232:燃え迫る火に注ぐ
異端者と思しき少年少女の集団を火刑に処するオルドの道のりは、しかし想定していたよりも思いのほか遠回りを余儀なくさせられていた。
そうなった理由は他でもない、追い立てる一団の首魁と思われる術師の少年、その者の仕掛ける罠が想定していた以上に悪辣だったからである。
閉ざされた扉の前、その足元とドアノブ、そして扉をくぐった先のすぐ床に立て続けに電撃系の界法が仕掛けられ、潜伏している。
さらにその先、彼らが進んだと思しき階段が一面黒雲が立ち込めていて、足元はもちろんのこと、罠が仕掛けられていたり、待ち伏せされていたりしてもそれを察知できない状況になっている。
そしてこうなって来ると、さしものオルドでも軽々にその道は突き進めない。
電撃の威力は一発一発はオルドの身を守る加護を破れるほどではないが、立て続けに引っかかるようなことがあれば流石に守りを突破されて生身に届いてしまう。
ましてや、そうして守りを相殺されたそのタイミングで、雲の中に隠れる敵に攻撃でもされれば、信仰に篤いオルドと言えども敗北は必至だ。
オルドが相手どっているこの敵はなかなかに強かで悪辣だ。
逃げると見せかけてオルド達を罠へと誘い込もうとしている可能性も決して否定できない以上、取り逃がす可能性を考慮してもなお慎重に事を運ぶべきだろう。
そんな判断のもと、敵の逃げた階段へは火を放つだけであえて回り道をし、遠回りになる別の階段を駆け上がって竜昇達を追いかけて来たオルドは、しかし案の定、階段を上り切ったところで敵からの攻撃を受けることになった。
「ヌゥッ――!!」
寸前で察知して飛び退いたオルドの目の前を、雷光が容赦なく貫き、続けて振るわれてオルドの身を両断すべく襲い掛かってくる。
見覚えのある攻撃を態勢を落として潜り抜けながら叫ぶのは、その攻撃の主に対する罵声が如き言葉。
「貴様か、小僧……!!」
身に纏う雷の衣、全身を覆うその力場の内、肘から先の部分をあえて小分けにして切り離す。
本来ならば一つのものである雷の衣を、一度の使用で全てを使い切ってしまわないよう分割し、そうして小分けにした電気を掌に纏わせ、空中にある雷球を掴み取る。
結果生まれるのは、確保しておいた全ての電力を注ぎ込むわけではない、けれどそれ故に気軽に使える、継続放出による電撃剣。
「一閃――、【光芒雷刃】――!!」
掴んだ雷球から刺突の如き光条が放たれて壁へと突き立ち、そのまま振り抜く腕の動きに連動して雷の光条もまた真横へと薙ぎ払われる。
『貴様か、小僧……!!』
寸前で攻撃を察知し、回避しながら叫ぶオルドに対して、しかし竜昇は焦ることなく同じ要領で左手でも雷球を掴み取る。
狙うのは、薄暗いこの病院の光量にすでに慣れて来ているだろうその両目。
「【光芒雷刃】――!!」
『――む、貴様そのかっ――、くぉぉぉぉォォッ!?』
刺突、そしてそこからの斬り払い。
剣術スキルなどがない闇雲な攻撃ではあるモノの、貫通性能を持った魔法ゆえに決して無視できないそんな攻撃に顔面を狙われて、とっさにオルドは頭を振って最初の刺突を躱し、続く斬撃を後ろに下がりながらシールドを展開することでかろうじて受け止める。
だが――。
(甘いぜ……!!)
