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難攻不落の不問ビル ~チートな彼女とダンジョン攻略~  作者: 数札霜月
第六■  炎上到達のシンソウ域
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248:擬人部隊

 純白の閃光と共に氷結の嵐が吹き抜ける。


 存在するものすべてを凍り付かせるような、人間など寒いと感じる間もなく氷漬けにできてしまうほどの冷気が、敵であるアーシア達を観客席にいる静達諸共蹂躙する。


 決して殺すことのできない【神問官】を、殺すのではなく氷漬けにして封じることで無力化する。そんな狙いの元振り下ろされた巨大な冷気とブリザードの塊が、剣の動きに合わせて振り下ろされて、そこにあるモノ全てを純白の輝きで塗りつぶす。


 とは言え、いかに殺傷を目的としていなかったとしても、こんな冷気の奔流に飲み込まれれば、通常の人間などまず生きてはいられなかっただろう。


 それこそ、位置的には冷気の奔流から外れた、付随するブリザードに飲み込まれただけであったとしても。


(――単純に燃やすだけかとも思いましたが、あるいはこの【神造物】は炎の持つ性質なら熱量もまた操作対象なのでしょうか……?)


 そんなブリザードの中にありながら、座席の影に隠れるだけで生存を果たしていた静が、押し寄せる雪の粒が自身の体で燃える炎によって蒸発するのを眺めつつそう分析する。


 先に同じ魔法が発動した際、オルドが炎を纏った状態でその魔法の効果圏内に存在していたことからある程度予想はしていたが、やはりこの【裁きの炎】にはこの極限の極寒環境でも炎を纏った人間を生存させる効果があるらしい。


 場合によっては、火刑の炎となって静を焼き殺していたかもしれない神造の炎は、しかし今はその熱量によって押し寄せる吹雪を完全にシャットアウトして、それどころか焚火に当たっているかのような暖かさすら伴って吹雪の中の静を完全に守り切っていた。


(――どうやら、オルドさんもまだ、この段階でこちらを使い捨てる気はないようですね……)


 この場での共闘を成立させるにあたって、オルドに対して最低限のメッセージを送るだけで自身に火をつけ、生殺与奪の権を握らせるという特大の賭けに出ていた静であったが、もしもそれが第一の賭けであったとすれば第二の賭けは敵を氷漬けにする、まさに今のこの瞬間だった。


 場合によっては、この魔法が発動した段階でオルドが静を用済みとみなして殺しにかかる可能性は決して低くないと思っていたし、そこまで積極的な殺害には及ばずとも、静を炎による支援の対象にしないという消極的な対応によって見殺しにすることも、先ほどまでの状況を考えれば十分にあり得ると考えていた。


 この点について、静の側にも何ら対策を討つ余裕もなく、完全にオルドの判断にその命が委ねられていたわけだが、どうやら今回オルドは静の殺害を再度見送る決断をしたらしい。

 それが静達に対する見方に変化があった結果なのか、それとも単にすでに火のついた静はいつでも殺せる、今はあのルーシェウスと言うらしい【神造人】への対応が優先である、と言った判断が働いたのかは定かではなかったが。


(――もっとも問題は、こちらが共闘できるかではなく、共闘した結果この敵を打倒できたかと言う点なのですが……)


 そう思考を切り替えて、静は冷気による靄で白く染まったその向こう、先ほどまでそこにいた敵の様子を確かめるべく目を凝らす。

 いくらなんでもあれだけの規模の魔法、とっさの判断で防いだり効果範囲から逃れたりはできないはずと、そう思っていたのだが――。


「――!!」


「やって、くれたわね……!!」


 靄が晴れたその瞬間、苛立ちに満ちたそんな声と共に、一切凍り付いた様子もなく一人の少女が姿を現していた。


 ――否。実際のところ、現れたのは少女一人ではない。


 なにしろ彼女の周囲には、先ほど侍らせていた執事やメイドたちとは別に、さらに多数の執事やメイドが現れて、そして彼らに付き合うように大量の武器がコンクリートの床に突き刺さっていたのだから。


