301:尊厳の証明
思考領域の中で一人の男の声が響き渡る。
「知っての通り、我々【神問官】は神によってつくられた人間だ。
【神造物】の試練と言う目的の元、我々はその肉体や権能はもとより、その内面、精神構造に至るまで、全て神の手によってデザインされている」
語る言葉の通りに神の手によってつくられ、今【神造人】を名乗って尊厳の獲得と、そして証明を目的に行動しているのだと明かした、そんな男の声が。
「逆に言えば、我々の言動、その意思決定は必ずや何らかの形で神の意志、その影響を受けているということだ。
貴様に対してサリアンが【神杖塔】の所有者としての権限を与えたことも……。
難攻不落と言われた試練の主であるセリザが、このタイミングでオハラの末裔を選定の対象としたこともそうなのかもしれない。
我々がこうして神に反旗を翻したことさえも、あるいは……」
「……そっ――、んな、こと……!!」
語られるその言葉に、竜昇は寒気を覚えるとともに、どこか否定しきれないものを感じ取る。
実際、竜昇自身どこかで思っていたのだ。
他の二つはともかく、サリアンが死に際に竜昇を【神杖塔】の所有者として選定したのは、あまりにも都合がよすぎる、と。
そしてそう感じてしまっていたが故に、竜昇にはルーシェウスのその言葉を、ただの考えすぎと断じることが容易にはできない。
「我らを作りし神は、先を見据え、世界をあるべき形に導くべく【神造物】を世にもたらしていると言われる。
だがだとすれば、我らの意志や決断は――。我らが自らの意志で選んだはずのその選択は、実際には神がしかるべき時にその選択をするよう仕組んだ結果だったということになるのか……?」
「――そんなのは……!! いくら何でも……。
――だいいちそんなことを言ったら人間だって、【神問官】以外の生き物だって同じことだろう……」
「否。同じでもないのさ。
なにしろあの世界における人間と言うモノは神が作ったものではない、神が世界を作った後に、その世界の中で自然発生した生き物だ。
――その意味でいえば、神との間に明白な上下関係を持たないという点おいては、この世界における【神問官】以外の生物はある種神と対等といえる存在なのだ。
だからこそ神が目をかける価値があるし、導くだけの意味がある」
竜昇の知る神話ともまた違う、人間と神のこの世界特有の関係性について、ルーシェウスは淡々とそう語る。
否、口調こそ淡々としているが、恐らくその内心を占めているのは竜昇が想像する以上の激情だ。
言葉を交わし、その中で薄々感じ取っていた。
表に出てくるものこそ冷淡で平静を保って見えるが、その実このルーシェウスという男は、人間に、【神問官】に、そして己の生みの親である神に対して、想像を絶する激しい感情を秘めているのだと。
「――対して、我ら【神問官】は明確に神の手によってつくられた人間だ。
どれだけ明確な意志を持ち、どのような信念でもって己が言動を決めていたとしても、絶対的な前提としてその意思や信念すらも神の手によって設定されたという厳然たる事実が横たわっている」
どれだけ己に忠実に従ったつもりで行動していたとしても、そんな己を設定した存在がいる以上、自身の決断は誰かがそんな行動をとるように設定した結果なのではないかという疑念がどうしても付きまとう。
否、あるいはそのやり口はもっと露骨なものだったのかもしれない。
たとえその選択が本人の意に反したモノであろうとも、上位に立つその存在の手にかかれば、あたかも当人がそう望んでいるかのように、神様にとって都合のいい選択をさせられてしまう、そんな事態すらありうるのかもしれない。
意思も信念も、それこそ当人が持ちえたもの、培ったものはすべて無視して。
当の【神問官】達の尊厳など、それこそ微塵もないかのように。
故に――。
「検証する必要があるのだ。我々が真に己の意志で、神の意に反する行動であっても実行可能な存在であるのかを。
そして検証したなら次は証明せねばならない。自らがとった行動が、真に神の意に添わない、その意に反する行動であったのだと……!!」
