92.それぞれの進化。尚、猿たちが勝手に……
ボルさんの提案はサモン・エイプ達にはここに残って貰い、定期的に餌を上げる代わりに、この周囲の人々をモンスターの危険から守って貰うというものだった。
「でもどうやって定期的に餌を与えるんですか?」
『忘れたのか? あの四季嚙とかいう女の影に監視用のスケルトンを置いて来ただろう。それと同じだ。彼らの影に我のスケルトンを忍ばせる。そうすれば『影渡り』で移動が可能になる』
ボルさんは自分の影と、仲間の影を移動する『影渡り』というスキルを持っているらしい。
以前、ベヒモスにやられて回復してた時は弱って使えなかったが、このスキルがあれば一瞬で長距離移動が可能になる。
凄く便利なスキルだ。
「……あれ? これってメアさんのスキルじゃないんですか? 以前メアさんの影に隠れてたと思うんですけど……」
『あれはナイトメアの持つ『潜影』というスキルだ。一方で、私の持つスキルは移動が出来る『影渡り』のみ。両方自由に扱えるのは『影』のスキルに長けたシャドウ・ウルフやダーク・ウルフだけだ』
つまりメアさんが物や人の影に仲間を潜ませ、ボルさんがそれを利用して移動する。お互いのスキルでカバーし合ってるんだね。
『これまでの道中でも、何体かのスケルトンを建物や木の影に忍ばせている。戻りたい場所があればいつでも戻れるぞ?』
私達の知らない間にそんな事までしていてくれたなんて……。
ボルさん、気遣いの達人過ぎる。
『とはいえ、この提案はあくまで君次第だ。君が決めてくれ』
「私としては何も問題ないですよ。餌の手間も大してかかりませんから」
ボルさんの提案を、三木さんは快く受け入れてくれた。
三木さんはサモン・エイプ達の方を向く。
「という訳なんです。お猿さんたちはそれでいいですか?」
「ウッキー♪」
「キキキッ♪」
「ウキーッ♪」
「ウキャキャッ♪」
当然、サモン・エイプ達は喜んでこの提案を受け入れた。
「あ、そうだ。ついでに三木さんも彼らにレベル上げを手伝って貰ったらどうですか? 今なら色々手加減して貰えそうですし」
「そうですね。頼んでみます」
サモン・エイプ達が言う事を聞いてくれるのであれば、戦闘職でない三木さんでも十分戦う事が出来るだろう。
パーティーメンバーに入っているから、私達が倒した分の経験値がある程度は割り当てで入ってくるとは言え、その量は少ない。戦いに参加した者と、ただパーティーに入ってるだけの者とでは入ってくる経験値に明確に差があるのだ。
「ウキキ。ウッキー♪」
サモン・エイプの一体が喜んで首を縦に振る。
三木さんのレベル上げに協力してくれるようだ。
「ありがたいですね。これはお団子以外にも色々ご褒美を上げないとですね」
「「「「ウッキー♪」」」」
三木さんの言葉に、サモン・エイプ達は凄く喜んでいる。
うーん、リバちゃんの時といい、もしかして三木さんって天然の魔物使いの資質でもあるんだろうか?
モンスター食も平気だし、モンスターって生き物に対しての抵抗が無さすぎる。
『あれはかなり貴重な人材だ。手放さない方が良いぞ』
ボルさんもそんな忠告をしてくれた。
言われなくても、三木さんは大事な仲間ですよ。
「ほっ、やっ、えいっ」
三木さんは包丁片手に召喚されたモンスター達を倒してゆく。
その攻撃はとても正確で、一撃で確実にモンスターの心臓を貫いていた。
手加減されてるとはいえ、凄い腕前……。
三木さんの今のLVは19。
私達も手伝えば、モンスターを倒せるペースは早まるだろう。
検索さん、このペースだと、どれくらいでLV30まで上がりますか?
