30話 混沌世界
崩壊しつつある世界。しかし、そこに住まう住人たちは一部を除き、その事実を知りはしない。
魔族が住まう混沌の地、魔国。
しかし、それはあくまで人間が広めた噂。
魔国は厳格な法で収められている法治国家である。
その頂点たる魔王には二種類ある。
法を順守する知性高き魔族。
そして、武に特化したどの魔族よりも強い存在だ。
前者は保守派、後者は武闘派、という違いはあれども、その根底にあるものは魔国の繁栄と平和といった信念。
その魔王を決める方法は国民による投票。
したがって能力だけあっても決して魔王にはなれない。
能力はあって当然、そこに人柄と魅力が無ければ魔王足り得ないのである。
現魔王トウキチロウは、人間の元勇者コウイチロウと面談を行っていた。
場所は謁見の間。魔王は玉座に、元勇者は跪いた状態だ。
そこに異物であるフリエンが混じっているのだが、追い出すのも面倒ということでコウイチロウに纏わりつかせたままにしておいたのはファインプレーであろう。
こいつは目を離すと何をやらかすか分からない淫魔であるからして。
「魔王殿、やはり、魔力を抽出して放逐するのも限度がある、と?」
「あぁ、もって一年。おまえの推測通りだ」
「そんなことよりも、みんなでエッチしましょ」
無論、異物の意見は無視された。
既にスケベしようや、の思考に支配されているフリエンは半裸状態である。
魔王を前にしてこのブレなさは、ある意味で大物か。
「大本を絶たねば明日は無いと思った方がいい。コウイチロウよ」
「やはり、神を討たねばならないか」
「私の○○〇を、みんなの××××で貫けば万事解決よ」
いよいよ、うるせぇ、ということで魔王は魔女討伐の際にちゃっかりついて来ていたローパーをフリエンにけし掛けた。
今は喘ぎ声を上げながらぬちょぬちょしている。
「んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「ろーぱーっ」
やっぱ、うるせぇわ、こいつ。
「それでだ。タカアキはどうなんだ?」
「彼は彼で動いている。でも、基本的に彼は他者を信じるスタンスで行動しているから」
「神をどうこうする気は無い、と?」
「いや、討つ気が無いわけじゃないと思う。その前に過ちに気付いてほしい、と願っているのだと思うよ」
それを聞いて魔王は呆れた表情を浮かべる。
「優し過ぎるな」
「それが勇者タカアキなんです。僕は厳し過ぎた。敵にも味方にも」
「俺は、そんなおまえが好ましいがな。優しいだけが良い、というわけではない。なんでも使いようだ」
「統べる者の言葉は違うな」
魔王は肩を竦め疲れた表情を見せた。
「担ぎ上げられただけだ。俺としては自堕落な生活を続けたかったのだが、前の魔王がヘタレすぎてな」
「うっ―――魔国に攻め込んだことは謝罪する」
「別に構わん。アレはアレで愉快であった」
実はこの二人、殺し合った仲である。
急遽、魔王の代わりに勇者と戦うことになったトウキチロウ。
そして、勇者たるコウイチロウ。
両者は、天変地異かと錯覚させるほどの激闘を七日七晩繰り返し、遂に決着がつかぬまま痛み分けとなる。
この戦いによって、流れ弾がケツに当たり前魔王は崩御。
勇者との戦いに置いて一進一退を繰り返した当時のトウキチロウが魔王代理を務め、そのまま選挙へと推薦。
大差という選挙結果にて魔王へと就任することとなる。
「とにかくだ。こちらで星の魔力を抜き、時間稼ぎを行う。猶予は一年。その間に神を始末するなり、なんなりしない限り、この世界は爆発オチを迎える」
「猶予は無いに等しいな……分かった。僕は神を殺す方向で動こうと思う」
「うむ。そうそう、勇者タカアキに伝えておいてくれ」
「なんと?」
「今度、美味い酒でも酌み交わそう、と。無論、おまえも共に、だ」
「心得た。では」
コウイチロウはモザイクの塊の一部を掴み退室した。
「ひぎぃっ! おっぱいを雑に掴むだなんてっ!?」
「ろーぱー」
タカアキの島にローパーが一匹追加されたのは言うまでも無く。
「……神を殺すか。それは偽りの勇者コウイチロウには厳しいやもしれぬ」
魔王トウキチロウは神によって転生させられた者は、神に逆らえぬよう改造を施されている事を理解している。それを除去することの困難さもだ。
だが、それを伝える事は出来ない。そのように作られているのだ。
しょせんは、神の掌の上で踊らされる哀れな人形。
転生者とはそういう存在。
しかし、タカアキは違う。
あれは神に逆らえる存在。
神を穿つ者。
真の勇者は縛られないのだ。
それを縛るとするなら、自らが定めたルールか。
「だが、偽りの勇者にも役目はある。コウイチロウ、おまえはそれを理解しているのだな」
魔王トウキチロウは虚空に手を伸ばした。
その手が途中で消えた、かと思えば次の瞬間には豪奢な瓶を手にしている。
瓶の蓋を開け、直に口を付けて中の液体を流し込む。
その液体はブランデー。度数は40度。
芳醇な香りと深いコク、蕩けるような甘さのバランスが程よい名酒である。
無論、その分、値も張るが――――魔王はそれを雑に飲み干した。
場所は移りタカアキの島。
無数ある島の一部。小さな島。
本島となるそこから離れた位置に存在する島にて謎の珍事が発生していた。
無人島であるはずのそこに長蛇の列。
一様にリュックサックを背負った者たち。
その殆どは根暗そうな男性ばかりであるが、中にはまさかの女性の姿も。