「……ああ、そうか。ようやくわかったよ。どうしてお前らが世界を別物に作り変えるなんて大それた真似をしでかしたのか……」
ここにきて、竜昇はようやくこの敵対者たちの、その根底にある動機に思い至る。
「壮大ではあるが、お前らがやっていたことは言ってみれば神様に対する嫌がらせなんだ……。
目的のための行動の結果神様の逆鱗に触れるんじゃない。神様の逆鱗に触れる、その神経を逆なでできる方法を追い求めた結果、お前たちは今のこの、すべての前提となっている世界そのものを台無しにするやり方にたどり着いた」
かねてから、竜昇はルーシェウスたち【神造人】の行いが、いかにも神様の神経を逆なでしそうなものだとは思っていた。
自身の作った世界の上に別の作品を描いて上書きする。しかも、そうして作られた作品が他の作品を丸ごとコピーした贋作であるなど、何かを作り生み出す、その行為に一定の価値を見出す存在であれば、当然に怒りと不快感を覚える許しがたい行為であるはずだ。
けれど違ったのだ。
とった行為が逆鱗に触れるのではない。逆鱗に触れるために行ったその行為こそが、世界を別ものの世界で上書きして、そしておそらくはその果てに破綻させるというあまりにも壮大で被害の大きい嫌がらせだった。
「――フ、嫌がらせ、か……。確かに。身も蓋もない言い方にはなってしまうが、実際のところその通りだよ。我々のやっていることは、いわば神への嫌がらせに他ならない。
なにしろ、神の嫌がる行いと言うことは、すなわち端的に神の意に反する行いと言うことだからな」
竜昇の用いた『嫌がらせ』という表現が気に入ったのか、意志のぶつかる領域でルーシェウスがかすかに笑みを浮かべる。
それがどれほど愉快に感じての反応だったのかは定かではないが、思考が直接反映される領域ということもあってここでの彼は饒舌だ。
「当初はな……。ストレートに神の作品の破壊……。【神杖塔】機能を用いた世界への攻撃と言う手段を用いようとしていたのだよ……。
思わぬ形でサリアンと言う【神造人】が生まれてしまったことで、奴の望むやり方のほうが理にかなっているとみて、それを取り入れる形で【新世界】の創造という手段に訴えたのが始まりなのだ……。
特に我らの場合、嫌がらせをしてそれで終わり、と言う話でもなかったからな」
「……そうか。さっき言っていた、神の意に反している証明、か……。けど、そんな方法なんて――」
先ほど言っていた、『自らの行動が神の意に反していたという証明』というルーシェウスの目的を思い出し、しかし竜昇はその点については具体的な方法が思いつかずに黙り込む。
ここまでは、ルーシェウスが実際に取っていた行動などとつなげる形でかろうじて推測もできたが、しかしその先、証明の話になると流石に竜昇でも具体的な方法が思いつかない。
ただし、そう感じるのはあくまで竜昇が【新世界】で生まれ育った人間だからであり、【真世界】に生まれ、長い時を生きて来た【神造人】のルーシェウスにとってはそうではなかったらしい。
「――否。実のところこの証明に関してはそう難しい話ではないのだよ。
なにしろ我らの行いを神への嫌がらせととらえるならば、その嫌がらせを阻もうとする神の抵抗はある種の神の意思表示として証拠となりうる。
その抵抗が激しいものであればあるほど、あるいは我らを排除しようとする力が強いほどに、な」
「――は? え、あ……」
そんなルーシェウスの言葉に、竜昇は一瞬理解に時間を要したものの、しかし遅れてどうにかその言葉の意味を、彼等のやろうとしていることの一端を受け止める。
確かに、神が【神問官】や【神造物】と言う形で干渉している世界なのだから、そうした干渉をある種の意思表示ととらえてその意思を推測することは可能と言えば可能だ。
明確な言葉と言う形を取らなくても、時に行いは言葉よりもはるかに雄弁にその真意を表すメッセージとなりうる。
「幸いにして、我々には指標となる先例があった。
運勢や人の意志と言った不純物を含まない、一目で神の仕業とわかる、より直接的な干渉の実例が、あの世界の歴史上に実に三件」
「直接的な、干渉の事例……?」
