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【書籍化】秋津皇国興亡記  作者: 三笠 陣@第5回一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞
第四章 半島の暗雲編

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73 半島の電信問題

「暇よ!」


 倭館の一室に、浦部八重の叫びが響いた。心なしか、室内の空気がピリピリと帯電しているようにも感じる。


「まあ、敷地外への自由な出入りは禁じられていますからね」


 宵は、水干姿の少女をちらりと見遣る。そしてすぐに、手元に視線を落とした。北国の姫の手元には、分厚い和綴じの資料があった。

 彼女は、さっそく深見館長に頼んで倭館内の資料を閲覧する許可を得ていたのである。

 歴代の倭館館長は、日記を付けることが義務づけられていた。つまりは、執務日誌である。これら「館守日記」と呼ばれる執務日誌を中心とする公文書が、各倭館には百年単位で保管されているのであった。

 歴史家の観点から見ても、第一級の史料群である。

 執務日誌の複写は内地の外務省書庫に収められているが、倭館の資料は原本である(ただし、古い時代の日誌については、落雷などによる火災や乱による放火で燃えてしまい、原本は残されていない年のものもある)。それらを宵は取り寄せて、読んでいたのであった。

 退屈そうな八重とは対照的に、宵はむしろ資料の閲読に忙しいといえた。


「八重さんも読んでみませんか?」


「……遠慮するわ」


 八重はちらりと資料の分厚さを確認して、そう言った。


「そうですか。なかなか面白いのですがね」


 自分の思いを共有出来なかったからか、宵は少しだけ残念そうであった。


「いや、それを面白いと読んでいられる姫様の方が不思議だと思うんだが」


 一応、表向きは八重と共に宵の警護役ということになっている鉄之介が、部屋の柱に背を預けながら言った。心なしか、呆れた表情である。

 皇室に忠誠を誓う浦部家の娘である八重はともかく、結城家家臣の鉄之介は宵に対する言葉遣いが無礼ともとられかねないが、これは宵が許可をしていた。

 そもそも、この陰陽師の少年は景紀に対してかなりぶっきらぼうな口を利いている。陽鮮行きに際して自分と接する機会も多いであろうから、宵は景紀と同じように私的な場面ではそうした口の利き方を許すことにしていた。


「あなた方陰陽師だって、呪術書を読まれるでしょう? それと同じだと思いますが?」


 不可思議そうに、宵は首を傾げた。

 古代から伝わる呪術書は漢文体で書かれていることも多く、読むのにはそれなりに知識が要る。それを読みこなしている陰陽師の二人がこの程度の資料を前に辟易することに対して、宵は矛盾しているような感覚を抱いていたのだ。


「あのなあ姫様、俺は好きで読んでいるんじゃない」鉄之介が言う。「あくまで必要だから読んでいるんであって、楽しいとかそういうのは二の次なんだ」


「まあ、そういう人もいますか」


 宵としても、強いて彼らに資料を読ませたいわけではなかったので、それで納得することにした。価値観など、人それぞれだろう。秋津皇国と陽鮮王国の価値観が違うように。

 また再び、宵は資料を読むことに没頭した。

 今、彼女が読んでいる資料は、前回の電信敷設交渉に関する館守日記であった。

 東萊と皇国間を結ぶ海底電信の敷設交渉が行われたのは、五年前。当時は、すでに開化派の現国王・仁宗が即位していた。

 攘夷派であった先代国王・康祖と違い、彼は皇国への通信使の派遣に際して、使節の者たちに皇国の進んだ文物を学んでくるように命じていた。それまで通信使の役割はあくまで交易と秋津国大君(皇主)への挨拶程度の役割に限定されていたにも関わらず、である。

 当時の皇国ではすでに鉄道の敷設が進み、電信網も全国的に整備され、さらには海底電信線によって植民地や海外諸国との迅速な通信が可能となっていた。

 彼ら通信使は帰国後、仁宗に対して国内の通信事業を始めるように力説し、国内の近代化が急務と考えていた国王の命によって郵便、電信などの通信事業が開始されることになったのである。

