第121話 【顔合わせ・1】
王族の旅行に護衛をしてくれと頼まれた翌日、グレンはクランリーダー室でガリウスにその事を報告していた。
「ああ、その事か今朝方王城からの使いが報告しに来たな」
「そうか。なら、話は知ってるって事か」
「グレンを護衛として使うって事だろ? 別に良いんじゃないか、王家との繋がりは冒険者としても箔が付くしな」
「……いいのか? また数日間、居なくなるんだぞ?」
クランに入って何度も居なくなってるグレンは、少しその事を気にしてガリウスに聞いた。
その言葉にガリウスは、何を言っているんだ? という風な顔で言葉を返した。
「気にして無いとは言えないが、最初に言った通りグレンの行動を制限するつもりは無い。俺としては偶にお前と依頼を受けたり、一緒に訓練をするのがしたかっただけだしな、グレンの自由を縛るって事は最初から考えてないぞ」
「そういや、最初から俺の事を縛るつもりは無いと言ってたな……だとしても、ここまで自由に動くメンバーって俺ぐらいじゃないか?」
「まあ、確かにそうだが。他の奴も一人で行動したい時は俺に言って、一人で行動してる奴も居るしな、別にグレンがそこまで気にしなくても良いぞ」
ガリウスからそう言われたグレンは「そうか」とだけ返事をして、一週間の休みを貰う事にした。
そうしてガリウスに報告をした翌日、グレンは王城に王子達の顔合わせの為にやって来た。
「王子の方は確か、俺と同い歳だったか?」
「そうにゃ。王女様も一つ違いにゃから、グレン君とは歳が近い二人にゃ」
グレンは王族に囲まれるのだけは避けたいと言い、いつもなら嫌がるキャロルを隣に座らせ王子達の到着を待っていた。
そんな風に王子達の情報をキャロルから聞いていると、部屋の扉をノックする音が聞こえ、それに返事をすると王妃と共に王子達が部屋に入って来た。
王子は親譲りの輝く金髪、そして透き通るような蒼眼で自信に満ち溢れた顔をして現れた。
その横には少し緊張した様子の王女は、兄同様に金髪と蒼眼をしていて、ジッとグレンの顔を見ていた。
「遅くなってごめんね。グレン君」
「いえ、俺が予定時刻より早く来ただけですから、気にしないでください」
部屋に入るなり謝罪を口にした王妃に、グレンはそう言葉を返した。
そうして、王族達はグレン達の向かい側に並んで座った。
「母様、こちらの方達が今回の護衛に参加して下さる方ですか?」
「ええ、そうよ。グレン君とキャロルちゃん、キャロルちゃんとは何度かあった事があるから知ってるわよね」
「はい、隣の方も一応知っていますよ。王都では有名な方ですから」
王子はそう言いながら、視線をグレンの方へと向けた。
そして笑みを浮かべると、何故か懐から白い紙を取り出した。
「グレンさん、ファンです。サイン下さい」
「……えっ?」
突然の王子の行動に、グレンは素で驚いた顔をした。
グレンの横に座っているキャロルは、そんな王子とグレンの顔を見て「にゃはは」と笑った。
「グレン君、黙ってたにゃけどこの子グレン君のファンにゃ。それもグレン君がSランクになる前からのファンにゃ」
「えっ、いや、はぁ!? ど、どういうことだ?」
グレンはキャロルの言葉を聞いても理解が出来ず、そう意味の分からんといった様子でそう叫んだ。
そんなグレンの様子に王子は、少し申し訳なさそうな顔をグレンに向けた。
「あの、やっぱり迷惑でしたか……」
「いや、迷惑とかじゃ……ちょっ、リシアナ様。そんな笑ってないで、ちゃんと説明してくださいよ!」
「うふふ、だっていつも落ち着いてるグレン君が取り乱してる姿何て、初めて見たから、うふふ」
王妃は混乱しているグレンの様子にキャロルと同じく笑っていて、グレンを助けてくれる者はこの場には居なかった。
そうグレンが思っていると、王子の隣に座っていた王女がパンッと手を叩き、注目を集めた。
「お兄様、突然〝ファン〟と言えばグレン様が驚くと言いましたよね? 何故、ちゃんと説明をしてから言わなかったのですか? 母様も笑っているだけじゃなくて、グレン様に説明をしてあげてください」
凛としたその言葉に、王子と王妃は「は、はい。すみません」と王女に謝罪した。
二人の行動にそう注意をした王女は、視線をグレンに向けて軽く頭を下げた。
「すみません、グレン様。お兄様とお母様がご迷惑をおかけしました」
「あっ、いや、俺が取り乱したのも悪いし、気にはしていないよ」
そうグレンが言うと王女は「よかったです」と笑みを浮かべた。
そこから王女がこの場を仕切って、自分達の事を説明を始めた。
「まず、グレン様は私達の事を何処まで知っていますか?」
「……名前と年齢位だな」
そうグレンが言うと、王女は「そうですか」と言葉を返し自分達の改めてグレンに自己紹介を行った。
王子の名は、アルヴィス。
王女の名は、ラフィーナ。
二人共、リシアナの子で歳は一つ違い。
そう自分達の事を説明していく王女に、グレンは心の中で「一つ下なのによく出来た子だな」と感心していた。
「最後に、お兄様がグレン様のファンだと言ってましたが、私もグレン様のファンです。ですので、私にも良ければサインを下さい」
「ッ!」
心の中で王女を凄い子だと思っていたグレンは、最後のその言葉にズルッとソファーから転げ落ちそうになった。
そんなグレンの姿に王女は笑みを浮かべ、手に持った紙とペンをグレンの前に置いた。
それからグレンは、取り敢えず二人が出した紙に自分の名前を普通に書くと、王子達は大事そうにその紙を受け取った。
そして、その紙を部屋の隅に待機していた使用人に渡して、額縁に入れるように命じた。
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