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289:路地裏の強襲

 アーシアたちとブライグ、【神造人】の軍勢と神造サイボーグの激突の様子は、おなじスペースコロニーを模した階層の遠く離れた各所でもはっきりと目撃されていた。


 それこそ、敵も味方も。

 その場所がアーシア達のいた指揮拠点であると理解できた者も、できなかった者も。


「すごい……。あれだけの戦力がいるところに単身で乗り込んで、そのままやり合ってるみたい……」


 そんな目撃していた集団の一つで、自身の視力を強化してその様子を観測していた少女が思わずと言った様子でそう呟く。


 それに対して応じるのは、その場にいたほか四つの人影の内、唯一何処かと通信を行っていた男の声。


「今こっちにも連絡があった。襲撃者はブライグ・オーウェンス。【決戦二十七士】とやらの頭だ。

 撃退、もしくは時間稼ぎはこっちでするから、その間に任務を遂行しろとさ」


「言われなくてもわざわざ戻って戦おうとは思わないけど……。やだな……。これ以上みんなに危ないことをして欲しくないのに……」


「まあ、お前にして見りゃそうだろうが、俺としてもこの仕事は譲れねぇ。現状分断はうまくいってるんだ。こっちは一人片付ければ目標の確保はできる。あとは仕事が片付くまで連中を足止めさえしてくれればそれでいい」


 唇を尖らせる少女に、男が言いたいことを察したが故にか、どこか釘を指すようにそう言って、少女を含めた四つの影と正面からにらみ合う。


 否、あるいはこの場に誰かその様子を見る者がいれば、にらみ合っているのが男と少女だけで、それ以外の人影がそんな二人の人影に見向きもせずに棒立ちのままでいることに気付いたかもしれない。


 あるいは、譲れないといって少女に相対する男のその目に、対立や敵意と言った感情以外の感情が滲んでいることにさえも。


「なんにせよ、あれだけの脅威が場を離れているというならむしろ今は仕事を果たす絶好のチャンスだろ。

 渋ってないであれが戻ってくるその前に、とっとと仕事を果たしてしまうとしようじゃねぇか」


 天井にも見える町との境界で、水でできた巨大な魚影が姿を現す。

 天空の戦い、その様子に二人がそれぞれ背中を向けて、従うように三つの影が戦いの場へと動き出す。






「やれやれ助かりましたぞ。お味方とはぐれ、ここは我らが合流の一助とならねばと逸ったものの、某の捜索能力はお世辞にも高くありませなんだからなぁ」


 ブライグと別れた後、彼が残した情報を元に味方の捜索に当たっていたカインスは、まず優先的に狙っていた三人のうちの一人であるサタヒコ・コンゴウと言う男と合流を果たし、建物の裏の路地を連れ立って移動していた。