 とはいえ、陽鮮は財政的な理由から自力で電信網を整備することは不可能であった。

 攘夷派国王であった先代・康祖が即位する以前、陽鮮の王家は幼王が相次いだ結果、幼王の摂政となった母親と外戚の一族が権力を握る「勢道(セド)政治」が行われて国政が混乱していた。賄賂は横行し、民衆への苛斂誅求が続く時代であった。さらに悪いことには、農作物の不作、疫病の流行なども続き、国内情勢は不安定化した。

 そのような中で即位したのが先代国王・康祖であり、彼は勢道政治によって混乱した国政を立て直そうと奔走した。門閥勢力以外から康祖自らが選んだという王后も、そんな国王を献身的に支えたという。

 康祖は勢道政治による門閥主義を否定し、実力による官僚の登用を行った。それまで税を免除されていた特権階級にも課税するなど税制も改革し、新国王を陽鮮の民衆は歓迎したという。

 対外的には攘夷政策をとり、国内の十字教徒を徹底的に弾圧、一万人近い教徒を処刑し、二度の外国船来寇も撃退した。こうした康祖の鎖国攘夷政策は「衛正斥邪」運動、あるいは「衛正斥邪」思想などと呼ばれる。これは、正学(儒学)を衛り、邪学(洋学、十字教など)を斥けることを意味する言葉である。

 勢道政治によって弱体化していた王権は、これによって再び強化されつつあった。

 しかし、康祖が王権の強化に熱心であったことが、税制改革にも関わらず財政を悪化させる原因となってしまったことは皮肉であった。

 康祖は大火で焼けたままになっていた景徳宮の再建(それまでは帯城内の離宮が仮の王宮となっていた)に乗り出すと共に、夷狄撃退の記念と自らの衛正斥邪思想を国民に示すための石碑「斥和碑」(夷狄との和睦を縛める内容から)を全国に立てたのである。

 特に王宮の再建は財政を悪化させ、資金調達のために新たな税を創設し、さらには質の悪い貨幣を大量に発行して物価上昇を引き起こしたのであった。当然、増税と物価の上昇は庶民の生活を苦しめることになる。

 なお、中華圏経済は数百年にわたって銀本位制がとられ続けている。銀の主な供給先は世界有数の銀産出量を誇る皇国であり、半島も古代から鉱産資源の地として知られていたものの、陽鮮王国では鉱山はすべて王室の所有物であり、さらにはその開発に消極的であったことから自国で十分な量の銀を採掘出来ずにいた。銀の供給量が不足しているため、陽鮮国内の物価は今に至るまで安定の兆しを見せていない。

 そして、その後、康祖は最愛の王后の死を悲しんで息子に譲位し、そうした財政難は現国王・仁宗に引き継がれることになったのである。

 皇国が献上品の回賜として電信敷設権を得たのは、こうした財政難に理由がある。

 しかし当時、東萊-帯城間の電信までもを整備することを目論んでいた皇国に対し、陽鮮側が難色を示していた。

 朝廷内には先代国王の時代に登用された攘夷派官僚などが未だ影響力を残しており、秋津人が電信敷設を理由に倭館以外で活動することに対し強硬に反対したのである。かといって、陽鮮には自力で電信網を整備・維持するだけの資金もなければ技術もなかった。

 結果として、陽鮮側が認めたのは東萊までの電信敷設であった。これについても、東萊倭館の敷地内に海底ケーブルを陸揚げし、そこに通信分局を設置することだけを許可し、倭館敷地外で秋津人が電信敷設工事をすることを認めなかった。

 ただし、これだと陽鮮側が電信を利用出来ないため、通信分局には陽鮮人役人が常駐することとなった。この役人は、電信を利用して東萊倭館にもたらされる外国情報を逐一、東萊府に報告することを命ぜられていた。