「――、増援……!?」


 目の当たりにした光景に、続けて静は思い出す。

 考えてみればアマンダがやられた際、あのルーシェウスも何の前触れもなく突然彼女の背後に現れていた。

 あの時は考えている余裕もなかったうえに、似たような出現の仕方をしていたスマートフォンの【影人】や、姿どころか気配に至るまで自在に消せるフジンのような前例を知っていたためそこまで思い至っていなかったが、今にして思えばそのメカニズムについてはきちんと考えておくべきだった。


(テレポート……。元からこの場に味方が隠れていたのではない……。危機に際して別の場所にいた味方を送り込んで来た……)


 床に刺さる武器が到底隠し持てるサイズではなく、現れた大量の【影人】達が事前に潜んでいたとも思えない以上、導かれる結論はそれしかない。

 恐らく、つい先ほどまで別の場所にいた追加戦力が、アーシアの危機に際してこの場に送り込まれてきたのだろう。


(恐らくは空間を飛び越えて別階層にすら移動できる瞬間移動……。最初のアマンダさんへの不意討ち以外では使っていない所を見ると戦闘に使える手札ではないようですが……、それともテレポートが使える存在は別にいると考えるべきでしょうか……?)


 同時に、靄が晴れたことで先ほどの冷気をどうやって防いだのかもよくわかった。

 見れば、アーシア達のいる周囲には砕けたシールドの消えかけの残骸や、何らかの魔法の残り火のようなもの、そして靄の動きで見える不自然な気流などが散見している。


 恐らく、追加で送られてきた者達がそれぞれの形で冷気に対する防御手段をとって、それらを人数にものを言わせて積み重ねることでギリギリ主と自分達を守り切ったのだ。


 いくらセインズの魔法が強大で、瞬間的に発動させられる魔法では対抗できない規模だったとしても、人数にものを言わせて多重発動させればそれに匹敵する力くらいにはなる。


 とは言え、それとて言うほど簡単ではなかっただろうし、なにより敵にしてもかなりギリギリではあったらしい。


「お嬢様、ご指示を」


「――ええ、ええ……!! 私の指示は簡単よ……。予定の通り、全員まとめて始末なさい……!!」


 近くにいた執事からその問いに、危機に陥ったせいなのかアーシアが半ば感情的にそう命じる。


 そしてこうなって来ると、この状況は恐らく最悪だ。


 単にセインズの攻撃が失敗に終わった、というだけではない。

 すでに二度同じ攻撃を仕掛けて二度とも失敗しているというのもそれはそれで問題だが、今それ以上に問題なのは投じられた戦力の圧倒的質と量だ。


 ざっと数えただけでも、人間の形態をとっているものだけでも三十人以上。

 しかもそれらすべてが人間に匹敵する知能を獲得するに至っている、いわば静達がこれまで遭遇して来た【影人】の上位種だとすれば、その一体一体の脅威度は下手をすれば各フロアのフロアボスを超えている。


 そんな敵が統制の取れた集団として襲い掛かって来るなど、もはや静達にとっては悪夢以外の何者でもない。


「――一人残らず殺しなさい。これ以上、この連中にアタシたちが煩わされることが無いように……!!」


「――御意に」


思うさなか、アーシアの言葉に一番近い執事が短く答え、同時に居並ぶ執事とメイドたちが次々に床に刺さった武器を抜き放つ。


(――ッ……!!)


 間髪入れず、多種多様な武器を携えた執事とメイドの集団が、静を、セインズを、そしてグラウンド上にいる竜昇達を標的と定めて、一糸乱れぬ動きでそれぞれへと別れ、怒涛の勢いで襲撃を開始する。


「――ッ、変遷――」


 静の方へも、一際大柄な執事が背中から腕にかけて棘だらけの魔力の鎧を展開して、その棘が上空に撃ち出されたことで否応なく戦いの火ぶたが切って落とされる。


「――【苦も無き繁栄(ペインレスブリード)】――!!」


 上空から雨のように降り注ぐ鉄棘に対して、静はすぐさま手の中の武器を石刃から苦無に変換。分裂する苦無を二度、三度と振るって増える傍から苦無を飛ばし、飛来する過程でさらに増えた苦無が空中で鉄棘を迎え撃つ。


「――【突風斬】」


 直後に引き起こされる暴風の炸裂。

 降り注ぐ鉄刺の大部分が空中で吹き飛ばされて見当違いの方向へと落下して、しかしそんな対応を行う間にすでに状況はいくつもの形で動き始めていた。


(――!!)