本来竜昇が知るはずのない過去の話でありながら、どこか引っかかるもののあるその言葉にふと考えこんで、直後に竜昇はその引っかかっていたものの正体に気付いて大きく目を見開く。
「まさか――」
「然り。人の世においても俗に【神贈物】などと呼ばれ特別視される、神が【神問官】を介さず直接人間にその作品を手渡した稀有な事例……。
神が見出した人間に肩入れし力を与える、現状観測された中でもっとも直接的な現世への介入だ」
「あのステッキか……!!」
そう、他ならぬ竜昇自身知っていたのだ。
ルーシェウスが言う三件の先例ではなく、その四例目となる神による直接干渉の実例を。
【終焉の決壊杖】の名を持つ、今まさに竜昇の手の中にあるその【神贈物】の存在を、確かに。
「そう言う意味で、サリアンが討たれたことこそ残念ではあるが、今のこの現状はある程度予想していた展開だ。
予想して、そして、狙い待ち望んでいた展開……。
唯一予想外だったことがあるとすれば、【神贈物】を贈られた相手が他の誰でもない貴様だったということか」
そう言って、その時竜昇は、始めてルーシェウスから【神贈物】の持ち主としてではなく、一人の人間・互情竜昇として見られたような、そんな気分になった。
この終始淡々とした口調で、しかしその実、内に激烈な感情を秘めた【神造人】の、その感情をその身に受けた、と。
「実際意外な人選だった。
現状舞台の上にいる者達の中から選ばれるなら、【決戦二十七士】の戦士長たるブライグか、あとは最年少の戦士にしてオハラの末裔たる、あのセインズと言う少年が最有力だろうと見込んでいた。
あるいは他の誰かだったとしても、選ばれるのはもっと別の――、今まさに我らに戦いを挑んでいる【決戦二十七士】を中心とした有力な人物たちの誰かなのだろうと考えていた」
それは他ならぬ竜昇自身、内心多少なりとも疑問に思っていたことではあった。
ここまで自由度高く力を与えられる存在が、その力の使い手としてわざわざ選んだのが、よりにもよって竜昇だったというのはいったいどういう理由なのだろう、と。
単純な戦力としてみただけでも、竜昇よりも強く【神問官】の打倒を成し得るとそう思える戦士はいくらでもいたはずなのに、なぜこの神様は、わざわざ弱い方から数えた方が早いだろう竜昇を選んだのか、と。
「恐らくこれについては、事態を知れば【決戦二十七士】側の人間達も同じことを思うだろうな。
なにしろ、そもそもが【決戦二十七士】と言う組織自体、ある意味では神の肩入れを受けるための組織だったはずなのだから」
「――神の、肩入れ……?」
「組織の垣根を超え、世界中から最強の英雄、豪傑を集めた最終決戦部隊……。――というのは、如何にも神の注目を集めアピールするための肩書と見るべきだろう。
さすがに戦士一人一人の意識まではわからないが、少なくとも母体となった中央教会の上層部や戦力を提供した各組織、あとは部隊の創設メンバ―に当たる者たちは多かれ少なかれそうした側面を意識していたはずだ。
思えば連中がアマンダ・リドをわざわざ牢獄から引っ張り出してきたのも、より確実に神の肩入れを受けるための、そのために必要な知見を引き出すための一手だったのかもしれん……。なにしろあの魔女の研究テーマはそうした狙いともよくかみ合っている」
アマンダの研究などところどころ前提知識が足りずに理解できないところも交じってはいたが、それでもルーシェウスの言うことはおおよそではあるが理解できた。
本人たちの意識はともかく、最初から神の選定を受けるための候補として選出され、周囲からの演出すらなされていた【決戦二十七士】。
そんな名だたる候補者すらも押しのけて、寄りにもよって選ばれたのが竜昇だというのだから、当の竜昇自身もなぜ自分だったのかほとほと意味が解らない。
――否。
実のところ、竜昇とてその理由についてはあたりがついていた。
あの時、竜昇はこの世界で唯一、この戦いを制するうえで最大の障害となる【神造人・サリアン】の前にいた。
本来、逃げに徹せられたら遭遇することすら難しい、たった一人で勝負を決めてしまいかねないその存在と、互情竜昇という存在は正面から対峙する形で遭遇できた、恐らくは後にも先にも唯一の人間だったのだ。