 敷設のための資金も一切負担せず、その利用だけは求めてくる陽鮮の交渉姿勢については皇国国内でも批判があったが、陽鮮側が秋津皇国への対価として電信網の三〇年間の独占的使用権を認め、さらには同じく三〇年間は陽鮮が他国との間に官線(陽鮮政府の電信線)を作らない、国内の電信網整備に関して皇国以外の国の政府・会社を利用しない、また陽鮮は皇国の電信網と競合するような電信線を今後三〇年は架設しない、他者にも許可してはならない、などの、今後の陽鮮国内での独占的な電信敷設権に含みを持たせる約条を仁宗国王に発出させることで妥協した。

 陽鮮が皇国に対して独占的な電信敷設権を与えることに対しては陽鮮の朝廷内でも議論を呼んだものの、約条を拡大解釈(約条は陽鮮国王が倭人たちに与えたものであるため、解釈権は陽鮮側にのみあるとの見解があった。また、陽鮮側が一方的に廃棄することも可能という見方もある)することで国内の反対派を納得させた。

 すなわち、今後三〇年以内に陽鮮が独自に電信の技術を学び、それによって自国の商人に電信線を敷設させれば、約条にある官線敷設禁止条項に抵触せず、また競合線の架設禁止に関しても現状ではそもそも秋津人が国内で自由に活動することは出来ないので問題が生じないとしたのである。

 執務日誌では、こうした陽鮮朝廷内の動向について注意を要する旨、外務省に報告を行ったと記されている。


「やっぱり暇だわ!」


 堪らずに、八重がまた叫んだ。

 またちらりと、宵は顔を上げた。

 この少女は自分とは正反対で、静かに過ごすということが苦手なのだろう。その意味では、実質的に倭館に閉じ込められている現状は、彼女にとって苦痛なはずだ。


「鉄之介、外で術比べするわよ!」


「おい、またか!」


 強引な口調で言う八重に、鉄之介が鬱陶しそうな叫びを上げた。「またか」と言うあたり、この少年は頻繁に八重との術比べに付き合わされているのだろう。

 それはそれで互いに切磋琢磨出来て良いことだろう、と宵は完全に他人事の思考で思う。


「このままじゃあ、体が鈍ってしょうがないじゃない」


「そういう問題じゃないだろ」


「何よ、男の癖に負けるのが怖いの?」


 ふん、と鼻を鳴らした八重は腕を組んで胸を反らせた。


「今のところ、私が連勝しているものね!」


「そのうち俺が連勝してやるさ」


 ぶすりとした口調で鉄之介が反論した。


「あら、じゃあ今すぐ連勝して見せなさいよ」


 好戦的な調子で、挑発するように八重が言う。


「ちっ」


 鉄之介は舌打ちをして悪態をついたが、八重を嫌っている様子はない。


「いいぜ、やってやろうじゃないか」


「ふふん、ようやくやる気になったみたいね! そうじゃないと、つまらないわ!」


 八重は目を輝かせていた。きっと、実力を競える同年代の存在が嬉しくて仕方がないのだろう。


「じゃあお姫様、ちょっと鉄之介を借りていくわね」


「おっ、おい! 無理に引っ張るなって!」


 そのまま鉄之介の腕を引っ掴んだ八重は、揚々とした調子で障子を開けて、廊下へと消えていった。

 少年の方も、抗議しつつも嫌がる素振りを見せていなかった。八重に対する態度こそぞんざいだが、彼は彼で八重に対する親しみ混じりの対抗心があるようだ。

 要するに、子供のじゃれ合いのようなものだろう。

 二人の関係性は、どちらかといえば八重が主導しているように思える。

 彼女の方が年下であるが、振る舞いは姉のようである。景紀も言っていたが、浦部伊任から呪術の教えを請う者として、自分を姉弟子、鉄之介を弟弟子と思っているのだろう。

 きっと、だからこそ鉄之介もあの少女に振り回されることを良しとしているかもしれない。年下のくせに姉ぶろうとする八重という存在を、景紀に奪われてしまった姉に重ねているのだろう。