 両手に短剣を逆手に握った執事が、左手側に鞭らしきものを携えたメイドが展開し、さらに正面からは大柄な執事の隣でもう一体別の執事がドッチボール大の電撃の塊を発射する。


(――ッ、これでは、ほかの方のフォローなんてとても……!!)


 思いながら、正面から迫る電撃弾を相殺するべく苦無を投擲、さらに両サイドに分かれた執事とメイドにもそれぞれ分裂投擲を行って、動きをけん制しつつ片方に向かって斬りかかろうと、そこまでを瞬時に考えて――。


「――ッ!?」


 直後、静の目論見は、最初の電撃弾の迎撃の段階であっさりと打ち砕かれることと成った。


 投じた苦無と電撃弾が接触したその瞬間、はじけるようにその雷が球体状の形を失って、しかし指向性だけはそのままに静のいる方向に向かって放射状に広がり襲い掛かって来る。


(――あえて迎撃させることを念頭に置いた、接触炸裂弾……!?)


 正面から襲い来る電撃をもろに浴び、静がとっさに纏った【甲纏】のオーラが大幅に減衰する。

 そうして生じた隙を突くように、両サイドに散った執事とメイドがそれぞれの形で動き出す。


 両手に短剣を逆手に構えた執事が、その刀身に魔力を纏わせて鎌のように弧を描いた巨大な刀身を展開し、静の首を跳ねるべく横薙ぎの斬撃を叩きつけてくる。


(――受け止めるのは、無理……!!)


 迫る魔力の刃を理香の使う【斬光スキル】による防御不能斬撃と同系統のものと判断し、とっさに静は迫る第一の刃を身を落とすことで回避、続けて迫る第二の刃を、がら空きになった敵執事の真横へ飛び込むことでやり過ごす。


「――【爆道】……!!」


 加速と共に真横の執事を突き飛ばし、それによって静はひとまず包囲された状態からの離脱を図る。

 敵の数は四人と他へ向かった数に比べると一番少ないようだが、このまま囲まれて主導権を握られたままではジリ貧だ。


 そんな思考の元、ひとまず最初の一人をやり過ごしてその抜けた穴を突破しようとしていた静だったが、しかしそんな思惑は直後に敵のち密な連携によって阻まれることになった。


 視界の端で、左手側に控えていたメイドがその手の鞭を振り回し、離脱を図る静へと向けて横薙ぎの一撃が襲い掛かる。


 否、それは鞭による横薙ぎの一撃だった(・・・)、と言うべきか。


 鞭の先端、静に迫るその位置で突如として球体状のシールドが展開されるまでは。


(――!?)


 突如として拡大した敵の攻撃範囲に、とっさに静は右手の籠手を用いてシールドを展開、直後に同じ大きさにまで拡大したシールド同士が激突し、静の側がまるでバットで撃たれたボールのように空中へと向かって打ち上げられる。


『――!?』


 単純に力負けした、という訳ではない。

 激突の瞬間、静自身が左足のグリープを用いて自身の体重を軽減し、あえて打ち上げられることで自身の足が止まる、その最悪の事態を回避したのだ。


 とは言え、案の定足を止めていたらただでは済まなかったことは確かなようで、メイドの手によって鞭が引き戻されたその瞬間、二つのシールドが激突したその位置に次々と鉄棘や電撃が殺到する。


 もしも足を止めていたらどうなっていたか、その結果を空中にいる静にまざまざと見せつけて、直後にその攻撃の矛先が静を追って全て一斉に宙を向く。


 とは言え、流石に仕損じた後とあっては、空中にいるとは言え静を捕らえるには一手遅かった。

 否、この場合空中にいるからこそ、と言うべきか。


「変遷――」


 手の中の武器を弓へと変換し、同時に右足のグリープに魔力を流してシールドに魔力に依る重圧をかけることで、静は迫る攻撃を迂回して、矢の代わりに己自身を標的目がけて叩き込む。


