第91話 【それぞれの報告・1】
クランでの訓練をいつも通り終えたグレンは、今日は予定があるとリック達に言って直ぐに帰宅した。
そしてマーリンが迎えに来るまでの間、グレンはいつもの瞑想部屋に籠り瞑想をする事にした。
◇
「グレン。マーリン達がもう直ぐ来るわよ」
瞑想をしていた俺は、フレイナのその言葉に反応して目を開いた。
「んっ、ありがと」
俺はそう言って立ち上がり、背伸びをしてから部屋を出た。
そして、部屋を出て玄関の方へと移動していると、丁度マーリン達が来たみたいで呼び鈴がなった。
「グレン、すまんのう。少し遅れてしもうた」
「いや、別に瞑想してたから気にしてない。って、ティアさんその姿は何ですか?」
玄関の扉を開けると、外にはマーリンとぱっと見は平民の格好をしているティアさんが居た。
「変装ですよ。聖女だとバレて面倒事にはなりたくありませんから、師匠にも変装をするようにいったのですが……」
「儂に今更変装なんて、必要じゃないじゃろ? 変装無しで娼館も出入りしておったし、この国は居心地が良いから変装なんて堅苦しい事はしたくないんじゃよ」
ティアさんにジト目で見つめられたマーリンは、そう言い訳を言うとティアさんは溜息を吐いた。
「まあ、でもティアさん。マーリンがこの国に居る事は既に知られているし、今更じゃないですか?」
「あっ、グレン!」
「……えっ? それはおかしいです。師匠には城からグレンさんの所以外にはいかないで下さいと伝えて、師匠もそれを了承しましたよ?」
俺の言葉にマーリンは焦った顔をして、ティアさんは驚いた顔でそう俺に聞いて来た。
ああ、マーリンの奴、ティアさんに内緒で行ってたのか。
「普通に娼館に通ってましたよ。マーリンの通ってる店、俺の知り合いの所なので直ぐに俺の所に話が来ましたから」
「……師匠?」
「ちょっ、ち、違うんじゃティア! 挨拶! 挨拶をしに行っただけじゃ!」
「挨拶に何日も通う必要あるのか?」
そう俺が追加で言うと、マーリンは更に焦った顔をしてティアさんから後ずさりながら離れた。
「師匠。私がどれだけ、苦労しているのか知っていますよね? 師匠は今、獣人国に居ると思われているからこそ、師匠の存在を極秘にして敵が攻撃を仕掛けた際の隠し玉として使うと何度もお話しましたよね?」
「そ、そうじゃな。じゃ、じゃが! グレンだって、クランの仲間に儂の事を話したと言って居ったぞ?」
「ちゃんとティアさんに説明したよ。そしたら、弟弟子が出来て嬉しいですって言われて普通にリーダーに話す許可を貰ったよ」
「なっ! グレンの裏切り者!」
「裏切るも何もマーリンと仲間になった覚えはない」
泣き叫ぶマーリンに対し俺がそう言い放つと、笑みを浮かべたティアさんがマーリンに近づくと顔面を鷲掴みした。
「師匠。貴方が重要人物である事は、何度も何度も何度もお話しましたよね? そんなに欲望を我慢できないのでしたら、その遊び道具を切り落としますよ?」
ティアさんは低い声でマーリンにそう言うと、マーリンは顔を青ざめて「い、嫌じゃ!」と叫んだ。
そして逃走を図ろうとしたマーリンに対し、ティアさんは「グレンさん、捕まえてください」と指示を出し、俺は返事をする前にマーリンを捕まえた。
「ぐ、グレン! 何故、ティアの味方をするんじゃ! お主もアレを持つ者同士、怖さが分かるじゃろ!」
「いや、すまんティアさんの圧に体が勝手に動いた……」
地面に体を突き付けたマーリンからの言葉に、俺はそう言葉を返した。
マーリンの言い分も分かるけども、今のティアさんに逆らった怖いって感じたんだよな……。
(グレンの判断は正解よ。あの子、怒ると潜在能力が変わるタイプよ)
フレイナの言葉に俺は、ゆっくりと俺達の所に近づいてくるティアさんを見た。
ま、マジだ……怒る前と倍以上魔力が上がってる。
(普段怒らない人には、偶にああいうタイプがいるのよね。グレンも、普段怒らない相手を怒らしたら駄目よ?)
フレイナからのその忠告に俺は心の底から誓い、俺は掴まえていたマーリンをティアさんに引き渡した。
その後、マーリンは必死にティアさんに謝罪をして、切り落としの刑は何とか免れた。
その結果、マーリンはこの国に滞在中、城か俺の家以外にはティアさんの許可無しでは出歩かないと制約魔法を使って今回の件は終わった。
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