 それが健全な人間関係といえるのかは判らないが、少なくとも景紀と冬花という関係を知っている宵からすれば、それはそれで一つの絆の形だろうと思う。


「さて」


 ぱたん、と宵は栞を挟んで資料を閉じた。

 いつかと同じく騒がしい呪術合戦が始まるだろうから、景紀に報告しなくては。


  ◇◇◇


「糧食は非常用のも含めて、十日は持ちそうか」


 景紀は、蔵の物資と備蓄の帳簿とを交互に見ていた。


「ええ、単純計算ではそうなります。もともと、陽鮮国内で乱が発生した際には情勢が落ち着くまで籠城することを想定していたようですから。また、平時ならば陽鮮側から随時、野菜などの生鮮食品が購入出来ますので、政変が起こらない限りは日常の食糧には困らないでしょう」


「まったく、軍の指揮と兵站の管轄が分離しているはやり辛いな。出来れば、俺の方で一本化したかった」


「景くんらしからぬ積極的発言ですね」おかしそうに貴通は笑みを浮かべる。「面倒事を積極的に背負い込もうとするなんて」


「自分の運命を他人任せにするほど、俺は手抜きじゃないぞ。それに、そういう兵站に関する計算、お前得意だろ?」


「景くんの幕下である以上、景くんが軍を率いた時に備えてそうした後方支援に関する能力を磨いておくのは当然のことですから」


 恭しく、それでもどこかおどけたような調子で、貴通は頭を下げた。


「こいつめ」


 景紀も、そんな同期生の動作につられて笑ってしまった。


「……あと、弾薬については献上品や倭館での生活に必要な物資に紛れ込ませて運び込んだが、補給が望めないとなると少し不安だな」


「一応、倭館内にも自衛用の武器弾薬が備えられていますが、銃は前装式銃です。実包の方は三〇〇〇発。弾薬については互換性がありますが、小銃の方は統一性がとれません。これは外務省警察に使わせましょう」


「火力の足りない分は、冬花たち呪術師の術式で何とか凌ぐしかないか」


「ただ、相手側に術者がいないとも限りません。陽鮮にも、宮廷呪術師はいるようですから」


「それと、龍兵だな。上から爆弾なんかを落とされたら、拙いことになるぞ」


「そこはやはり、冬花さんたちの結界でなんとかしてもらうしかないですね。まあ、軍監本部の得た情報だと陽鮮軍の龍兵はそれほど数が多くなく、龍兵すべてが国王直轄であるようですので、そこまでの脅威にはならないかと」


「まあ、東洋社会だと、龍は皇帝の象徴だからな。それに騎乗するのは畏れ多いという思考が働くんだろう。逆に西洋だと、龍は退治されるべき邪悪の象徴。その所為で魔術師狩りが猖獗を極めていた中世には、翼龍もあちこちで狩られていたらしいからな。平気で翼龍を乗り回すうちの国が異常なんだが」


 この結果、皇国では翼龍改良運動が長年にわたって行われ、皇国軍の軍龍は体格や飛行距離などの体力の面で世界で最も優秀と評価されるに至っている。これは、かつて皇国が国を挙げて西洋から外国種の馬を輸入して馬匹改良運動を行い、強壮な軍馬の育成に努めていたこととは好対照である。