 狙うのは先ほどから後方で電撃を放っている小柄な執事。


 一人離れた後方で孤立し、巨大な武器を背負いながらもそれを使わずに魔法を撃ち込んで来る少年のような外見の執事に対して、静はその攻撃をシールドで受け止めながら、【加重域】によって威力を増した全力のドロップキックを叩き込む。


「【落下衝突(シールドダイブ)】――ッ、――!?」


 そうして、静の一撃が直撃しようとしていたその瞬間、突如として少年執事の手によってその背にあった巨大な斧が抜き放たれて、静の全体重に速度と重量を上乗せした一撃が、あろうことか正面から受け止められていた。


(――!?)


 思っていたよりパワーがある。

 そのことに驚きかけた静だったが、しかしそのことに驚くその前に、さらに驚くべき事態が目の前の少年執事によって展開されることになる。


「ゴ、ラ、ゴラララララララッ――!!」


 執事の様子に静が違和感を覚えた次の瞬間、異様な雄たけびを上げながら執事の全身を黒い煙が包み込み、小柄な執事がその体格に見合わぬパワーで静をシールド諸共床へと叩き付けていた。


「――ッ」


 クッションの役割を果たしたシールドが砕け散る中、とっさに床を転がった静が続けて振り下ろされる一撃からどうにか逃れて立ち上がる。


(動きが、先ほどまでとまるで違う……!!)


 先ほどまでは明らかに後衛の術師としての立ち回りをしていたというのに、今目の前にいるこの少年執事は明らかに前衛で戦う、それもとびきりのパワーファイターのような立ち回りをしている。


 そのことに違和感を覚えていると、ふと静は小柄な執事の体を包む黒い煙が、執事ではなくその手が握る斧から発生していることに気が付いた。


 そして一度気付いてしまえば、それと似通った現象に静は心当たりがある。


(武器が使用者を乗っ取って……、それによって状況に応じて戦闘スタイルを切り替えているのですか……!!)


 思い出すのは、かつて監獄を模した第四層で、城司の意識を乗っ取り暴れまわっていた、あの拘束衣のフロアボスの存在だ。


 あるいはその在り方を、この場にいない竜昇であれば持ち主を乗っ取る魔剣・妖刀の類に例えていたかもしれない。


 もしくは、独自の判断力を持ち、時に持ち主の体を操り、あるいは独自に魔法を使って使い手をサポートするその存在を、竜昇であれば人格搭載武器(インテリジェンスウェポン)と言う呼び名で言い表していたのかも。


(先ほどの鞭のシールドにしても、発動させたのは恐らく振り回しているメイドの方じゃない……。鞭そのもの(・・・・・)が自己の判断で魔法を使用してきている……)


 シールドの展開箇所がメイドの周囲ではなく鞭の先端部分であったことからそう予想して、いよいよ静はこの敵の厄介さの性質を思い知る。


 そしてこうなって来ると、先のアーシア達がそうだったように、この敵も見かけ通り、その人数が四人だけとは言い難い。


 恐らくは装備する武器や防具まで含めての一部隊。

 装備する武装が、装備する本人の意思とは別に状況判断を行い、必要に応じてその能力に応じた手段で使い手を支援する。


見た目と実際の人数が明らかに食い違った、恐らくは【決戦二十七士】をも相手取ることを想定した決戦部隊。


(もしも今勝機があるとすれば、それは――)


「――グ、ッ、ォォ――!!」


 そう考えていたまさにその時、静を取り囲む敵の中の一体がうめき声をあげて、同時に武器を取り落したのか金属音が二つ重なるようにしてあたりに響き渡る。


 見れば、そこでは先ほどの短剣使いの執事が、その身を燃え盛る炎に包まれて、人に近かったその体が黒い煙となって崩壊しかけているところだった。


(――やはり、オルドさんのこの炎はこの状況下でも勝機たりうる……!!)


