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313:虚空への号砲

 一度は鎮圧された戦場に新たなる脅威が迫りくる。


 トレーラーとその前を走る装甲車。荷台の巨大な影が高速道路のカーブを曲がる形で姿を現して、一直線にその先にいるサタヒコたちのもとへと。


『覚悟しなさい……ッ、神の、傀儡ィッ――!!』


「やはりこの声ッ――、【神造人】のアーシアか……!!」


 即座に各々の武器を構えながら、それでも三人の意識にわずかながらも混乱が入り混じる。


 それはそうだろう。何しろすでにこの場の状況には決着がついたといっていい現状、増援として戦力を投じることはもちろんのこと、敵の首魁の一人たるアーシア自身が乗り込んでくる意味など皆無に近いのだ。


 アーシアという【神造人】の存在は、後方に控えて無尽蔵に戦力を生産してくるからこそ厄介なのであり、その張本人が直接乗り込んでくるなど、サタヒコたちにとって好都合ではあれど、敵方にとってそれを覆すほどのメリットがあるとは到底思えない。


「――っ、来おるぞ……!!」


 だが、それが戦術的な意味ではどれだけ馬鹿げた判断だったとしても、現実問題として戦場足る高速道路の先からはアーシアを名乗るその敵がやってくる。


 先を走る装甲車と、その後ろを走るトレーラー。


 そんな二台の大型車両のさらに背後に、宙に浮いて追従する大量の擬人の群れを引き連れて。


「迎え撃てェッ――!!」


 サタヒコが叫んだその瞬間、二台の車両に追従していた大量のそれら(・・・)、否、もはや人の形すらとっていない、高速道路の両端にある遮音板に命を吹き込まれて生まれた【擬人】達が、まるで遠距離攻撃そのものであるように一斉に加速して、向かう先にいる三武者のもとへと一斉に襲い掛かってくる。


「【散斬爆破(さんざんばっぱ)】――!!」


 襲い来る遮音板の戦闘の一枚へ向けて、サタヒコが自身の握る鬼鉈の、刃の側を正面から叩きつけ、激突と同時に炸裂する暴風と、その中に織り交ぜられた大量の斬撃を擬人の群れへと浴びせかける。


 静の習得する【嵐剣スキル】にも収録された技でありながら、発動の難易度が高すぎて知識を身に着けただけのプレイヤーでは事実上発動できない最終奥義(・・・・)を当たり前のように使用して、細切れになって吹き飛んだ擬人の群れの中を追撃の刃が残る二人分迸る。


「――ああっ、全く……!! これが人間だったら今の一撃で壊滅なんだけどなぁッ……!!」


「全く……。これだから【擬人】というやつはつくづく厄介だ」


 正面から暴風を浴びて勢いを減じながら、なおも核を守って生き残っている遮音板の擬人へとむけて、ケンサの龍骨刀とトバリの遠隔斬撃の技が精密な狙いで放たれ、そのかりそめの命を着実に両断して数を減らしていく。


 三人の達人が互いに邪魔することなく完璧な連携を見せるが故の圧倒的処理速度。


 そんな勢いで引き連れてきた味方の数を減らされながら、けれど迫る車両と、その内に潜むアーシアのとる戦術は変わらない。


『さぁ、全員めざめてあたしに従って……!!』


 荷台の車両の装甲に覆われた外壁、そこに取り付けられた多数の鏡に一斉にアーシアの姿が映り込み、その鏡の目が高速道路両側の遮音壁に次々と命を吹き込んで、【擬人】と化したそれらが自身を固定するボルトを弾き飛ばして一斉に車両を追って飛翔する。


『――必要な知識と、命令をあげる……!! あとは何も考えず、この先にいる連中を全員まとめて葬りなさい……!!』


 装甲車の上部ハッチやトレーラーの後方から一斉にスキルカードがばらまかれ、飛翔する遮音板がそれらをぶつかり砕いて光の粒子を吸収しながら突き進む。


 こんな時のためにルーシェウスが事前に用意していた、付近にある物品を【擬人】化して即席の特攻兵として運用するための記憶のカード。


 知性のない擬人に最低限の行動原理と、そして攻撃性能を与えるための記憶の光が次々と遮音板に吸収されて、使い捨ての飛び道具としての性能を底上げされた【擬人】達が加速して三人の武者のもとへと放たれていく。


 否、もとより最低限の判断能力と行動原理しか与えられていない【擬人()】と呼ぶのもおこがましいそんな存在に、攻撃対象を三人に限定できるような知性などあるはずもない。


「――ええい、まったく……!! こいつら、曲がりなりにも同盟相手がいるってのにお構いなしかねぇ……!!」


 自身の龍骨刀を操り襲い来る遮音板を打ち据え、叩き落としながら、ケンサが相手の攻撃の先に入淵親子が含まれていることを非難するように声を上げる。


 一応背後の華夜たちは擬人の鎧が展開した防御壁(シールド)のドームに守られているため攻撃が向かっても即座に危険が及ぶということはないはずだが、着弾に際して電撃や爆炎を放ち、あるいは鋭い刀身を展開していることを考えれば絶対に破られないと楽観もできない。


(恐らく、こっちがフォローに向かうことも計算ずくなんだろうけどねぇ……)


 ケンサが防御壁のドームの前に陣取り、その前に距離を離して並ぶ形でサタヒコとトバリの二人が並ぶ陣形をとくに言葉を交わすこともなく取りながら、三人の武者たちは遮音板を迎撃しつつそれらを生み出した敵が離れた位置で停車するのを見咎める。