その列の最前列には無数の屋根付きの屋台。
そこで何を売っているのか。
積み上げられているのは書物だ。
厚みは殆どない。しかし、価格は一般的な書物の倍という不条理。
だが、それが飛ぶように売れる。
「魔法少女ぴかりん・ぬちょぬちょ地獄変二巻の販売はこちらでーす」
「機動美少女・Hカンガルー総集編の販売はこっちだよー」
「漢伝説・ウホーキングのフィギュアはこっちだ! 並べ並べ!」
「むっちりお姉様シリーズ! 残りわずかです!」
「整理券をお持ちの方は無理をして並ばないでください! 水分補給はこまめにっ!」
「コスプレ参加の方はこちらのテントにお越しをー」
そこは異界であった。
ファンタジー世界に突如として誕生した暗黒の世界。
混沌とエロス、様々な欲望が形となって現れる狂気の世界。
そのどうしようもない欲望の香りに引き付けられる、そっち系の人々。
男女など関係ない。
その両方を満たす欲望の品が、ここには溢れているのだ。
しかし、それを飲み干す勢いなのが暗黒の住人たち。
地球での戦闘民族たちがそうであるように、ここでも自称魔法騎士は鎬を削る。
販売側、購入側問わず、真剣勝負であるのだ。
ここではタカアキたち以外にも外部より、己の欲望を具現化し持ち込む者が多数存在する。
彼らが手掛けた作品はタカアキに決して見劣りしない。
欲望に忠実な作品は異世界であっても十分過ぎるほどに通用するのである。
加えて、タカアキの手掛けた作品を間近で見たのであればインスピレーションを刺激され、王道を外れて暗黒面に突入するのは必至。
「クッコロ騎士の奇妙なオーク、残りわずかです!」
「どエロゴン・ボールDS、完売ですっ! ありがとうございましたー!」
「触手の迷宮をお求めの方は次回をおまちくださーい!」
「触手嬲り・フィオナのフィギュアをお求めの方はこちらでーす!」
恐ろしいことに、これらのあっち系の作品を手掛けているのは全員が美女、美少女という事実。
そして、それに堂々と群がるおっさんたちは歴戦の強者の風格を纏っていた。
正しく、ここは戦場。
夢と希望と、欲望と絶望が入り混じった混沌世界。
「くそっ! ぶひぶひガール・昇天! 買い損ねたっ! 」
「でっぷり若奥様の3巻だけ売ってねーぞ!?」
「馬鹿野郎! 開始10分で完売だ! 他を狙え!」
最早、普通に列に並ぶだけでは狙った獲物は獲得できない。
彼らはパーティーを組み、戦略的に購入を行わなくてはいけない事を理解していた。
「今年も盛況で何よりです」
「んだねー。あ、毎度あり―」
タカアキは年に一度の宴を満喫していた。
彼が手掛けた薄い本、ドスケベフィギュア共々、販売開始より30分と持たず完売。
それなりの量を用意したのだが、タカアキの予想を遥かに上回る数の客が買い求め彼らの手へと渡って行ったのだ。
ターラはその隣で、タカアキの健全なフィギュアを販売しつつ、自身が作った剣を販売。
タカアキほどの勢いは無いものの、基本に忠実な作り方と、その使い易いバランスが噂で伝わり、たった今、最後の一本が買われていった。
値段設定も一般価格よりも低かったため、サブウェポンとして購入してゆく者が多かった。
「ほーら、ご立派様シリーズだよー。女の部分を的確に虐める玩具だよー」
エルトロッテは明らかにモザイク必至の動く棒を販売していた。
それに群がる美女、美少女という光景は世も末を想起させる。
しかし、これが現実。
加えて、エルトロッテが手掛けるこのシリーズは高性能で値段も手頃。
販売時期がこの日以外ない事もあってか、今や幻の一品とすら言われていた。
そうもなれば、使用しなくとも一本は持っておきたいというのが心理であろうか。
んなわけあってたまるか。いかがわしい玩具やぞ。気をしっかり持て。
タカアキはこの宴を満足げに見渡し、憂いの一つが無くなったことを実感する。
「ごしゅじん、いかが、いたしました?」
タカアキの頭の上に陣取っていたちゅん子がタカアキに声を掛けた。
彼のセンチメンタルを感じ取ったもよう。
「この世界を護ろうとする気持ちが高まった、と言ったところでしょうか」
「ごしゅじんは、ゆうしゃですからね」
「はい、私は勇者ですから。この世界を救っちゃいます」
タカアキの視線の先にはリアル魔法少女となったゼステルの姿。
「お客様っ! コスプレイヤーにお触りは厳禁ですっ!」
「もっと離れてっ!」
恐ろしいほどの人気であった。
当の本人は今回初参加。
というか強制参加みたいなものだった。
「ひえぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
まさか、ここまで熱を向けられるとは思っていなかった彼女は、羞恥と混乱とで目が回っている。
そのグルグルお目めが余計に野郎どもを狂わせる。
「ペタン娘! 最高!」
「癖っ毛、ビューリフォー!」
「デカケツが俺を狂わせる!」
「尻向けて、尻! んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
この日より、ゼステルは伝説のコスプレイヤーとして認知されることになったとか。
かくして、憂いを晴らした勇者タカアキはいよいよ島を後にする。
島をセドックに任せ、彼が向かうは神なる存在、それが住まう場所。
いよいよ世界の命運がかかった大一番が始まらんとしていた。