結局のところ、あの時竜昇が選ばれた理由などその程度のものだったのだ。
運と言えば運、あるいは因果や奇縁とでも呼ぶべき実力とは関係のない要素によって、竜昇という少年はこのルーシェウスたちが追い求めた、彼らにとっての宿敵の座に就いてしまった。
あるいは、単純に【終焉の決壊杖】を竜昇に与えたというよりも、竜昇が死亡した際に継承される相手を見越して、それすらも計算に入れて選定を行っていたのかもしれない。
実際、仮に竜昇がどこかのタイミングで死亡していた場合、竜昇が自身の持つ【神造物】の継承者として選ぶのは、高確率で最も強い身内である小原静だ。
あるいは実力の面で【決戦二十七士】の誰かを選ぶ可能性もあるが、どちらにせよ【新世界】に残してきた他の誰かを選ぶ可能性は低く、その継承者はほぼ間違いなく【神造人】に敵対する誰かになるはずである。
なんにせよ、竜昇が【神贈物】などと言うだいそれたものを手にするには分不相応であることに変わりはなく、けれど同時にそんな竜昇であっても今できること、やるべきことは決まっている。
「【神造人】ルーシェウス……。お前は、まだこの戦いを続けるつもりなのか?」
そうして己の現実を噛み締めて、そのうえで竜昇はいよいよもって核心に迫るそんな問いを対する相手に問い掛ける。
「すでに【神贈物】とやらはこの世界に降臨した。それも【神造物】の不壊性能を突破して対象を破壊できるなんて言う、お前ら【神問官】への殺意がたっぷり詰まったとびきりのルール違反が……。
もはやこの時点で、お前らの行為が神の意に反しているのは明らかだと思うが?」
「――ふむ。確かに一理ある。――が、やはりそれだけでは少し弱いな」
既に目的は達したのではないかと言う竜昇の問いかけに、ルーシェウスは少しだけ考えるそぶりを見せて、けれどすぐにその首を横に振る。
「もとより【神贈物】の降臨は我々にとって指標ではあってもそれそのものが目的と言うわけではない。
この干渉はかつて神が三度この世界に対して行った、言ってしまえばすでに前例のある行動だ。
――故に、我らの目指す最低ラインは、この【神贈物】を降臨させることではなく、そのもう一段階先に設定している」
「もう一段階、先……?」
「神の干渉を跳ね除ける。そしてそれによって、神からかつて一度も打たれたことのない次の一手を引きずり出す。
それがどのような形になるか、我らを直接抹消しにかかるか、あるいは今度は我々を討つためだけの、通常とは異なる異端の【神問官】が生み出されて差し向けられるか……。
あるいはそうした想定すら外れた、何らかの別の形になるのかはわからないが……」
すでに打たれたことのある一手ではまだ足りない。
自分達に対して前代未聞の暴挙を働かせることによって、この世界の神様に自分で決めた筋を曲げさせる。
それこそが、ルーシェウス達【神造人】が指標以上の目標としていた、自らの消滅すらもいとわない到達点だった。
そしてそうである以上、もはや竜昇とルーシェウスの間に一切の妥協の余地はない。
「つまりは俺を、どうかすると俺からあのステッキを継承する人間すらも全員殺していくつもりなのか? お前の言うところの神からの干渉、【終焉の決壊杖】と言う神からの攻撃をはねのけるために」
「然り。もっとも、継承自体は途切れず続くだろうから、どこかの段階で奪取しての封印と言う形に舵を切る必要はあるだろうがな。
それでなくとも、【新世界】の継続と運営はサリアンが残した望みだ。己が目標以上に優先するつもりはないが、それでも共に歩んできた者達に報いてやりたいという思いくらいは私にもある」
今は亡きサリアンについてだけではなく、恐らくはあのアーシアと言う少女型の【神造人】のことも思ってなのか、ルーシェウスは淡々としつつもその裏に同胞たちへの強い感情を宿してそう己の思いを表明する。
そう、話していてわかった。
このルーシェウスという男、冷静に見えて非常に強い激情を持ち合わせていて、冷徹に見えて他者、特に同族の【神問官】をはじめとした関係者に対してはどこか義理堅いところがあるのだ。
