壊します!」

 ディーさんが後ろを振り返って教えてくれたけど、出口まで回廊を進まずに適当な場所で壁を破壊して出口にするってこと?


「ここだ。俺達はここで待つことになる」

「ディー様1人でだいじょうぶなのでしょうか?」

「心配はいらないわ。ディーは威力偵察までこなせる戦闘用オートマタよ。私達より旧型だけど、能力の一部は私達を凌ぐほどだから」

 キャシーさんの言葉に、フラウさんが答えているけど、私には理解できない内容だ。オートマタって一体何なんだろう?


 突然、大音響と何かが崩れる音がして、爆風が大量のほこりを運んできた。思わず咳き込んでしまったのは仕方がない。バッグからハンカチを取り出して口を覆った。

 ほこりが落ち着いてきたところで、私達は先を急ぐ。

 角を曲がった回廊の先はぽっかりと穴が開いて、青空が見えている。


「どうにか出られるか!」

「でも、今度はバリアントの群れよ。まだ爆裂球は残ってるかしら」

 バッグに手を入れて爆裂球の残りを数える。私は6個残ってるし、爆裂球付きのボルトはまだ十分にあるはずだ。


 建物の階段状の斜面に私達は立っている。

 あいにくと階段のある方角ではなかったようだ。20D(6m)ほど下の地面には私の身長位のバリアントが相変わらず群れをなしていた。


「相変わらずこのストーパの周囲2M(300m)はバリアントの縄張りだな」

「気のせいかな。前よりもこの建物に集まってるように見えるんだが……」

 

 外に出たから、それだけで気分が変わる。

 一安心したからか、リードさん達の冷静な観察が始まったようだ。


「3カ月前より2割ほどバリアントが増えたようですね。できれば、向こうの岩場まで移動したいところですが、少し休んだ方が良いですか?」

「そうしてくれると助かる。だが、俺達の手持ちの爆裂球が残り少ない。1人数個というところだろう」


 この建物にたどり着くために大量の爆裂球を左右に投げたんだっけ。残り20個ほどでバリアントを退けられるだろうか?


「荷物は私達が運びます。女性2人はその上で私達が連れていけますから、男性2人が爆裂球を投げて進むことは可能では?」

「2M程度なら、走り抜けられるだろう。だが、2人を運べるとは?」

「空を飛んでいきます。その前に、1M程度のバリアントを削除しますから、残りは1Mになりますよ」


 でも、1Mのバリアントだけでも数百を超えそうな感じに見える。簡単そうにディーさんが話してくれたけど、本当に可能なんだろうか?

 少しずつ振動がここまで来た感じだ。かなり近いところまでアキトさん達は来てるんだろう。

 急いで私とキャシーさんの持っている爆裂球をリードさん達に預ける。リードさんは背負いカゴを下ろして、爆裂球を入れたバッグをおなかの方に移動した。その上で、左右の手に爆裂球を1個ずつ握っている。


「始めますよ。少し下がってください!」

 私達が大きく開いた開口部に移動すると、ディーさんが一歩前に出た。ほとんど石段の端に足を掛けて、腰を少し落とした。

 腕の変形が始まり、大きな筒のような形状になったかと思ったら、シュポン! と小さな発射音が聞こえた。ディーさんがその場でうずくまり、フラウさんが私達の前に立って両手を広げる。

 かなり前方で小さな炸裂音がしたかと思うと、次の瞬間視界に巨大な火の玉が出現した。耳をつんざく轟音がとどろき風がびゅうびゅうと耳元で音を立てる。


「前方を確保しました。今なら1M以上駆け抜けられますよ!」

「オォ!」

 リードさん達が爆裂球を持ったまま、石段を飛び降りて地上に向かう。

 私達はディーさん達に腰を持たれて、リードさん達が駆け抜けていく上空を素早く移動していった。

 ヴォルテンさんが私達に手を振っていたから、結構余裕がありそうに見える。それでも近寄ってくるバリアントめがけて爆裂球を投げていた。


 ストーパから3M(450m)ほど離れた岩の上に降り立ったところで、2人がヴォルテンさん達の支援に向かう。

 でも、ほとんど支援はいらないかもしれない。2人の後を追いかけてくるバリアントに上空から襲い掛かるような感じで長剣を突き刺している。

 ディーさんは2人の後をゆっくりと上空を浮かんでこちらにやって来たけど、フラウさんはそのままストーパの方向に飛んで行った。

 アキトさん達と合流するのだろう。ようやくアキトさんと会えるかと思うと、目頭が熱くなってきた。


「もうすぐね。ここでアキトさん達を待ちましょう」

 キャシーさんは、ディーさんが下ろした背負いカゴからコンロを取り出してお茶を沸かし始めた。

 バッグから望遠鏡を取り出して、ストーパの開口部を眺める。どんな感じでアキトさん達は現れるんだろう。

 いつの間にか、ディーさんが作った開口部から薄く煙が出始めた。

 どんな戦をしているのかはわからないけど、まさかあの開口部から魔物が溢れることはないと信じたい。


「いやぁ、走った走った。だがどうにか群れを出し抜いた感じだな」

「まったくだ。それにしても、リザル族並みに走れるとは大したものだ。ヴォルテンなら山岳猟兵になっても問題はなさそうだ」


 望遠鏡から目を離して振り返ると、キャシーさんが入れてくれたお茶を美味しそうに飲んでいるリードさん達がいた。

 キャシーさんが渡してくれたカップを受けとり、私もお茶を頂く。数時間前まではあのストーパの中の迷路を歩き回っていたとは信じがたいことだが、お日様の真下でお茶を頂いていると、なぜかほっとして小さな溜息が出てしまう。


「さっき出てきた開口部から煙が出ていました。かなりの数の爆裂球を使っているか、それとも、【メル】を多用しているのか……」

「煙と言っても色々あるだろうから、一概には言えんがかなりの激戦は間違いなさそうだ」

「爆裂球はほとんど残っていませんでした。銃と手榴弾で対抗していましたが、あの煙は、焼夷弾を使ったものと推測します」

 ディーさんが私達の輪に加わってお茶を飲んでいる。

 説明してくれたんだろうけど、聞きなれない単語ばかりなんだよね。


「もうすぐ現れますよ」

 ディーさんの言葉に皆がストーパに目を向けた時だ。

 突然、ストーパが崩れだした。 巻き上がる砂ぼこりで何も見えないけど、アキトさん達が巻き込まれたってことはないんだよね。

 


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