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【書籍化】秋津皇国興亡記  作者: 三笠 陣@第5回一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞
第十三章 相克の皇都編

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247 皇都中央駅の戦い

「てっー!」


 蒸気の唸りを上げながら皇都中央駅の停車場に突入した急造装甲列車から、多銃身砲の掃射が駅舎内に加えられた。

 機関車前方の砲車だけでなく、歩兵部隊を乗せた後方の客車・無蓋貨車にも搭載されていた多銃身砲が一斉に火を噴いたのである。横一列になって射撃を開始した多銃身砲の威力は圧倒的であった。

 降車を阻止すべく停車場に集結しつつあった反乱軍将兵を、一気に薙ぎ払っていったのである。反乱軍将兵たちは即座に駅舎内の通路へと後退した。

 その一瞬の間隙を、景紀は見逃さなかった。


「突入せよ!」


 景紀が軍刀を振りかざして勢いよく停車場に降りると、貴通や宮崎大佐、独立歩兵第一連隊の将兵がそれに続いてた。「万歳!」の叫びと共に、白襷をかけた無数の結城家領軍将兵が赤レンガ造りの駅舎内へと飛び込んでいく。

 景紀、貴通の率いる部隊は北側を、宮崎大佐率いる部隊が南側を担当する。

 皇国最大規模の駅であるために内部構造は複雑であるが、景紀や貴通が昨夜の内に簡易的な見取り図を部隊に配布していた。これにより、駅舎内で迷う兵士を一人でも少なくしようとしたのである。

 もう何度もこの駅を利用している景紀や貴通は、流石に迷うことはない。

 停車場から北側乗車口へと向かう。赤レンガ造りの駅舎の中でも特徴的な南北一対の丸屋根の下にある吹き抜け空間が、北側乗車口であった。

 停車場から続く通路を駆け、その中で白兵戦が発生する。

 景紀は出会い頭に飛び出してきた敵兵を軍刀で斬り、同じく白刃を振りかざしてきた将校の刀を己の刀で受け止める。その隙に貴通がその将校に刺突を繰り出して仕留めていく。

 瀟洒な内装の施された皇国最大の駅は、剣戟と銃撃の音で満たされていた。

 優美な装飾の彫られた壁を銃弾が抉り、磨き抜かれた床を血が流れていく。


「進めぇ!」


 軍刀で反乱軍将校を切り捨てた景紀は、吠えるように叫んだ。兵士たちの雄叫びが、応ずるように続く。

 目標とした北側乗車口には、駅内の食堂やホテルなどから持ち出したと思われる机が遮蔽物として並べられていた。

 そこからの銃撃で数名の結城家領軍将兵が倒れる。景紀と貴通も、咄嗟に通路の影に隠れた。


「多銃身砲は……、据え付けていないようだな」


 手鏡で北側乗車口の様子を確認しつつ、景紀は呟いた。もし多銃身砲が設置してあれば突破は非常に困難であったろうが、恐らく最前線となっている秋津橋方面の防衛線に優先的に設置したのだろう。

 蹶起した部隊の保有する多銃身砲だけでは、必要な場所すべてに据え付けることは出来なかったに違いない。


「歩兵砲、前へ!」


 急造装甲列車には砲車に据え付けたもの以外にも、後方の歩兵部隊を乗せていた無蓋貨車にも歩兵砲を乗せていた。

 急造装甲列車はあくまで反乱軍の防衛線を突破するのが目的であり、結城家領軍は最終的に宮城突入を目指しているのである。必要な火力を確保するために、急造装甲列車で輸送出来る装備は可能な限り載せてきたのだ。

 皇都中央駅の通路は、砲を分解せずに通れるほどの広さがあった。景紀は屋内であるにもかかわらず、躊躇なく砲を用いることにしたのである。野砲ならばともかく、歩兵砲程度の威力ならば建物が崩壊して自分たちまで生き埋めになる危険性は低い。


「てっー!」


 赤レンガの建物内に、三十七ミリ砲の砲声が反響する。遮蔽物として並べられた机が一気に吹き飛ばされ、その後方にいた反乱軍将兵の呻きと悲鳴、そして将校の怒号が響き渡る。

 乗車口には、硝子張りの優美な設計のなされた出札所もあった。三十七ミリ砲弾の炸裂は、そこも容赦なく破壊してしまった。硝子片が周囲に散らばり、丸屋根から入り込んだ朝日を反射してキラリと光っている。

