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「……いつも綱渡りだな、俺は」

「何だ? 何か言ったか?」

「……ああ、聞いてくれホーク。いや、その前に……」


 俺は手を上げると、ホークを指で指した。一拍置いて翠光の弾が後方より飛び込み、彼に命中する。「おおっ!?」と驚愕の声が上がる。


「これはヒール……いや、ヒールライトか!? こんな高等呪文を使いこなす僧侶が仲間にいたのか!?」


 ホークの腕の腫れが引き、赤黒く変色していた肌が綺麗な肌色へと戻った。全快とは言い難いが、折れた骨が修復されたのがわかる。シャナのように完全に体から分断されてしまった部位はポーションやヒールでは元に戻らないが、骨折程度なら十分その力を発揮できるようだ。だが安心するのは早い。先ほどの援護で、ロックイーターにだけでなく、後方のレオナスたちにアミュレの位置がバレた可能性がある。


「気配を消せ!!」


 この街までソロでたどり着いたアミュレのことだ。とっくに索敵から逃れる措置は取っているかもしれないが、念の為、敵から身を隠すように命令を出した。案の定、後方の二人は突然の援護射撃にうろたえているが、発射ポイントにいるはずの人の姿が見えず、きょろきょろと辺りを見回すだけだった。


「……ひとまず、これで良し。それで……ええと、ホークさん、俺と協力してくれませんか?」

「言われるまでもない。自分を回復させたということは、この窮地を切り抜ける策があるのだろう? あと呼び捨てで良い。自分も君のことをラビと呼ばせてもらう」


 にやりとホークは笑って応えた。さすが街を守る兵士だ、この場においても尚、勝機を掴み取ろうとする胆力を彼は有していた。この危機を脱したら、色々と話をしたいものだと思ったが、それは今考えるべきことではない。俺も笑みを浮かべながら、作戦を告げた。


「わかった、ホーク。悪いが、一瞬だけで良いからロックイーターの気を逸らして欲しい」

「……陽動作戦か。それは撃退のためか? それとも撤退のためか?」

「できれば撃退したい。俺にはあいつの命に届きうる技がある。だけど俺の身体能力では、あいつの至近距離に入った瞬間に殺されるのが落ちだ」

「……ラビは見たところ動きがぎこちない。不躾だが、おそらく召喚者ではないか?」

「ああ、そうだ」

「……ふっ、なるほど。君たちの中には我々が聞いたこともないスキルを発現する者もいると聞く。この場においてラビが現れたことは、神のお導きかもしれないな」

「おいおい、そんなにプレッシャーをかけるなよ。俺は緊張するほうなんだ」

「我慢しろ。こっちはもう一生分緊張しているんだからな」


 そう言って手にした両手剣を強く握りしめるホーク。彼は俺を救いだと言うが、それは俺にとっても同じだった。突然現れた男に『逆転の一手があるから囮になってくれ』と言われて、快く頷いてくれる者は少ない。いや、これもネイティブの特性――己が決めた役割を果たそうとする――というものから来ているのかもしれない。だがどのみち、それが彼の人柄に準拠するのは間違いない。だったら俺も全力を尽くすまでだ。絶対に彼らを死なせない。そう強く心に決めて、杖を握りしめた。


「《金城鉄壁》!」


 術を叫び、ホークが前方へと走った。ロックイーターが合わせるように蛇のように大地をぬった。今の俺の手持ちスキルは《罪滅ボシ》《ストライクブレイク》《疾風迅雷》《ファイア》《灼焔剣》《鑑定眼》《破魔》《挑発》。これらを使って奴の隙を付き、さらに奥の二人の妨害をかいくぐって攻撃を当てなければいけない。そのためにまず行うことは、レオナスたちとロックイーターを結ぶ直線上から動くことだ。


 このまま攻撃を当てに行っても、先ほどの二の舞になるのは目に見えている。奴らの魔法を阻害するために、ロックイーターの陰に周る必要がある。少なくとも現時点で、奴らは野次を飛ばすもののそれ以外の行動を取る気はないようだ。後方からの魔法攻撃によって竜蟲の目を引くのを恐れているのだろう。あくまでも俺の相手は魔物であり、自分たちは高みの見物という訳だ。もっとも、レオナスはだいぶ不満そうではあるが。


「そこで大人しくしててくれよ」


 そう呟いて左へ走った。突撃するホークにたっぷりと注目を集めたので、奴がそれに警戒することはなかった。


『ギィィィイアアアアァァァァァァアアアア!!!!』

「ぐぬっ!!」

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