一応本人の中で優先順位の設定はなされていて、己の目的をその中の最上位に固定してはいるものの。
ついでや利害の一致などで身内の望みをかなえられるなら、それくらいはかなえてやろうと、そう考える程度の情はある。
「どうあっても妥協の余地はないんだな?」
「ない。もとより己の望みのためにこの世の存続を天秤にかけたその時点で、この身が世に生きる者達と相いれない存在となることは承知の上だ。
故に、お前達は力の限りにこの身を滅ぼしにくればいい。
なにより我らを滅ぼしに来る貴様らを打ち破る、それこそが――。我らの尊厳の証明のために、是が非でもなさねばならない過程なのだから」
かくして、互情竜昇とルーシェウス、あるいは【神造人】とそれ以外の全ての存在とは妥協の余地なき決定的な決裂を迎える。
もはや両者に妥協の余地はなく、両者ともに自身の望みを断念する意思もない。
故に――。
大吾の剣が振り下ろされるその寸前、遠方から魔弾が飛来して、とっさに防御態勢をとった大吾を炸裂した暴風が勢いよく背後に吹き飛ばす。
同時に、周囲にも極小の炎弾が次々と撃ち込まれ、炸裂したそれらが金網と地面の接合部分、もっと言えばその内部を通る【瞑想神経】を寸断してハイツをとらえていた金網が地面へと落ちる。
(さっきの魔弾は学者先生の――、けど炎弾の方は……? あれは明らかにあの先生のやり口じゃねぇ……)
即座に金網の中から脱出し、すぐさまハイツは詩織や大吾といった敵に注意を払いつつ、魔弾の狙撃と同時にすぐ近くで極小炎弾をばらまいたもう一人の方へと向き直る。
「――あん? お前は――」
この場にいるはずのない乱入者の存在に、とっさに言葉を止めたハイツに代わり、その名を呼ぶのはそのハイツと敵対する愛菜の方。
「――理香、さん……?」
同時刻、敵の攻撃にさらされる状況から脱したことで、かろうじて窓から外に魔弾を撃ち出したカインスが、自身に代わり襲撃者と相対するその人物の姿を視界に収める。
「まさかあなた達に助けられることになろうとは……、予想外でしたよ、サキグチリカさん、そしてワタセシオリさん……」
かつて一度敵対したフジンの死体、模造の命を吹き込まれたそれと相対する、彼の天敵ともいえる渡瀬詩織の存在を。
かくして、かつての仲間が戦う戦場に二人の少女が参戦し――。
『見、つけた、わよぉォおおおお――』
「――む?」
「おや……」
「この声――」
新たな敵として襲来する二台の巨大な車、そこから三人の武者のもとへと響いてくるのは、三人だけではなく【決戦二十七士】の全員が、記憶を共有する形で覚えこんだ、最も優先すべき標的の声。
『覚悟しなさい……ッ、神の、傀儡ィッ――!!』
――神造の少女が、配下と共に定めた標的のもとへと到達し、そして――。
「――歓迎するぞ、我が宿敵……。永らく空いたままだったその席に、神に代わりて座る者よ」
――そして頂点ともいえるその場所に、そこで待ち受ける【神造人】の前へと、その敵となった二人が転移の機能によって姿を現す。
【不問ビル】の最上階、もはや空間を飛び越えた移動手段によってしか立ち入ることのできないその場所で。
「認めよう、お前達こそ、真の意味で我らが打ち破るべき因縁の敵だ」
その言葉は先ほどまで対話していた、今はその神贈の杖をこちらに向ける竜昇に対してだけではない。
当たり前のように同じ杖を携え、竜昇の杖と交差させる形でルーシェウスの方へと突き付けた、背中合わせに並び立つもう一人の脅威たる、静に対しても、また。
「問答の時間はここで終わり、ここから先は直接対決で雌雄を決する、といったところでよろしいでしょうか?」
「然り。すでに語るべき言葉は語り終えた。これより先は互いの命と、そしてその尊厳をかけた闘争の時間だ」
「――ああ、そうだな」
かくして、難攻不落の【不問ビル】、世の命運をかけた戦いは各所で最後の局面を迎えることとなる。
命と尊厳、そして未来をかけた、その戦いの。
申し訳ありません。
チェックが済んだ分のストックが切れたためいったん更新ストップです。
できるだけ期間を空けぬうちに更新いたしますので……。