「そう考えると、本当に我が国って華夷秩序とか諸々を無視して好き放題やってますよね」


 陽鮮の人々にはあまり聞かせられない会話を交わしながら、二人は皮肉そうに笑う。

 と、突然、蔵の外で電撃の音が鳴り響いた。


「……」


「……」


 二人は、揃って顔を見合わせる。


「これは……」


「まさか……」


 どちらも、音の発生源に心当たりがあった。


「……景紀様、こちらにおられましたか」


 すると、蔵の入り口に宵がやってきた。


「八重さんが、退屈を持て余して鉄之介さんに術比べを挑んでおります」


「あー、何となくどこかで退屈を持て余して爆発するんじゃないかって思ってた」


 投げやりな調子で、景紀は言った。


「如何いたしますか?」


「下手に押さえつけてもなぁ。呪術師としての勘を鈍らされても困るし。とりあえず、様子を見に行くか」


 少しだけ溜息混じりに呟いて、景紀は倭館の庭へと向かった。


  ◇◇◇


「いいぞ、雷の嬢ちゃん! もっとやれ!」


「おい小僧! 負けるんじゃねぇぞ! それでも秋津男子か!」


 驚いたことに、景紀たちが庭へ向かうと、視察団の兵士たちが野次馬を形成していた。

 口々に、鉄之介や八重をはやし立てている。


「あっ、団長殿に姫様。いいところに」


 景紀らの姿を確認した若林曹長が、にやりとした笑みを浮かべた。


「どちらが勝つと思われますか? ちなみに、現状ではあの雷の嬢ちゃんに賭ける奴が多いですが」


「おいおい、もう賭けが成立しているのか?」


 流石に呆れた口調で、景紀は言う。まだ術比べが始まって、それほど時間は経っていないだろうに。


「ええ、自然発生的に」


 特に悪びれず、若林曹長は答える。


「まあ、あれも団員たちにとっちゃいい娯楽か」


 とはいえ、景紀としても咎めるつもりはない。八重が退屈を持て余しているとのことだったが、それは多かれ少なかれ団員たちも感じていることだろう。

 町へ繰り出すことが出来ないため、飲み屋や花街に行くことが出来ないのだ。

 人間誰しも息抜きが必要であるが、特に軍においては士気の維持や規律を保つためにもこうした気晴らしは絶対に必要であった。

 術比べ見物とその勝敗を賭博の対象とすることは、多少なりとも兵士たちの鬱憤を晴らすことに繋がるだろう。

 それに、いざという時のためにも、鉄之介や八重の実力を団員たちが見る機会があることは悪いことではない。それだけ、兵士たちの少年少女術者への信頼が深まるし、安心材料ともなる。

 だから景紀は術比べも賭博も、止める気などまったくなかった。


「曹長、上手くやっておいてくれ」


 つまり、賭博による乱闘などが発生しないように下士官として兵卒を管理出来るならば、黙認すると景紀は言っているわけである。兵卒の統率は、下手に将校が口を出すよりも、下士官に任せておいた方がいい。


「理解のある上官で、本当に助かりますな。で、結局、どちらに賭けるおつもりで?」


「冬花」


 即答で、景紀はそう言った。


「術者なら、俺のシキガミが一番だ」


 まったく迷いない口調であった。


「ははっ、中佐殿、あなたは面白い方ですな!」


 信頼とも惚気とも受け取れる上官の言葉に、この下士官は楽しそうに笑い声を上げた。


「で、その冬花はどこに行ったんだ?」


 弟をたしなめるべく現れそうなものだが、野次馬の中に冬花の姿が見えなかった。


「あちらに」


 そう言って宵が指差したのは、屋根の上であった。


「ん? ……ああ」


 景紀が視線を向ければ、屋根の上に腰を下ろした冬花が足に肘を乗せて頬杖を突いていた。呆れ果てた視線を、庭で術比べをする弟とその許嫁(候補)に向けている。

 主君からの視線に気付くと、シキガミの少女は軽く溜息をつく仕草をして、首を左右に振った。

 もう勝手にしろ、とでも言いたげな投げやりな様子であった。


「はははっ……」


 そんなシキガミの仕草に、景紀は苦笑と共に乾いた笑い声を上げるのであった。

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『秋津皇国興亡記』第1巻
― 新着の感想 ―
[良い点] 八重と鉄之助さん... ええ感じよのぉ [一言] ははあ、なるほど。西洋では翼竜は忌避の対象であり、翼竜に関しては皇国が世界的に高い水準であると... ならば、西洋で「軍用」飛行機の芽が刈…
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