 装甲車を前列に、横向きに停車したトレーラーを後ろに配置した道をふさぐような配置。

 同時に、装甲車やトレーラーの後ろから次々と擬人が外へと湧き出してきて、こんなに乗れるものなのかと疑問に思うほどの敵勢力が瞬く間に三人の眼前に展開される。


 執事や侍女のような恰好をでありながら、まるで軍隊のような統率された動きで展開される戦力のその中で、一番最後に降り立つのは唯一貴人のような扱いで側に侍る侍女の手を取る一人の少女。


 愛らしい容姿を悪ぶったようなファッションで飾り付け、金属のアクセサリを全身にいくつも装備した【神造人】の一角が、まさかと疑う三武者の前に堂々とした態度で姿を現す。


「――ほう、お嬢さんにこんなところでお目にかかれるとは光栄だ。てっきり【神造人】のような高貴な方は屋敷の奥で守られて出てこないものと思っていたのだけどね」


「――その屋敷ならあんたたちの頭が火をつけて燃やしたわ」


 女性の扱いを知らないサタヒコ(バカ)とトバリ(ネクラ)の二人に代わり、軽口で会話を試みたケンサに対して、当のアーシアからは不愉快満点と言わんばかりのにべもない返答が返ってくる。


 伝聞情報では聞いていたが、どうやらケンサたちの頭目たる老戦士(ブライグ)は本当に単独で敵の拠点に殴り込みをかけたらしい。


 それでいて他の【決戦二十七士】の元へ戻ってきていないという状況について、本来であればブライグの身に何かあったのかと案じるべきなのかもしれないが、ブライグがこの戦いに持ち込んだ隠し玉について知らずとも、ケンサたちはあの歴戦の猛者がそうやすやすとやられるなどとはまったくもって思っていなかった。


(ま、空の地上で何かが派手に戦ってるのがチラチラ見えてるしねぇ)


 先ほどからこちらも戦闘の連続であるためどのような存在が戦っているのかまで観察できていないが、それでもあれだけ派手にやりあっているとなれば相手もそれなりの実力者であることはうかがい知れる。

 そして何より、今のケンサたちは、生き残った他のメンバーの、その居所の大半をすでに把握できているのだ。


 それを想えば、遠くからでも見える派手な戦いが自分たちを率いる頭目によるものであるというのも、行方の分からない者達からの消去法で最低限推測はできてしまう。


 ただし、逆に言えばそんなブライグの存在をこの相手は一所に足止めできているということであるし、なによりも今この場に敵の首魁の一人足るアーシアが、わざわざ姿を見せた理由までは予想できない。


「……ふむ、それはお見舞い申し上げる。それで? 家から焼けだされて現在苦境にいると思しきお嬢様は、一体僕たちにどのようなご用件で?」


「――別に……」


 挑発するように投げかけた問いかけ、それに見せたあまりにも些細な反応に、ケンサは内心で『おや?』と違和感を覚える。


 この場に来た理由を考えて、恐らくは背後にいる入淵親子、その内【神造人】に対抗しうる、【跡に残る思い出】という手札を持つ華夜の存在を狙ってきたのかと考えていたのだが、それにしてはケンサたち三人にこの相手の興味が向きすぎている。


 なんというか、『眼中にない』という態度をとろうとして失敗している感が否めない。


 単純に、戦力としては馬鹿にできない三人と直接相対するこの状況に油断していないとも考えられるのだが、それにしてはこの少女の場合、背後の二人よりもむしろケンサたちの方に意識が向きすぎているような気がするのだ。


「――おいそこの馬鹿二人。あの子なんか俺たちの方に用があるみたいなんだが心当たりあるか?」


「単純にこの場における強敵と見て警戒しているのではないか?」


「あとは単純にお前の態度が不快だったとか」


 声を潜めて残る二人にも問いかけてみるが、やはりというべきかケンサが納得するような明瞭な答えは得られない。


 そしてまさかわかるはずもない。

 そもそも【神問官】側の本当の動機を知らない彼らでは、自分達の【神造物】が【神贈物】ではないかと疑われていることも、そしてこの相手が神そのものを敵視し、その意図に近い位置にいる相手を狙ってこの場に来たなどという事情も。


 唯一わかることはただ一つ。


「――ええ、そうよ。別にあんた達なんかどうでもいい。私が用があるのは、あんたたちの後ろにいる(・・・・・)奴だけよ……!!」


「「「――!!」」」


 言った瞬間、周囲に侍らせていた擬人の二体がその姿を変じさせ、サブマシンガンなどと呼ばれる【新世界】の武装二丁へと姿を変えてアーシアがそれを三人のいる方へと突き付ける。


 明らかな攻撃の意思表示に、三人の武者が一瞬のうちに意識を戦闘態勢へと切り替えて、そうする間にもアーシアが引き金を引いて大量の弾丸をばらまいて――。


「――む?」


「――ぉん?」


「ぁん……?」


「――ぅわわわわ、ひゃぁアアア――!?」


 三人が身構えた次の瞬間、アーシアが構えたサブマシンガンを発砲して、けれど狙いをつけるどころかその反動を御しきることすらできず、なにもない虚空に銃弾をバラまきながら装甲車の上から転げ落ちる。


 まさかの顛末に、歴戦の武者たる三人が歴戦の武者だからこそ沈黙し――。


「――ッ、かかれェぇええッッッ――!!」


 直後、そんな主の痴態などまるで気にしないかのように動き出す敵軍に応じて、すぐさま三人も意識を切り替え走り出す。


 数すら定かでない、見えるだけでも三十人を超える軍勢を前にして、たった三人が正面からぶつかる戦争が高速道路の路上で幕を開ける。

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