 北側乗車口の反乱軍が砲撃で混乱しているところ狙い、景紀はそこに突入した。鉄之介から託された赤い火鼠の衣が、ふわりと舞う。


「我が名は結城景紀。結城景忠公が嫡男である! 直ちに武器を置き、投降せよ!」


 血と硝煙の臭いが充満し、負傷兵の呻き声が上がり、破壊の跡も凄まじい吹き抜けの空間で、六家の少年は叫んだ。

 歩兵砲の爆風で倒れたのだろう兵士たちの顔には、濃い疲労に彩られた虚ろな色があった。その硝子玉のようになった無数の瞳が、景紀の姿を捉えていた。


「何をぼんやりしておるか!」


 途端、吹き抜けの二階部分から声が上がる。


「早くそこの逆賊を撃たぬか!」


 攘夷思想を抱いていると思われるその将校は、未だ意気軒昂に叫んでいた。だが、その声に応じる兵卒はいない。

 彼と同じく二階部分にいた兵士が、小銃を一階に落とした。

 それが、合図となった。

 一階部分でも、ふらふらと立ち上がった兵士たちが武器を置き、投降の意思を示していく。


「くっ!」


 そんな中、唯一戦意を失っていなかったその将校が、拳銃を抜いて景紀を狙う。だが、次の瞬間に響いた銃声で倒れたのは、その将校の方であった。

 景紀に続いて北側乗降口に突入した結城家領軍の兵士たちが、彼を撃ったのである。撃たれた攘夷派将校は欄干を越えて、一階に落下した。

 最早、この場で抵抗の意思を示そうとする者は皆無であった。


「真っ先に飛び出されて、無茶されますね」


 若干の苦笑を浮かべて、貴通が景紀の横に並んだ。


「朝綱の奴がやったんだ。俺だってやっておかんと、結城家次期当主として格好がつかないだろうが」


「まったく、相手に対する対抗意識を持つのは朝綱殿だけにして下さいよ」


 兵学寮時代から何度か小山朝綱の景紀に対する対抗心に巻き込まれてきた貴通は、本気で嫌そうな口調で言った。景紀まで朝綱に対抗心を抱かなくても良いだろうと思っているのだろう。

 だが、景紀としては宗家次期当主である以上、分家に対する宗家の面子を立てるためにも必要なことでもあった。

 結城家領軍の将兵たちは、投降した蹶起部隊の下士卒たちを次々と武装解除していく。最早、抵抗はほとんどなかった。


「伝令ー! 宮崎大佐殿より、南側の制圧にも成功したとのこと!」


「急ぎ、屋根に旗を掲げろ」伝令の言葉に、景紀は即座に反応した「皇都中央駅の制圧が完了したと、島田少将たちの部隊に示すんだ」


「はっ!」


 兵士の一人が、あらかじめ用意していた結城家の家紋の入った旗を持って駆け上がっていく。

 皇都中央駅を制圧してしまえば、この場所からの銃撃などに晒されることなく結城家領軍は線路の西側へと突破を図ることが出来る。

 皇都中央駅をいかに早期に制圧出来るかが、この総攻撃の焦点でもあったのだ。

 やがて、朝日を浴びる赤レンガの壮麗な駅舎の屋根に、結城家の家紋が鮮やかに翻ることとなった。

 宮城への道は、これで完全に開かれることとなったのである。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「こんな愉快な眺めは初めてじゃないか、なあ、朝比奈殿」


 一方、皇都中央駅の北西に立つ洋風二階建ての逓信省庁舎では、眼下の光景を見てそのような言葉を発する者がいた。

 結城家直属の忍一族・風間家の嫡男・風間酉一郎(ゆういちろう)という青年であった。


「若もとうとうやったようやな」


 同じ部屋には、景紀に仕える元牢人の忍・朝比奈新八もいた。二人して、逓信省庁舎の二階から見える光景を眺めていた。

 庁舎から見える皇都中央駅には結城家の家紋がはためいており、そして庁舎前を東西に走る道には秋津橋を突破した結城家領軍が宮城へと向かって進撃しつつあった。


「ああ、これで我らの働きも報われる」


 二人の忍がこの庁舎にいるのは、伊丹・一色両家に仕える忍たちを排除するためであった。特に狙撃を試みる忍を、新八や風間家の忍たちは夜通しで狩っていたのである。蹶起部隊によって職員が退去させられた逓信省庁舎にも、明らかに狙撃を目論んでいると思われる者たちが潜んでいた。

 逓信省庁舎は、秋津橋を起点として中部地方へと向かう大街道に面している。この大街道は秋津橋を南に渡ると西に折れ、宮城東大手門に向かって伸びていた(街道はそのまま宮城南側を回り込んで皇都西部へ向かっていく)。宮城突入を目指す結城家領軍が、ほぼ確実に通過するだろう経路であった。


「御館様の命には背くことになってしまうが、俺としては若君の決意に賭けてみたいと思ったのだ。どうやら、それは正解だったようだな」


 風間酉一郎は新八に向けて、そう言った。景紀に個人的に仕えている新八はともかく、風間家嫡男である酉一郎もまた結城景忠ではなく景紀に従う道を選んだのである。

 皇都に潜入した結城家忍集団を任されていた風間家嫡男・酉一郎は、蹶起部隊に占拠された皇都での情報収集や攪乱工作を進める中で何人かの忍を失っていた。だからこそ、彼は宮城突入を目指す景紀を援護することに決めていたのである。


「……ただまあ、若に屋敷のことを報せんかったのは、ちぃとばかし心苦しいな」


 とはいえ、新八は宮城突入を目指して最後の突撃を行おうとする結城家領軍の姿を、素直には喜べなかった。

 風間家の忍も、結城家隠密衆も、当然ながら結城家皇都屋敷が襲撃されているという情報は掴んでいた。屋敷に残していた連絡員が、報せてきたからだ。しかし、彼らは景忠公正室・久の命令もあり、その情報を景紀には伝えていなかった。

 新八もまた、直前に久と会っていたこともあり、彼女の母親としての覚悟を尊重した。

 結城家に仕える風間家や結城家の諜報機関である隠密衆は、久に命じられればそのようにするしかない。しかし、一方の新八はあくまでも景紀に仕える人間である。雇い主に対して不義理を働いてしまったことに対する葛藤は、当然にあった。

 今、結城家皇都屋敷がどのような状況にあるのかは判らない。そして、自分が今から屋敷に向かったとしても、大局的には大した意味を持たないだろう。


「……あとは頼んだで、若」


 だから新八は、このまま景紀たちが宮城に突入してこの内乱の勝者となってくれることを祈るしかなかった。

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『秋津皇国興亡記』第1巻
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