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ミーナちゃんの冒険  作者: paiちゃん
19/35

M-019 不定形生物


 私が目を覚ました時には、まだ朝日は昇っていなかった。今日はどうにか皆よりも早く起きることが出来たようだ。

 消えかかった焚き火に焚き木を追加して水を満たしたポットを乗せておく。水筒の水も残り少なくなってきた。後2日ぐらいの内に水場を探さなくちゃならない。

 皆が次々と目を覚ましたのは、お茶が沸いた後だった。簡単な食事を済ませると、お茶を飲みながらこれからの行動を話し合う。


 「やはりこのまま東だろう。通信機が役に立たないということはこの近くだろうが、もし、近くなら焚き火の煙ぐらいは見えるはずだ。森に入っている可能性もあるが、それでも焚き火の煙は見えるはずだからな」

 

 「尾根伝いに東って事か? 確かにそれが良いのかも知れないな。堤防を越えて一月足らずだ。食料は十分にある」


 リードさんとヴォルテンさんの会話を黙って私は聞いていた。食料は携帯食料を半年分は持っている。それに狩りをすればその分食料を先に延ばすことも可能だ。だけど問題は水だと思う。最後に補給してから5日は過ぎている。


 「このまま東に、私も賛成よ。でも、アキト様の痕跡を探りながら水場を探したいわ。私の大型水筒は空だし、リード様の担いでいるカゴの水筒も2個は空だし、もう1つは半分も無いわ」

 「そういえば、俺もこの水筒だけだった。ミーナはどうだ?」

 「大型水筒は,、後1回お茶を飲めるぐらいです」

 

 リードさんの顔が深刻そうな顔に変わった。やはり皆の水もあまり残っていなかったらしい。

 

 「となると水場を早く探さねばなるまい。食事以外は手持ちの水筒を使う事になりそうだ。携帯食料は水が無ければ食えたものではないからな」

 手持ちの水筒と言うのは、ベルトに下げた1リットル程の水筒だ。これだけで、何日持つんだろう?


 リードさんを先頭に三角形に隊形を組んで東に向かう。

 尾根を越えるごとに、皆で水場を探す。北にはアクトラス山脈がそびえているから、尾根と尾根の谷間には小さな小川が流れている可能性が高い。地面が湿っていれば近くに泉がある可能性だってあるのだ。

 

 私達がやっと水場を見つけたのは、水場を探し始めた次の日だった。

 尾根を越えた時、小川を見つけたのだ。でも、直ぐに水を汲むわけにはいかない。水場を利用するのは獣達も一緒なのだ。

 入念に辺りを探りながら小川を上流にたどっていく。

 2時間ほどたどったところに、泉を見つけた。小川で水を汲むよりもはるかに安全だ。


 「今夜はここで野宿しても良いだろう。周囲は見通しが利くし、雑木もある。焚き木を取りながら周囲を見てくる」

 

 そう言って、リードさんはヴォルテンさんと共に荷を下ろしたカゴを持って出掛けて行った。

 残った私達は、先ず水筒に水を汲んだ。4つの大型水筒に2つの少し小ぶりな水筒。そして各自が持っている小型の水筒だ。

 それが終わったところで焚き火を作り鍋を掛ける。お茶のポットを近くに置いて、今夜は好きなだけお茶が飲めそうだ。


 30分も経たずに2人が帰ってくると、焚き火の傍に座り込みパイプを取り出した。喉が渇くのが嫌で我慢していたらしい。


 「周囲には大型の獣はいないようだ。小川の砂地にも足跡が残っていない」

 「変ね。水場があって草もそれなりなら草食獣がいるでしょうし、それを狙う肉食獣だっているはずよ」


 「確かに、言うう通りだ。急変があって逃げ出したなら、古い足跡ぐらいはあるだろう。だが、それすら見当たらん。水を手に入れたなら早急におさらばしたい場所のようだ」

 

 とはいえ、日暮れも近い。離れると言っても、それは明日の早朝になるだろうな。

 たっぷりと焚き木を取って来たから、キャシーさんと小麦粉を練ってパンを焼く。平たいパンはちょっと食べづらいけどスープと一緒ならそこそこいける。携帯食料の中に入ってる固いビスケットのようなパンは、スープにしばらく浸さないと私には食べられない。

周囲はキャシーさんが作った【カチート】で守られているから安心だ。リードさん達ものんびりとパイプを咥えながら槍を研いでいる。


 そんな中、遠くの物音を私の耳は逃さなかった。

 何かが、ゆっくりと動いている。その動きは獣のような動きではない。たとえ肉食獣の獲物を狙って近づく時でさえ小さな足音は聞こえてくる。

 

 「何か、近づいてます。あっちの方角なんですけど……、獣ではなさそうです」

 「となると、サンドワームもしくはバリアントってことか?」

 「いや、昆虫も獣ではないぞ。あっちだな」


 ヴォルテンさんの言葉に付け加えるように話を続けたリードさんが、焚き火の傍から立ち上がると、私が腕を伸ばして示した方向に目を凝らす。

 直ぐに、ヴォルテンさんがリードさんの傍に立つと同じように暗闇に目を凝らした。


 「ミーナは何か分からないの?」

 「今までに出会ったことが無いって事だけ……。結構な大きさだよ。枝を折ったもの」

 「ミーナの周辺感知はどれぐらいの距離まで可能なの?」

 「旅を始めるころは、100D(30m)程だったけど、この頃は300D(90m)位に上がってる。夜なら更に遠くまで分かるの。たぶん1M(150m)位じゃないかと思ってるけど」


 私の目には、まだ近づいてくる生物の姿が見えない。半月が1つ出ているから、1.5M(220m)先まで見えるんだけど……。

 姿勢の低い生物なんだろうか? ムカデやサンドワームは嫌だな。でも、そんな生物なら枝を折るだろうか?