いかに剣による斬撃に近い外見になっているとは言っても、【光芒雷撃】はもともと貫通性能を持った魔法だ。
電力を供給し続けることで放出を継続する【光芒雷刃】も当然その貫通性能は健在で、狙い通りシールドの表面がノコギリか何かに削られるように荒く砕かれて、ほどなくして内部へと侵入した雷刃をオルドが再び頭を下げることでどうにか回避する。
とは言え、不意打ちで竜昇が優位をとれたのはさすがにそこまでだった。
『図に乗るな、異端の小僧が――!!』
身を落としたオルドが手の中のメイスを振り払い、それによってシールドの残る下半分が内側から砕かれてその破片が竜昇のいる方へと飛んでくる。
否、それはメイスでシールドを叩き割ったというよりも、城司がそうしていたように展開したシールドを自壊させてこちらに飛ばしてきたのだと見るべきか。
なんにせよ重要だったのは、飛来するシールドの破片のその一つ一つに、オルドが持つメイスの先端についているのと同じ輝きすぎる炎が灯っていたということだ。
「ッ――、シールド――!!」
とっさにこちらもシールドを展開し、襲い来る破片のほとんどから身を守った竜昇だったが、しかしほんの一欠けらの破片がその展開に先駆けて、竜昇の足元へと落下し火の粉を飛ばす。
一度着火したら消すことのできない脅威の炎が、ほんの一欠けらであっても致命的な要因になりかねないそんな火の粉が、容赦なく竜昇の方へと飛んでその身の布地に火をつけて――。
「――ッ」
着火したと見た次の瞬間、即座に竜昇はその部分のシーツを剥ぎ取って、同時に【電導師】で守る範囲を調整してそのシーツを電撃に晒して、炎が燃え広がるその前に、布地自体を竜昇自身の電撃によって焼き尽くす。
そうして竜昇自身の体に炎が到達するのを防いだ竜昇に対し、体勢を立て直したオルドが口にするのは、ようやく理解できるようになった彼らの言葉による挑発じみた言葉。
『貴様、なんだその格好は……。まさか今さら信仰心に目覚めて、男の貴様が敬虔な修道女にでも化けたつもりか……?』
攻撃に転じたことでふたたび竜昇の現在の姿を視界に収めて、オルドがただでさえ険しい顔をさらにしかめたまま、本気とも冗談とも取れないそんな口調で竜昇にそう問いかける。
現在の竜昇の格好、それは一言で言ってしまえば、その全身にシーツを巻き付け被ったシーツのお化けだ。
今の竜昇はここに来る途中でみつけた、リネン室にあった大量のシーツや白衣を拝借し、それらを体中に巻き付け、覆い、被ることで、肌の露出を極力減らした格好でこの危険な炎を操る男に相対している。
その姿は、確かに敬虔な修道女に、まあ無理をすれば見えないこともないが、しかし竜昇の認識ではKDSAとでも呼ぶべき珍妙な姿。
実際、動き回ることを想定していないため体重を軽減してぴょんぴょん飛びながらやってきたような恰好なのだ。
自分がいかに珍妙な格好をしているかなど、他ならぬ竜昇自身が一番よく知っている。
(けど、着込んできた甲斐はあった……!!)
敵が迂回してこちらに向かってきていると悟って竜昇はここまで可能な限りの準備をしてきた。
例え火の粉ひとつでも、一度付いたら消えない炎から身を守るための布地の鎧。
そしてこの敵に対抗するための、より効果的と考えられる攻撃手段も。
「次は、こいつだ――!!」
地面に置いていたそれを拾い上げ、竜昇は勢い良く振りかぶってそれをオルド目がけて投げつける。
宙を舞うそれは、ここに来る途中の各病室の入り口付近に置かれていた一本のボトル。
当然のごとくオルドのメイスによって迎撃され、あたりへとまき散らされたそのボトルの内容物は、病院と言う場所であれば当り前にあってしかるべきものだ。
『――ぬ、この臭いは――!?』
「【光芒雷刃】――!!」
間髪入れずに光条の剣を振りまわし、放たれた雷のビームが天井や壁を焼きながらオルドへと迫って、間一髪で横に跳び退く形で回避されて床へと当たる。
先ほどのボトルの中身、病院ならあって当たり前の消毒用アルコールがまき散らされた、そんな床へと。
「――ヌゥッ――!?」
突如として挙がった火の手に、さしものオルドも危険を感じたのか、反射的に唸るような声をあげる。
(――やっぱりだ、仮に火事になったとして、こいつが平気でいられるのはあくまでも自分が付けた【神造物】の炎だけだ。普通の火なら、こいつにとってもちゃんと普通に脅威になる……!!)