 いかにも武人然とした、大柄な体格に巨大な得物を肩に担いだ、この状況でもなお声の大きい、そんな男。

 そんな相手に口の前で指を立てて注意を促しながら、カインスはこの男と優先的に合流した、その目的のひとつ目を果たすべく問い掛ける。


「それでサタヒコさん、例の二人の安否は?」


「無論無事は確認できております。加えて言うなら二人とも一緒です。ただ最悪の事態にはなっていないので、我らの誰も合流せず、こうして他の方々を探していたわけですが」


「なるほど……。とは言えそれなら一度集結も視野に入れた方がいいかもしれませんね。

 今だから明かしますがブライグ殿にはこちらの位置を探る隠し玉がありますし、ヘンドル殿については残念ながらすでに戦死が確認されています。

 残るはハイツ君一人ですが、逆に言えば彼の行方さえわかれば後の二人との合流はそれほど難しくない――。……止まってください」


 まるで今の状況ならもう集結することは難しくないかのようにそんな会話を交わしながら、ふと何かに気付いたようにカインスが手ぶりも交え待ったをかける。


 対するサタヒコの方も、瞬時に身に纏う空気が様変わりするのは、やはりさすがと言うべきか。


「待ち伏せ、いや、それとも罠の類ですかな? 正直某の探知能力では何も感じられんのですが」


「いえ、わかりません。ただの勘です」


「なるほど、それは厄介な」


 ともすれば何の根拠もない取り越し苦労を疑ってしまいそうな言葉に、しかしサタヒコはむしろこのカインスでさえ即座には見破れない手練れが相手なのだとそう判断する。


 同時にカインスが使用するのは、周囲の敵に居場所を気取られかねないためにおいそれとは使えない隠蔽破りの波動。


「暴きます」


 竜昇達が【探査波動】と呼んでいた法力を周囲へと撃ち放ち、隠蔽の法力に包まれた界法の気配を周囲一帯から一斉に暴き出す。


 果たして、カインスの直感と技法で露わになった直感の正体は――。


「学士殿――!!」


 次の瞬間、カインスが放った法力を受けて壁や地面の各所で一斉に界法陣が起動して、二人を取り囲むように展開されていたそれらが一斉に法力の矢を浴びせかける。


 着弾と同時に炸裂する機能を備えた矢の集中砲火が狭い通路の中で一斉に起爆して、けれど肝心かなめの二人についてだけは、カインスが寸前で展開した人間二人を守り切る強固なドーム状の障壁によって阻まれる。


「設置型の罠でしょうか? 我らが入り込みそうな場所を想定してあらかじめ仕込んでいた?」


「いえ、この術式は――。サタヒコさん、足元」


 指摘した次の瞬間、ドーム状の障壁、それに唯一阻まれていなかった足元の地面に突如として界法陣が浮かび上がり、真上にいるカインス目がけて矢を放とうとして、しかしそれを成す前に生成した矢諸共オーラを纏ったサタヒコの足によって踏み砕かれる。


「今のは――」


「記憶領域内に類似の技術体系が一件該当。南方の僧侶たちが使う【体化】と呼ばれる技術に似たような界法陣が存在しています。

 【瞑想神経】なる技法で無機物内部に法力による神経を張り巡らせて振動などを感知、さらにその神経網の先に先ほど見たような界法陣を【遠隔刻陣】、目や耳の代替として敷設したり、先ほどのような界法の発射地点として使用することもできるのだとか」


 装備の各所に固定されそれぞれ起動する【教典】の機能を利用し、自身の記憶からかつて得た知識を引き出し、カインスはそうした情報を簡潔にまとめてサタヒコと共有する。


 教会の御用学者と言う地位故に世界各地の技術情報に触れる機会を持ち、同時に自作した多数の【教典】の効果によってただでさえ高い分析力を底上げし、さらには自身の記憶から的確に知識を引き出すことさえ可能なカインスは、【決戦二十七士】の中でも他の追随を許さない高い分析能力の持ち主だ。


 知識として情報に触れたことがある技術体系なら即座にその正体を看破できるし、仮に未知の、あるいはまったく新しい技術であったとしても、その性質や弱点などある程度推測、看破することすらできてしまう。


「つまりはこの壁や地面の奥に敵の神経網が根のように広がっているということですかな?」


「加えて言えば、張り巡らせた神経を基に筋繊維のようなものを生成、そこらの無機物に纏わせて動かすといった芸当もできるようです。

 そして弱点は、この神経網を展開する際、術者が起点となる地面との設置個所からほとんど動くことができなくなること」


「なるほど、樹木が根を張るように神経網を広げるから樹木のように動けなくなる――、あるいは動いた場合に広げた神経網との接続が切れる、と言ったところですかな」


「縛りの性質としては後者が近いですね。故に動き回りながら使う必要のある戦場には不向きだが、拠点防衛などには最適な技法ともいえる」


 そう語るカインスの横で、サタヒコが彼自身の得物を、巨大な鉈の背を金棒に変えたような、あるいは棘付きの金棒の片側を分厚い鉈の刃に変えたような、二つの武器を組み合わせたかのような【鬼鉈】の名を持つ武器を振り上げる。


