第173話 【罪を犯した者・1】
神の加護と希少魔法【念話】を手に入れ囚人生活を脱したエミリーだが、囚人生活の方が楽な程、外の世界での新たな生活は厳しいものだった。
「心が乱れていますよ」
「っ!」
聖女の弟子となったエミリーだが、長時間祈りを捧げるのに苦労していた。
最初の10分程度は集中できるが、それ以降徐々に集中が途切れてしまっていた。
そしてその度に、一緒に祈りを捧げている聖女から注意され、集中しようとするが中々続く事は無かった。
だが、祈りの時間はまだ楽な訓練の方だとエミリー自身、既に理解している。
「それでは次に聖魔法の訓練に移りますよ」
「は、はい……」
長時間、正座していたエミリーは足が痺れ、フラフラとしながら聖女の後について行った。
そして場所は変わり、兵士達の訓練場へと移動したエミリーは、怪我をしている兵士に聖魔法での治療を始めた。
聖女の教え方として実戦あるのみという考えで、聖魔法の使用は出来ると言ったエミリーは初日から大人数の兵士ら対して、治療するようにと言った。
「大丈夫か、嬢ちゃん?」
「は、はい。大丈夫です」
神の加護により魔力も多少増えたエミリーだが、大人数の兵士の治療は中々に辛い時間だった。
怪我の度合いによって魔力の調整をするようにと言われ、少しでも多く魔力を流すと聖女から注意をされ、訓練後の祈りの時間が更に増えてしまう。
その為、エミリーは必死になって魔力の調整を行っていて、その顔の必死さに毎度兵士から心配されている。
「エミリーさん、今日もお疲れさまでした」
「は、はい。ありがとうございました。また明日もよろしくお願いします」
「はい、お待ちしておりますね」
祈り、聖魔法の訓練、それと他の訓練が一通り終わり、一日の訓練が終わるとエミリーは聖女に深々と頭を下げ、フードを深く被り城を出て行った。
神の加護や希少な力、それと日々の生活態度で囚人では無くなったが、それでも犯罪者だった事には変わらない。
その為、城で寝泊まりはする事は出来ないと言われ、訓練の間だけ城に滞在を許されている。
そしてそんなエミリーが現在、寝泊まりしているのはマリアが運営している新しい教会だ。
「マリアさん、戻りました」
教会に戻ったエミリーは自分を待っていたマリアにそう声を掛けると、マリアは本から目を上に上げてエミリーの顔を見つめた。
「おかえりなさい。今日もこの時間まで訓練してたの?」
「はい、何も出来ない自分の為に付きっきりで訓練を見てくれてる聖女様には感謝の言葉しかないです」
「そうなのね。それじゃ、早く汗を流してきなさい。その間に、ご飯用意しておくから」
「いつも、ありがとうございます」
小さい頃から知っている三人、犯罪者と成り下がっても心のどこかで心配していたマリアは、牢屋入れられたエミリー達の様子を偶に見に行っていた。
そして他二人より、元々性格は大人しかったエミリーは他二人とは違い、囚人としてちゃんと生活をしていた。
そんなエミリーにマリアは、外での出来事やエミリー達のしでかした愚かな行為について話をしていた。
牢屋と、考える時間だけはある場所にいたエミリーは、自分達のやって来た愚かな行為に気が付きマリアに涙ながら謝罪の言葉を口にした。
「私に言っても、貴女の罪は消えないわよ。……でも、貴女が罪を自覚してくれた事は私は嬉しく思うわ」
そうマリアはエミリーに言うと、その言葉でエミリーは更に涙を流した。
「……皆、もう寝たんですか?」
汗を流し、マリアの作ってくれた夕食を食べ始めてエミリーはポツリとそう言葉を零した。
「本当の事、言った方が良いかしら?」
教会にいる者達の多くはエミリーの犯した罪を知っており、犯罪者であるエミリーとは殆ど顔を合わせないようにしている。
シスターの中にもエミリーのした事に対し嫌悪感を出している者がいる中、マリアだけはエミリーの事をちゃんと見ている。
その為、夕食の時間を一人ズラしてエミリーと食べるようにマリアはしている。
「成果をちゃんと上げたら、あの子達もちゃんと見てくれると思うわよ。だから今は兎に角、頑張りなさい。私は貴女の事も応援してるから」
「そうですね。今は、とにかく役に立てるように頑張るしかないですね……」
そうエミリーは言うと、マリアに「ご飯美味しかったです。ごちそうさまでした」と言って部屋へと戻った。
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