周囲一帯に炎をまき散らし、火事を起こしながら襲ってくるこの敵の【神造物】は確かに凶悪だ。
燃やす対象を選ばぬが故に自身を焼く心配のないこの炎ならば、どれだけ火事を広げたとしても自身を巻き込む心配はなく、ただただ敵だけを炎で囲んで、やがては火をつけ、そして焼き殺すことができる。
だが一方で、火事を起こしても平気と言うのはあくまでも燃やす対象を選べる【神造物】の炎による火事だけなのだ。
あくまでも特別なのは炎であって、オルド自身は炎に特別な耐性を持っているという訳ではなく、普通の火事であれば彼自身も普通に焼死の危険を伴う。
加えてもう一つ、竜昇にはこの敵のこれまでの反応から察せられることがあった。
(やっぱりこの人、【神造物】の性質上確かに攻撃能力は高いけど、防御能力に関しては決してこれまでの連中のみたいに飛びぬけて高いって訳じゃない……!!)
以前に遭ったアパゴのように攻撃のほとんどが効かない訳でもなければ、動きの速いハイツや姿をくらますフジンのように回避能力が高いわけでもない。
ハンナやヘンドルのように、こちらの攻撃が届かない距離から攻撃してくるのとも訳が違う。普通に攻撃の届く距離にいて、なおかつこちらの攻撃が通りうるというそんな相手。
もちろん、静の【甲纏】にも似たオーラ系の技や、先ほど展開していたシールドのように、防御・耐久の手段が全くないわけではないのだろう。
だが、これまでのように破格の防御手段で付け入る隙のなかった者達に比べれば、このオルドと言う相手はまだましだ。
まだしも常識的な防御レベルで、危険ではあれど十分に倒しうる余地がある。
「もう一本だ――!!」
思考の間にも持参した次のボトルを拾い上げ、間髪入れずに竜昇は炎にたじろぐオルド目がけて次なる消毒液を投げつける。
『――ッ』
対して、オルドの方もそのボトルに対して二度も同じ過ちは犯さなかった。
すでに一度目の段階で叩きとせば足元に火の手が上がると学習していたからなのだろう、飛んでくるボトルを落としたり迎撃したりする愚を犯すことなく、オルドはすぐさまメイスを握るのとは逆の左手を構えて、特に苦心することもなくあっさりとその手でボトルをキャッチする。
直後、ボトルに潜ませていた電撃が炸裂してオルドがその身に纏うオーラを削り取り、同時に電撃の火花がボトル内部のアルコールに火をつけて、ボトルがはじけ飛んで内部の炎がオルド目がけてぶちまけられる。
『――グ、ゴォォォォアアアアアァッ――!!』
さしものオルドも、火のついたアルコールを頭からかぶる羽目になったのだから堪ったものではない。
本来ならばその身に纏うオーラで炎すらも防御できたのかもしれないが、生憎とそのオーラは炸裂した【静雷撃】の電撃によって削り取られた直後だ。
【神造物】のような輝きを宿さないその炎は、通常通りの、何ら特別性のない火力でオルドを頭から炙り始め、オーラによる守りの薄れたその体を容赦なく焼き焦がす。
そしてそれによって生まれる隙を逃すほど、今の竜昇は余裕がある訳でもなければ甘くもない。
『おのれぇ、おのれ小僧、貴様ァッ――!!』
「――悪いが隙ありだ、【雷撃】――!!」
怒りに吼えるオルドに通じぬ言語でそう声を浴びせかけ、竜昇は容赦なく自身が最速で発動できる初級魔法の電撃を杖の先から放出する。
炎で視界が封じられていても何らかの気配で攻撃を察知できたのか、オルドが転がるようにその場を飛びのいて、続けて放たれた竜昇の左からの電撃をも、付近にあった病室の扉をメイスで叩き割って、その内部に飛び込むことでどうにか回避して見せた。
(――く、やっぱりこいつらは一筋縄じゃ行かないか……!!)