 「あれか?」

 「あれらしいな。動きは鈍そうだが倒せるのか?」


 そんな声に私とキャシーさんが立ち上がって2人の傍に行くと、私が腕を伸ばした方向を眺めた。

 

 「何あれ!」

 「バリアントの変種だろうな。だいぶ平らに崩れてる。だが、核があのように露出してるとなればたやすく倒せるんじゃないか?」


 大きさはベッドの蒲団ぐらいで、厚みもそんな感じに見える。蒲団の後ろの方に人間の頭より大きな核がポコンと乗っていた。

 危険な生物に見えないんだけど、ミーアお婆ちゃんは見掛けで相手を判断してはいけないと、いつも言っていた。


 「とりあえず俺達は【カチート】の中にいる。大型獣の突進でもある程度は耐えられるんだ。安心して明日の朝にでも考えよう。まあ、その時には既に消え去ってるかもしれないがな」

 

 リードさんの言葉に皆が頷いている。でも、私はちょっと不安だな。周囲に他の獣がいないってことは、あの生物がかなり危険って事だと思う。

 焚き火の傍に腰を下ろして、興味を無くして戻ってきた皆にお茶を入れる。これを飲んだら、横になろう。明日も1日歩かないといけないみたいだし……。


 体を揺すられて、目が覚めた。

 周囲はまだ薄暗い。こんな早くに……。目をごしごししながら周囲を眺めてびっくりした。あの生物が【カチート】の壁に張り付いている。


 「起きたか? 見ての通りだ。まだ【カチート】は続いているからとりあえずは安心だ。夜が明けたら急いで退散するぞ!」


 昨夜のスープを暖めて、平たいパンを1枚食べる。簡単だけどこれで十分だ。ポットに残ったお茶を同じように暖めると、皆で分け合う。カップに半分でも、無駄には出来ない。

 私がお茶を飲み終えると、キャシーさんが食器をまとめて【クリーネ】で汚れを落としバッグにしまい込んだ。


 「焚き火を、バリアントモドキの下に作るぞ。【カチート】を解けば、奴が焚き火の上に落ちるはずだ。その隙に逃げ出すから、キャシー達は荷物を早くまとめるんだ」

 

 急いで、薄い毛布を丸め込み、魔法の袋に詰め込んだ。装備ベルトを付けると、背中にクロスボウを背負って、リードさんが作ってくれた私の身長ほどの手槍を杖代わりに持つ。穂先は中指程の大きさだけど、とっさに投げられるだろうと言って渡してくれた。最初に使ってた杖よりも太くて少し重いけど、何となく安心できる。


 「準備は良いな。焚き火を大きくするぞ!」

 リードさんもカゴを担いで、槍を手に持っている。その槍の柄で、焚き火の火を新たに積んだ焚き木の方に移動させると、直ぐに大きな焚き火が出来上がった。


 「どっちに逃げるんだ!」

 「一旦北に向かって、小川を飛び越える。3M(450m)は全力で走れよ!」

 

 そう言って、リードさんがキャシーさんに向かって頷いた。

 キャシーさんが、私達全員に【アクセル】を掛けると、片手を高く上げて、【カチート】の障壁を解除する。


 ガシャ! と大きな音を立てて、障壁に張り付いていた生物が燃え盛る焚き火の上に倒れこんだ。焚き火に焼かれて激しく悶えている。


 「走るぞ!」

 リードさんの声に促されて、私達は急いでその場を後にした。

 夢中になってキャシーさんを追い掛ける。リードさんに【アクセル】っているのかな? そんな思いを抱くほど、軽々と斜面を走っている。その後ろに付くヴォルテンさんもそれなりに鍛えているみたいだ。

 問題は、キャシーさんと私なんだけど……。少しずつ遅れてきている。3Mはがんばらないといけないんだけど、足がだんだんともつれてくる。


 小川から突き出た石をポンポンと飛んで、対岸に渡り周囲の開けた場所で、やっとリードさん達が足を止めた。

 半M(75m)程に引き離された私達も少し遅れて到着すると、周囲を見ずに下を向いて息を整える。


 「リード、ミーナ達は俺達ほど体力が無いんだぞ!」

 「そうだったな。失念した。だが、この地は問題だぞ。あれを見ろ!」


 リードさんが腕を伸ばした先には、障壁にへばり付いていたあの生物達が数匹うごめいていた。

 

 「どうする?」

 「いまだに通信機は使えなかったという事は、更に先を探す外はないだろう。裾野は問題がありそうだから、更に山の斜面を進むしか無さそうだ。朝夕に望遠鏡で周囲を観察して煙が無いかどうか確認すればいいだろう」


 確かにそれ以外に探す手立ては無さそうだ。

 少しの間、休憩を取って、北東方向に足を進める。パンは数日分作ってあるし、水筒の水もたっぷりあるから、数日間は余裕を持ってアキトさんの痕跡を探すことに専念できるだろう。

 既に、エントラムズ王都を発って3か月近くになる。いまだにアキトさんを探すことが出来ないけど、きっとこの空の下にいることは間違いないんだから。

 


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