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【書籍化】秋津皇国興亡記  作者: 三笠 陣@第5回一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞
第十七章 六家興亡編

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第1巻発売記念SS4 少年の横顔

書籍版第1巻24話で皇室博物館を見学中の景紀を見つめる冬花の話。

 上園恩賜公園にある皇都皇室博物館を巡る景紀の横顔を、冬花は少し後ろで眺めていた。

 冬花の主君たる少年は、宵姫を案内しつつ、自らもまた陳列された数々の宝物(ほうもつ)に見入っているようであった。

 茶器の特別展を案内している時には、他の来館者の邪魔にならない声で、その来歴などを宵姫に語っていた。

 特別展に展示されている品々の中には、結城家が貸し出しているものもある。解説文には書かれていない部分について語る景紀の姿は楽しそうであったし、それを宵姫もまた興味深そうに聞きながら茶器に見入っている。

 常設展で刀剣が展示されている箇所では、景紀自身が機能美に満ちた名刀や豪奢にしつらえられた蒔絵の鞘、象嵌(ぞうがん)の装飾も鮮やかな鍔に目を輝かせていた。

 そんな純粋に博物館を楽しんでいる少年そのものの横顔を、冬花は微笑ましく見守ることにした。

 この時間を、少しでも彼に楽しんでもらいたかったのだ。

 景紀は、乳兄妹(きょうだい)として共に育ってきた冬花から見ても大人びた少年だ。

 別に、背伸びして無理して演じているというわけではなく、自然とそういう雰囲気をまとえてしまうのが彼の凄いところだと思う。

 でも、それが結城家嫡男としての重責を背負わされる中で身に付いてしまったものだと考えると、どこか悲しみを覚えもする。

 景紀は、年相応であることを許されなかった少年なのだ。

 だから彼が自分の前で年相応の振る舞いをしているのを見ると、冬花は安心する。もちろん、駄々っ子のように隠居願望を口にするのはちょっとどうかと思っているが、それもまた彼の背負わされた重責故の反動だろうとは理解している。

 このひとときが、景紀にとって少しでもその重責を忘れられる時間になるのならば、わざわざ丸一日予定を開けて皇都見物に繰り出した甲斐があったというものだ。


「冬花の嬢ちゃんも、楽しそうやなぁ」


 冬花と共に景紀の護衛として控えている新八が、どこかからかうように言ってきた。


「だって、あんな若様の顔、久しぶりに見たから」


 展示されている品々ではなく景紀の横顔をずっと眺めて楽しんでいる自分は、確かにからかいの一言も言いたくなる人間なのだろう。

 もちろん、景紀が楽しそうにしている相手が自分ではなく宵姫だということに、冬花はもやもやとした感情を覚えないでもない。でも、自分が相手では景紀はあそこまで少年のように目を輝かせはしなかっただろうとも思うのだ。

 共に展示された品々に興味を抱き、共に目を輝かせられる相手だからこそ、景紀はあんなに楽しそうにしているのだろう。

 なら自分は、その横顔を眺めるだけで十分満足だった。

 そうしていつしか、閉館時間になっていた。


「今日は丸一日付き合わせちまって悪かったな、冬花」


「いいわよ。私も、十分に楽しめたから」


 少し申し訳なさそうに労ってきた景紀に、冬花もまた先ほどの彼と同じように年相応な少女の笑みを見せるのだった。

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『秋津皇国興亡記』第1巻
― 新着の感想 ―
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