火炎瓶まがいの武器で体に火を付けられたとなれば、常人ならばもっとパニックに陥ってもおかしくないはずなのに、怒りの声をあげながらもオルドが取った行動は実に的確そのものだ。
このままではようやく生み出せた隙とていつまで持つかわからない。
そんな考えの元、即座に雷球を生み出し操作して、オルドの逃げ込んだ室内へと向けて攻撃を叩き込もうとしていた竜昇だったが、しかし生憎とほんの一瞬の隙だけでこの相手には十分だったらしい。
直後、室内へと送り込もうとしていた雷球が内部から放たれた火球によって相殺されて、続けざまに放たれた火球が壁に着弾し、さらなる火球が部屋を飛び出すと同時に直角に曲がって竜昇の方へと飛んでくる。
「――ぅぉッ――!!」
とっさに真横に倒れるように回避したものの、頭からかぶっていたシーツの端に火がついて、竜昇はすぐさまそのシーツを引っぺがして自身の安全を確保する。
そして見た。
竜昇達がいる廊下、その床の上で起きていたアルコールに引火したことによる通常の火災にも炎弾が撃ち込まれ、二種類の炎が一体に広がった灯った次の瞬間、竜昇が起こした通常の火事だけが一斉に鎮火して、場の炎が神造の輝きすぎるもの一色になるそんな光景を。
(――なんだ、炎で炎を燃やした……? いや、そんな感じじゃない――、なにが起きてる……!?)
目の前で起きた事態を竜昇が分析しきれずにいたそんな中、それを行ったと思しきオルドが叩き割られた扉を踏みしめ病室の中から現れる。
メラメラと、輝きすぎる炎が灯った、恐らくはベッドとベッドの間を遮るカーテンなのだろう布を頭からかぶって。
直後にそのカーテンの布地を、ともした炎によって跡形もなく、灰になるまで焼き尽くしながら。
(こっちの炎も消えてやがる……。頭からカーテンをかぶることで空気を遮った……? いや、空気って言うなら、まさか――、燃焼に必要な周囲の酸素を……!!)
敵が駆使する【神造物】の炎がどうかは知らないが、通常、炎が燃えるためには一定の酸素が必要だ。
そのため、火を消す方法の一つとして上から何かをかぶせるなどして空気を遮ってしまう方法がある訳だが、竜昇がこの時思い浮かべたのはもっと【神造物】の特性に根差したやり方だった。
通常の、鎮火させたい炎の近くに【神造の炎】を放ち、その周囲の酸素を瞬間的に燃やし尽くして消費する。
もちろん、常人には不可能な方法だが、敵の使う【裁きの炎】の特性が竜昇の予想通り、任意の対象だけを焼却せしめる炎であるというなら十分に可能な応用法だ。
無論、周囲が一瞬とは言え無酸素状態になるというのはそれなりのリスクではあるが、それでなくとも炎が燃えている以上酸素は絶えず消費されているし、自身に付いた炎を消す必要のあるオルドも、その一瞬だけ息を止めていればそれで済む。
『さすがに驚かされたぞ……。この火刑執行官たるオルド・ボールギスに対して、まさか同じ炎で挑んでくる身の程知らずがいるとはな……』
「……く」
電撃によって減衰したとはいえ、多少なりともオーラの効果が残っていたのか、思った以上に火に包まれた影響がみられないオルドの姿に、竜昇は思わず歯噛みする。
『だが所詮はおろかな異端者の浅知恵だな。同じ炎を扱うにしても、炎に対する理解が浅い』
(――なるほど、この人はただ単に【神造物】を継承してるってだけじゃない……。【裁きの炎】と言う【神造物】を使いこなすために、炎ってものの性質についてもきっちり知り尽くしてやがる……!!)
