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「この剣は……まだ活きているね」


 アドがぽつりと呟いた。その言葉の意味がわからず、首を傾げる。


「生きてる? 剣が……ですか?」

「正死の『生きる』ではなく、役目がまだ残っているという意味での『活きる』さね。いいかい、優れた武器というのは人と同じように運命を宿す。それを果たすまでは、たとえ折れたとしても死にはしないのさ」

「運命……ですか。でもここまで破損してしまったら、修復は……」

「……できないこともない……が、それは今考えても仕方のないことかもねえ」

「え、直すことができるんですか?」

「腕の立つ鍛冶屋の知り合いがひとりいてね、そいつならもしかしたら直せるかもしれん」

「……よかった! こいつが直せるなら、俺はどんなに時間がかかってもお金を用意して、その鍛冶屋に修復をお願いします!」

「ふっふっっふ、そこまで言って貰えると、この武器も嬉しいだろうよ。だけどまずは先にやらなければいけないことがある。違うかい?」

「……たしかに」

「焦る気持ちはわかるが、まずは目の前のことを為すのが肝心さね。……ふむ、この武器、おそらく最初は強力な封印呪文がほどこされていたんじゃないかい?」

「……ええ。俺の《破魔》というスキルで強引に引き抜いたんです。それまでは鞘が全く抜けずに、びくともしませんでした」

「……やはりかい。そういった封印が施されていることも、こいつがただの武器でないことを証明しているねえ。どれ……」


 アドの瞳が赤く光った。ロズも使用していた、高位の《鑑定瞳》だ。


「……目立って性能が高い訳ではないが……アビリティは確かに目を見張るね。MNDを攻撃に変換とは……駆け出しの冒険者が持つような代物じゃない。というよりも、持たないほうが良い武器と言える」

「え、なぜですか?」

「単純に使い所がないからさ。剣戟系の職しか装備できないのに、MND依存攻撃なんて誰も使いこなせないだろうさね。それなら普通の武器を買ったほうが遥かに効率がいい」

「ああー……」

「しかも使いこなせたとしたら、それはそれで問題だよ。MNDを主体に成長したら、STRが育たずにどこかのレベルで伸び悩みが起きるだろうし、この剣が使えなくなったときに戦闘スタイルの変更を余儀なくされる。今のラビ殿みたいにね」


 俺は彼女の説明で、初めて《ナイトレイダー》を使うことの危うさに気づいた。確かにその通りだ。《断罪セシ者》はステータスの上がり方から、本来ならば後衛に立って魔法による攻撃を主とする職業なのは間違いない。だがこの武器と出会ったことにより、俺の習得しているスキルは近接系に大きく偏っている。剣戟系と魔道系の装備をどちらも使用できる特性を活かして、もっとバランス良く技を修めるべきだったのかもしれない。だがそれでも、俺は……。


 沈黙する俺を尻目に、アドは話を続ける。


「こんなアビリティを付与するには、とんでもなく高価な素材が必要なはずさ。おおむね、それを手に入れるために有り金を使い果たして、肝心の剣を精錬させる資金が尽きたんだろうね。……それで、これはどこで手に入れたんだい?」

「商業都市シューノの、闇市場です」

「……またえらい所から手に入れたねえ。まあこんな代物、表にそうそう出まわるものじゃないし、妥当と言えば妥当かもね」

「……こいつの運命がまだ残っているのなら、それはきっと……彼女から、もっと学べと言っているんだと思います」

「彼女?」

「……俺のパートナーです。俺は彼女から沢山の剣技を教えられました。それができたのは、魔導師系のステータスでも近接で戦えるアビリティを備えた、この剣があったからに他なりません。だから俺は、この剣と出会えて良かった。たとえ戦闘スタイルが歪もうと、後悔はありません」

「……数奇な運命を背負っているようだね。この武器も、お主も。……この剣も、おそらくラビ殿と共にあることを望んでいるさ。……うん、鍛冶屋は必ず紹介してやるから、まずはできることからやっていこうじゃないか。それまでこの剣は大切に保管しておくといい」


 黒の刀身を指でなぞりながら、アドは関心深げに告げる。シューノの闇市場でも、同じようなことをこの剣の売り主から言われたことを思い出した。武器に好かれる……というやつだ。リズレッドは武器の供養も戦士の仕事のうちと言っていたが、こいつ自身がまだ共にあることを望むのなら、それに応えることも役目だろう。幸い俺たち召喚者には後ろの腰に回した鞄があり、これはキャパシティを超えない限り、重量を無視して格納することができる。剣一本くらい収納して旅を続けるのは簡単なことだ。


「……わかりました。それで……アビリティの移植も、もしかしてやらないほうが良いんでしょうか?」

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