 己が肉体と鬼鉈に幾つかの加護(オーラ)を纏わせながら、カインスが障壁を解除するのと同時に行うのは、この状況の文字通りの意味での打開と、一つの実験。


「【発破雷(はっぱらい)】--!!」


 鬼鉈の金棒部分で殴打した次の瞬間、左手のビルの壁面に巨大なクレーターの如き陥没が生まれ、直後に耐え兼ねたようにその壁面がビル内部へと向かって吹き飛んでいく。

 同時に、鬼鉈が帯びていた電撃が壁面内に潜んでいた神経網を駆け巡り、直後にその神経網が跡形もなく消滅する。


「この感じ、壁などの媒体を砕けば自然と消滅するようですなぁ。半面神経だからと言って電気が通ったり、痛覚が伝わったりと言うデメリットもない」


「今の一撃を受けても他の壁や足元の神経網を解除しない当たりそうなんでしょう……。流石にそんな都合のいい弱点も無いですか」


 右手の壁面に表出した界法陣、そこから放たれる法力の矢を指揮棒(タクト)から放つ炎弾で相殺しながら、同時にカインスは事前知識にはなかった部分の解析を進め、さらには彼にしかできない役割すらもこなして見せる。


「サタヒコさん、右の壁は三秒後に。一応反撃に警戒してください」


「応さぁ――!!」


 続けて一撃を叩き込む前に一拍おいて、歩む中で降り注ぐ矢を鬼鉈の一振りで振り払ってから、きっかり指定の三秒後にサタヒコは再び、今度は右手のビルの壁面に同じように一撃を叩き込む。


 恐らくはサタヒコの方もある程度予想はしていたのだろう。

 ビルの壁面が陥没し、直後に先ほどよりも激しい勢いでコンクリートの壁が内部へと吹き飛んで、それによってビル内からこちらに忍び寄っていた三体ほどの【擬人】が吹き飛んできた破片の直撃を受けて消滅する。


 否、ビル内部にいたのは三体ではなく、上の法の階にもう一体いたようだったが、そちらについてはカインスの方で対応済みだ。


(標的位置補足――、弾道計算完了――、弾丸生成――、発射――!!)


 カインスの振るう指揮棒(タクト)から極小の炎弾が放たれて、それが砕かれた壁や床の隙間を潜り抜ける複雑な動きで飛びぬけて、その先にいる生き残りの一体の顔面へと直撃し、その【擬人】をあっさりと一撃のもとに消滅させる。


 とは言え、たかだか四体を倒した程度で終わるほどどうやら敵方も甘くはないらしい。


「やれやれ、どうやら敵方、こちらの位置を察知して包囲して来たようです」


「数はいかほどですかな?」


「その先の通路、右手から五体に左手から三体、背後からも三体分の敵を確認。左右のビルの向こうにそれぞれ四体と二体いますが、そいつらがビルの中を通って来るか、通路を迂回するかはまだわかりません」


「合計十七体、しかも動いているということは――」


「――ええ。【体化】を使用していた奴とはまた別というこ――、上空ッ!!」


 そうカインスが指摘した次の瞬間。正面のT字路、あるいは進むにあたってぶつかるビルを飛び越える形でその向こうから何かが放たれて、空中で弧を描きながらカインスたちのいる場所へと落下して来る。


 否、『なにか』などと言うわかりにくいものではない。

 この状況でそんな軌道を描いて落ちてくるものなど、そんなもの考えるまでもなくただ一つだ。


「前方上空から法力封入の【矢】の飛来を確認……!! 術式系統は爆裂系--、いえ、分割機能付きです――!!」


「それはまたド派手に……。学士殿――!!」


 大男が呼び掛けた次の瞬間、飛来する途中、あるいは着弾の寸前に空中で分裂した矢がカインスたちのいる路地とその両側のビルに一斉に着弾し、【擬人】達の到着する寸前のその場所を幾重にも重ねる形で爆撃する。


 味方の戦力が到達する前だというのに、執拗なまでに。

 まるで恨みか憎悪でも、その攻撃によってぶつけるように。



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