表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】秋津皇国興亡記  作者: 三笠 陣@第5回一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞
第十七章 六家興亡編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

365/365

第1巻発売記念SS5 シキガミのお叱り

本編開始前の景紀と冬花のお話。書籍版第1巻23話の内容と関連。

「景紀、まぁたこんなに散らかして!」


 結城家皇都屋敷の奥御殿に、冬花の憤懣やるかたない声が響き渡っていた。


「書庫の図書(ずしょ)掛が困って、私のところまで来たのよ」


「しょうがないだろ。読み込んどかないとならん資料が多いんだから」


 言われた方の景紀は、たいして意に介していない様子でそう言い返した。書物から顔を上げもしない。

 そんな彼の周囲には、畳の上に積み上げられたり、広げられたままの書物が大量に散乱していた。部屋の中は書物によって散らかり放題という有り様であり、到底、六家たる結城家嫡男の居室とは思えない。


「とりあえず、他の家臣も執務参考で使いたいって言う資料があるらしいから、それだけでも持っていくわよ」


 冬花は主君の許可も待たずに部屋の中に入ると、書物の山を掻き分けながら目的の資料を探した。

 まったくどうしてこの人はこうなのだろうとシキガミの少女は思う。

 幼い頃から、景紀はよく書物を読む少年だった。だけれども、それは決して行儀の良いものではなかった。

 武家の少年なら書見台を用い、その前で背筋を伸ばして読むものだろうに、景紀は一切そうした態度を見せないのだ。

 子供の頃から興味のある書物を片っ端から引っ張り出してきて、自分の周囲に山を築いていく。そんな少年だった。

 もちろん、流石に家臣団たちの目があるところではちゃんとした嫡男としての姿を演じているが、自室ではこれである。

 だからこそ景紀は書庫から持ち出した資料を自室に運び込んだのであろうし、逆に探している資料が持ち出されているからと他の家臣たちが困って冬花のところに相談にくる訳である。

 景紀の父で現当主の景忠公が病に倒れ早一ヶ月。

 景紀はその間、結城家の当主代理として様々な政務や他家との会談、そして年末から開かれる列侯会議に臨まなくてはならない。数ヶ月後には、佐薙家の姫君との婚儀も控えている。

 だから景紀は時間さえあれば各種資料を読み込んで、政務に必要な情報を頭に叩き込んでいるのだ。

 冬花も、それは理解出来る。それは理解出来るが、この散らかり様はないと思う。

 ようやく必要な資料を見つけて引っ張り出すと、冬花は急ぎそれを図書掛に返却して、その資料を必要とする家臣にもその旨を伝えた。

 まったくシキガミ使いの荒いご主人様である。


「んっ、あんまり根を詰めすぎると体によくないわよ」


 だが、そんな思いとは裏腹に、奥御殿に戻った冬花は主君たる少年にお茶と羊羹を差し出していた。


「お、おう」


 突然差し出された茶菓に、景紀は少し驚いたようだった。それだけ、資料を読み込むのに集中していたらしい。


「悪いな、気ぃ遣わせちまって」


「別に。景紀が書物を散らかすのって、子供の頃からだし」


 先ほどは叱り付けた手前、わざと素っ気なく冬花は答えた。

 冬花だって、本当は判っているのだ。シキガミ使いが荒い以上に、景紀は自分自身に激務を強いているのだと。

 部屋の散らかり具合には冬花の性格的に我慢ならないものがあるのは確かだし、だからこそ幼馴染として叱り付けたくなってしまうのも本音である。

 しかしそれ以上に重責を担うことになった景紀のことが心配なのだ。

 でも、それを素直に伝えるのが気恥ずかしいから、ついつい叱ってしまう自分がいる。我ながら面倒な性格をしていると思う。


「まったく、世話の焼けるご主人様なんだから」


 そうして、やっぱり素直になれないシキガミの少女は、主君を優しく罵倒しておくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『秋津皇国興亡記』第1巻
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