≪二日です≫
二日か……。
京都ダンジョンが急ぎでなければ、ここで三木さんのLV上げも終わらせてもいいですか?
≪問題ありません≫
≪ミキ シオリが『餌付け』を取得した場合、ここでLV30まで上げる事を提案するつもりでした≫
そうだったんだ。
じゃあ、願ったり叶ったりだね。
三木さんの様子を眺めていると、先輩と上杉さんが近づいてくる。
「あやめちゃん、三木さんの方は大丈夫そうだし、私達は先にシェルハウスに戻ってるね」
「私も八島も進化にかかる時間は一時間ほどだからな。何かあった時の為にできるだけ早めに進化しておいた方が良いだろう?」
「そうですね。ハルさん、念の為に二人の見守りお願いできる?」
「にゃぁー」
ハルさんは承知したとばかりに頷く。
「え、あやめちゃん、見ててくれないの?」
「私は三木さんの手伝いをしますので……」
「うぅー……」
「ほら、さっさと行くぞ。別にいいだろう。そんなに一緒に居なくても」
上杉さんに連れられ、先輩はハルさんと共にシェルハウスの中へと入って行った。
それから一時間後、先輩と上杉さんの進化が無事に終わった。
先輩は『魔人』に、上杉さんは『天人』に進化出来た。
「全然実感わかないなー」
「そうだな。とはいえ、私もようやく定職に就く事が出来る……ふふ、ふふふ」
……いや、システム上の職業と実際の職業は別物ですけどね。
まあ、本人が嬉しそうだから何も言わないけどさ。
「でも上杉さんはまだJPが無いから、職業選択できないですよ?」
「なんだと!?」
職業選択には、最初にレベルを上げた時のJP1ポイントが必要になる。
上杉さんは『無職』のせいでレベルが上がってもJPが入らないので手持ちはゼロ。
なので『農業主』になれるのはLV2に上がってからだ。
「そんな……やっと……やっと定職に就けると思ったのに……」
「LV上げ頑張りましょうね」
「……うん」
がっくりとうなだれる上杉さんであった。
三木さんのLV上げは検索さんの予想通り二日で完了となった。
進化先は『新人』。
検索さん曰く、三木さんは職業よりもスキルを伸ばした方がいいとの事だ。
当初の予定よりも二日ほど長く滞在してしまったが、無事に全員進化する事が出来たのだし結果オーライだね。
「それじゃあ、ここでお別れですね」
「ウッキィ……」
三木さんの言葉にサモン・エイプ達は寂しそうな表情を浮かべる。
ここ数日、彼らにはとてもお世話になった。
なんだかんだで結構情も移っちゃったよ。
「そんな顔しないで下さい。会おうと思えばいつでも会えますし、これからも美味しいご飯は届けてあげます。だから、お猿さんたちも約束を守って下さいね?」
「ウッキィー! ミッキー!」
「ミッキー! ミキィー!」
「ミキィー、ミッキィー!」
「ミキャー、ミキャキャ!」
……君たち、ちょっと言語習得してない?
微妙に三木さんの名前を言えるようになってるし……。
「さて、無事に皆進化しましたし、いよいよ京都ですね」
「うんっ」
「ですね」
「ああ」
「みゃぁー」
「きゅー」
『気を引き締めていくとしよう』
『ダンジョンか……。楽しみだぜ』
『ミャァー』
「「「「ウッキッキー」」」」
私達はサモン・エイプ達に別れを告げて、いよいよ京都へと向かった。
剣聖になるために必要なアイテム……絶対に手に入れないと。
ちなみに私達と別れた後、サモン・エイプ達が想像をはるかに超える働きをみせ、大阪や兵庫の人々を救い『関西の守護猿』と呼ばれ、更になんと『ネームドモンスター』に成長する程の大躍進を遂げる事になるのだが、それはまた別のお話。
ボルさんの『影渡り』を使った移動方法は、本編でモモとアカが使っていたものと同じ方法です。