 短剣を使う執事に対して静が火をつけたのは、先ほど攻撃を掻い潜り、執事の横を走り抜けたその時のことだ。

 すれ違いざまに相手を突き飛ばし、その際にどさくさに紛れて相手に触れることで、静は今も自身の体を包み燃え盛る炎の一部をこの執事にも燃え移らせていた。


 幸いにして、どれだけ外見が人間そっくりに見えても【影人】である執事たちの肉体を構成するのはあの黒煙だ。

 そして当然のように、【影人】の黒煙はオルドから借り受けた神造の炎の焼却対象に指定されており、そのおかげで炎を纏う今の静であればただの一度の接触でも容易に火を燃え移らせることができる。


 そして消すことができない関係上、一度でも燃え移らせることができれば勝利が確定すると、つい先ほどまで自分達がこの敵とやり合っていたが故にある種の実感と共にそう考えて――。


(……!!)


 次の瞬間、まわりにいた執事やメイドたちからの攻撃が炎上する執事の体に直撃し、黒い煙でできた執事の体があっけなく砕かれ、四散する。


 そうして、炎と共に飛び散った肉体の後に魂足る核が残されて、そこに遅れて振るわれた鞭がその先端からシールドを展開し、内部に核を取り込んでそのままメイドの元へと回収していく。


 ほんの一瞬、介入する隙も無い早業で。

 火に焼かれる肉体だけを破壊して、回収された執事の核が直後には一振りの薙刀へと変わって、それと交代するように同じく回収されていた二振りの短剣の一つが大柄な、どう見ても男にしか見えないメイドへと変わって残る短剣と薙刀を同時に装備する。


(……なるほど、この敵に限って言えば肉体に火をつけても意味がない……。【影人】達の肉体はあの黒い煙で出来ているから、いざとなったら肉体を放棄して核だけを逃がせば炎から逃げられてしまう)


 これが生身の人間だったならば、それこそ火のついた箇所を切断でもしなければ炎からは逃げられなかったのだろうが、現在静が相手をしているのは物品に魂を宿らせて生まれた【影人】だ。


 肉体を簡単に犠牲にできる以上、半端なところに火を移しても意味はない。

 しいて意味のある個所があるとすれば、それはこの敵の魂ともいえる核の部分か、あるいは素体となっている武器そのものと見るべきか。


(先程の鞭による攻撃、寸前でシールドを展開したのは、恐らくこちらの逃げ道を塞ぐ目的だけじゃない……。恐らくは鞭そのものが、火のついた私の体に直接触れるのを嫌ったが故のモノ……。

 思い返してみれば、この方たちは武器で攻撃するときもできるだけ私の体への直接の接触は避けていた)


 斧による迎撃を受けた時もその攻撃はシールド越しで、だからこそ静は間一髪難を逃れることができたし、執事が短剣で攻撃してきたときも、その攻撃は魔力の刃で武器を包んだ、受け止められない防御不能なものだった。

 恐らくこの【影人】達は、自身の黒煙の体で静に接触すること以上に、武器そのものに炎が燃え移ることを避けている。


(――となれば、狙うべきはいつも通りの核の破壊か、敵が武器形態の時を狙っての武器そのものへの着火と言ったところでしょうか……)


 こうなって来ると、敵に回すと恐ろしい分オルドの【裁きの炎】は味方につけると有用だ。

 【影人】の肉体への着火にしたところで、煙でできた体を維持できなくして行動を制限できるという意味では決して無意味ではないし、今も静の全身と武装が燃え続けている関係上相手に火を移すこと自体は決して不可能という訳ではない。

 防御面でも、静を包む形で燃える炎に触れられない関係上、今もこの【影人】達は多少なりとも行動を制限されているくらいだ。


 そうして、静が強敵に対してそれでもどうにか活路を見出して、消えることなき炎を戦術の中核に、なんとか勝利のための算段を付けようとしていた、まさにその時。


「――おや?」


 あまりにも唐突に。その戦術の中核である【裁きの炎】が、持ち主の意思以外では消えないはずの神造の火が、まるでろうそくの火に息でも吹きかけたようにあっさりと、消え去った。


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