思えば似たような傾向は先に遭遇したヘンドルやハンナにもあった。
ただ超常的な特殊能力を持つ物品を所持しているというだけではなく、それをより効果的に使いこなすために重ねられたとみられる明らかな研究と研鑽の痕跡。
恐らくは単純に【神造物】の持ち主として選ばれたのとは違う、人から人へ受け継がれる継承システムの存在がその一端としてあるのだろう。
【神造物】と共に受け継がれ、発展してきた、その【神造物】をよりよく使いこなすための運用技法。
(――それに、やっぱりこの人相手に時間稼ぎってだけでもリスクが高い……)
事前に予想していたことではあったものの、徐々に火が回って周囲が炎に包まれるその光景に、竜昇はじりじりと後ろに後ずさる。
もとよりこの場には時間稼ぎのために赴いていた竜昇だったが、しかし時間稼ぎで有利になるという意味ではオルドの方とて同じことなのだ。
決して消えることの無い炎を操るオルドの場合、その炎が燃え移る面積が広がれば広がるほど相手の行動範囲を制限できるうえ、そうして燃え広がった炎が本人とは別に設置型のトラップに近い形で作用し始める。
そう言う意味で言えば、この男の持つ【神造物】は本来、今回のような追撃戦ではなく、『待ち』の姿勢で臨んでこそ真価を発揮する武器なのだ。
今回の場合、竜昇達が別階層に逃げる可能性が高かったが故に本人がこうして追ってきていたが、仮にどこにも出口がない状態で戦うとなった場合、この男のとるべき最適な行動は建物全体に火を放って、あとは敵対者が炎に追い詰められて火を付けられるのを待つことだ。
消えることなく、勝手に燃え広がって行ってくれる炎は時間経過とともに敵から逃げ場を奪い、やがては侵蝕するように燃え広がっていった炎が敵の体に火をつけて、あとはオルド自身の意思一つで相手を焼き殺してしまえる状況が出来上がる。
無論、【裁きの炎】の持ち主であるオルド自身を討つという対処法もないではないが、オルドが自身の周囲を炎の壁で囲んでいれば近づくこととて至難の業だ。
そう言う意味では、出口があらかじめ確保されている今回のような状況でこの男と遭遇したことは、まだしも不幸中の幸いだったと言える。
(――とは言え、流石にそろそろ潮時か)
周囲がみるみる炎で囲まれていく状況に、竜昇は内心で密かに、けれど迷うことなくこの場からの撤退を決意する。
そして一度そうと決まったら、竜昇の行動は早かった。
即座に体重を軽減して背後へと飛び退り、同時に杖先から黒雲を放出して視界を遮る。
もとよりここに来るまでの間に【静雷撃】による足跡地雷は設置済み。
その状態で視界を遮り、距離を放せば、先ほど同様この敵に慎重な行動を強いての足止めができる。
『逃がさん――!!』
相手もそのことは承知していたのだろう。
案の定自分で広げた炎の壁を突き破り、オルドがメイスを振るって雲の壁を吹き散らしながら迫って来るが、生憎と竜昇の方も撤退のための準備は怠っていなかった。
飛び退いたその先、並ぶ病室の扉のすぐそばで、この時のためにとそのままに残しておいた棚の消毒液のボトルを掴み取る。
「何度も同じ手を――!!」
三度、山なりに投げつけたボトルに対して、オルドがメイスを振るってその先端から炎弾を発射する。
もはや触れることはおろか近づける気もないというそんな姿勢。
だが生憎と、これまでの二度も含めて、どう対処されても有効に作用すると見込んだから、竜昇はここにこのボトルを持ち込んできたのだ。
「――元からこんなもんなのか、それともこの病院のものは感度が悪いのかはわかんないけど、ここまでやれば流石に作動くらいはするだろうさ――!!」
『――!?』
竜昇が声をあげた次の瞬間、オルドの放った炎弾の直撃を受けたボトルが、その中身ごと激しく燃え上がり、その熱によって真上の天井にあったスプリンクラー内部の感熱部が融けて、付近の天井から一斉に大量の水が噴出する。
本来なら火を消すための、しかし【裁きの炎】に対しては一切効果を発揮しないはずの消火用の水が。
『愚かな――、我が【裁きの炎】は神の芸術たる【神造物】だ、この程度の水では消し去れんとまだわからぬとは――』
「――ああ、炎に対してならそうだろうさ」
吠えながら距離を詰めに来るオルドに対して、竜昇はすぐさまそう言って自身の足元へとその手を向ける。
頭から水をかぶって水浸しになる中で、足元にどんどん広がっていくその水たまりへと。
『――ッ、貴様――!?』
「たとえ消えなくても、その炎があんたを守ってくれるわけじゃねぇだろォッ――!!」
直前になってオルド自身も気づいたようだがもう遅い。
すでに足元の水たまりは、竜昇とオルドの二人を繋ぎ、踏まずにいることが難しいまでに水たまりが広がってしまっている。
「大盤振る舞いだ――!! ため込んでた電力全部もってけ――!!」
撃ち込むのはその身に纏うすべての電力。
水をかぶってもなお【電導師】の力で制御化に置いていたそれらすべてを、上位の魔法と共に叩き込む大火力の電撃。
「【電導迅雷撃】――!!」




