第105話 【悪魔憑き・1】
2021/2/13:悪魔付から悪魔憑きへと変更しました。
「グギャァァァ」
蹲り叫び声を上げていたのは、グレンの幼馴染〝アレイン〟だった。
しかし、その姿は以前のキラキラとした姿ではなく、髪は黒く染まり目は充血してるかの如く赤く、そして体全体に刺青のようなものが付いていた。
グレン達の想像通り、アレインは悪魔憑きの人間となっていて体を乗っ取られていた。
「ギャャ——」
叫び声を上げていたアレインは急にピタリと止まると、顔を上げてイラついた表情を作った。
「ったく、こいつも強情な奴だな。オレを受け入れたんだから、自我を失えばいいのによ」
「ハハッ、そんな直ぐに人間が自分を捨てれる訳が無いだろ? 俺のこいつだって、自我を失うのに半年は掛かったんだ。お前のそいつもその位かかるだろうよ」
「マジかよ。人間しつこすぎだろ……」
アレインらしき者は、めんどくさそうにそう口にすると体をブルりと震わせ、再び喚き始めた。
喚くアレインの姿をした者をもう一人の男は、笑みを浮かべて「頑張れよ~」と楽しそうに言った。
そんな男達のやり取りを部屋に居たもう一人の男は、怠そうな顔をして眺めていた。
「しかし、そいつも強情だな。あれだけ悪魔の力を借りてて、今更拒絶する何てよ」
「人間って欲に忠実だからな、目の前に事しか考えきれてないんだよ」
その男達もまたアレイン同様に悪魔の力を使い、悪魔によって体を乗っ取られた者達だ。
そんな男達の元に、新たに一人の少女が現れた。
その少女の登場に、男二人と喚いていたアレインの体を乗っ取った悪魔もピンっと背筋を伸ばして出迎えた。
「貴方達、いつまで休んでるのかしら? 王国の調査から大分日が経って居るわよ?」
「す、すみません! まだ自分の付いた人間が体を明け渡さなくて」
「ふ~ん……確かに、その人間は欲望が強い様ね。分かったわ、無駄に休んでいた訳じゃないって事は信じてあげるわ」
その少女の言葉に三人の悪魔達は、ホッと安心して息を吐いた。
男達が恐怖を感じているこの少女は、彼らの上司にあたる上級悪魔だ。
「それにしても、人間達も馬鹿よね。あたし達をこんなに呼び出して、何をしたいのかしらね」
少女は部屋の奥にあったソファーに座ると、そう疑問に感じた事を口にした。
「確か、姐さんよりも上の方達も呼び出したって聞きましたけど、それって本当なんですか?」
「本当よ。貴方達が王国に行ってる間にも、下位悪魔から上級悪魔、更に私よりも上の存在の悪魔も呼び出していたわ」
「マジで人間何考えてるんですかね……」
少女の言葉に、アレインに乗り移った男がそう口にした。
そんな会話をしてる際、少女は思いだしたかのように三人の男達に報告で聞いた事を尋ねた。
「そう言えば、貴方達の報告で面白い事が書いてあったわね。妖精族の長を見たって、本当なの?」
「ハッキリとは見えませんでしたけど、強い妖精の力は感じました。多分、あの感じは妖精族の長だと思いますけど、確証は持てないです」
「そう。でも強力な妖精を引き連れた冒険者が居る事は間違いないのね……そうなってくると、もしかしたらその冒険者が私達の敵として厄介になりそうね」
少女の言葉に三人の男達は、首を傾げてその中の一人が「どうしてですか?」と聞いた。
「妖精の力は、私達と同じで人間に力を与えるのよ? 妖精族の長らしき、妖精が付いてるって事はそれだけ力も貰ってる事だから、普通の人間よりも強いのよ。それこそ、自らの力で人外の域まで行った賢者の力も超えるほどにも」
「賢者と同等以上の力……」
三人の男達は賢者マーリンの強さを知っており、少女の言葉に険しい表情となった。
「まあ、でも賢者とその冒険者が一人ずつなら何とかなると思うわよ。こっちには数の有利もあるし、あの方達が出てきたら賢者だろうとどうしようも無い思うわよ」
それから少女は、男達に早く体の乗っ取りを終わらせるように言って部屋から出て行った。
◇
そんな悪魔達のやり取りが終わった頃、グレンは帝国行きの馬車で旅を楽しもうとしていた。
「最近の移動は、転移ばかりだったから馬車での移動が新鮮だな……」
「そうにゃね。グレン君と居ると、移動は楽で良いけど一瞬だから楽しさは無いにゃね~」
グレンの独り言に対して、正面に乗っているキャロルがそう言葉を返した。
「……折角、お前の事を視野に入れない様にしてるのに、何で会話をしようとしてくるんだ?」
「あたしを無視するからにゃ。折角の旅なのに、仲間を無視する何て酷いにゃ~」
グレンの言葉にキャロルは、ニコニコと笑みを浮かべてそう答えた。
何故、ここにキャロルが一緒に居るのか? それは聖女によって、キャロルがグレンの監視役に選ばれたからである。
「ティアさんももうちょっとマシな人選をしてくれよ……何でよりによって、こいつなんだよ……」
「酷いにゃ~。あたし以上に良い人は無いにゃ。それに、グレン君の秘密を知ってる人は限られてるにゃし、その中で動けるとしたらあたし位にゃ」
「……というか、監視役ってのが納得がいって無いんだよ。俺、そんなに事件起こしてるか?」
「グレン君が発端じゃにゃいけど、グレン君の周りでは起こってるにゃから聖女様も気にしてるんだと思うにゃ」
キャロルの同行に嫌な気分を出してるグレンに、聖女の考えをキャロルはそう言った。
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