49.別れを告げて
第二章スタート!と思ったけど、普通に第一章のエピローグっぽいお話しになった
夜が明けた。
四日目の朝だ。
ボルさんたちとの別れを済ませた私と先輩は再び体育館に戻り、ぐっすりと休んだ。
(おー、一晩寝ただけなのに、疲れが完全に消えてる……)
少し前まではちょっと走るだけでバテ気味だったのになぁ。
これもレベルアップの影響なのだろう。
(あ、そう言えばまだステータスをチェックしてなかった)
ベヒモスを倒した後も色々あって全然見れてなかった。
ポイントも溜まってるだろうし、チェックしなきゃ。
という訳で、ステータス・オープン。
クジョウ アヤメ
LV19
HP :243/243
MP :150/150
力 :224
耐久 :209
敏捷 :144
器用 :137
魔力 :80
対魔力:80
SP :13
JP :9
職業 聖騎士LV4
魔剣使いLV1
固有スキル 検索
スキル
剣術LV4、纏光LV2、聖属性付与LV2、浄化LV2、魔剣能力拡張LV2、斬撃強化LV1、吸魂LV1、受け流しLV5、肉体強化LV3、刺突LV1、ストレス耐性LV2、恐怖耐性LV2、毒耐性LV1、麻痺耐性LV1、ウイルス耐性LV1、毒薬生成LV1、応急処置LV2、番狂わせLV1、逃走LV2、鑑定LV1、メールLV1、魔物殺しLV1
パーティーメンバー
ハル 猫又 LV4
ヤシマ シチミLV11
おー、ポイントけっこう溜まってるなー。
そう言えば、前にステ振りしてから全然ポイント使ってなかったもんね。
お、ハルさんや先輩のLVも上ってる。まあ、かなりの強敵だったし、それだけ経験値も多かったのだろう。
「……ん、魔剣使い?」
え、何この職業? それになんかスキルも増えてる。
『魔剣能力拡張LV2』、『斬撃強化LV1』、『吸魂LV3』、『受け流しLV5』……?
え? なにこれ、いつの間にこんなスキル習得したの?
検索さん、どういうことですか?
≪職業『魔剣使い』は魔剣に認められることで取得できる職業です≫
≪ベヒモスとの戦いの最中に条件を満たし、就寝中に職業及びスキルを取得しました≫
≪また蓄積された経験値によって『受け流し』はLVを上げています≫
≪『魔剣能力拡張』は盾が使える事により、LVを上げました≫
な、成程……そういう事だったんだ。
というか、聖騎士と魔剣使いって相反する感じがするんだけど両立できるんだ。
≪SP及びJPが未使用です。ポイントを消費して、職業及びスキルのLVを上げることを推奨します≫
あ、そうだよね。
えーっと、先ず何からあげればいいかな?
やっぱり新しく取得した『魔剣使い』かな?
確か、職業がLV3になれば、付随スキルのLVも上るんだよね?
≪通常の職業であれば、その認識で間違いありません≫
≪しかし『魔剣使い』のスキル『魔剣能力拡張』及び『吸魂』は特定の条件を満たすことによってLVを上げるため、職業のLVアップやSPによるポイント消費ではLVを上げる事は出来ません≫
あ、そうなんだ。
そう言うスキルもあるんだね。
≪特定条件を満たすことでLVを上げる職業やスキルはいくつかあります≫
≪代表的なのは『町づくり』や『カリスマ』、『吸魂』などです≫
へぇー、そういうスキルもあるんだね。
『町づくり』って凄くゲームっぽい感じのスキルだ。
どんなスキルなのか気になるけど、今は関係ないし先ずはポイントの振り分けだね。
「うーん、まあ、でもとりあえず『魔剣使い』を上げておいて損はないか」
残り二つのスキルはレベルが上がるんだし。
という訳で、先ずは『魔剣使い』をLV3に上げる。
残り4ポイントは聖騎士の方をあげたいし、とりあえず温存かな。
スキルの方は、『鑑定』と『魔物殺し』をそれぞれLV3まで上げよう。
この二つは今後も重要なスキルになるだろうし、上げておいて損はないはず。
残り3ポイントは、肉体強化のLVをあげたいし、とりあえず温存かな。
これでポイントの振り分けは完了っと。
クジョウ アヤメ
LV19
HP :263/263
MP :170/170
力 :244
耐久 :229
敏捷 :164
器用 :157
魔力 :80
対魔力:80
SP :3
JP :4
職業 聖騎士LV4
魔剣使いLV3
固有スキル 検索
スキル
剣術LV4、纏光LV2、聖属性付与LV2、浄化LV2、魔剣能力拡張LV2、斬撃強化LV2、吸魂LV1、受け流しLV6、肉体強化LV3、刺突LV1、ストレス耐性LV2、恐怖耐性LV2、毒耐性LV1、麻痺耐性LV1、ウイルス耐性LV1、毒薬生成LV1、応急処置LV2、番狂わせLV1、逃走LV2、鑑定LV3、メールLV1、魔物殺しLV3
パーティーメンバー
ハル 猫又 LV4
ヤシマ シチミLV11
あれ、ステータスも上ってる?
あ、『魔剣使い』がレベルアップしたから、ステータスもちょっと上がったのか。
職業の恩恵ってこういうところにもあるんだね。
「それにしてもスキルってなかなかLV上がらないなぁー」
レベルアップで入るポイントは決まってるし、熟練度を上げるのは大変だし、レッド・スライムみたいに倒せばどかーってポイント入るモンスターもそう都合よくいない。
ベヒモスみたいな強いモンスターが今後も現れない保証はないんだし、その辺も考えていかないとだよね。
「ふみゅー……」
「あ、ハルさん、おはよう」
「ふみゃー♪」
ハルさんはすりすりと顔を擦りつけてくる。
うん、とっても可愛い。
「ふみゃ……、あやめちゃん、おはよー」
「おはようございます、先輩」
起きる時の発声が、ハルさんそっくりだ。可愛い。
「先輩、目が覚めたら、早速準備しましょう」
「ふぇ……? なんのぉー?」
「いや、昨日言ったじゃないですか」
まだ寝ぼけてる先輩に、私ははっきりと伝える。
「――東京へ行く準備ですよ」
今居るここを――九州の大分を出て東京へ向かう。
私はそう決心した。
「あー、そう言えばそうだったねぇ……」
先輩はごしごしと目を擦り、やがて表情を変える。
「…………え? あれ、本気だったの?」
「当たり前じゃないですか」
まさか冗談だとでも思ったのだろうか?
「その後、先輩言いましたよね? だったら私も一緒に行くって。私、その言葉を聞いて、凄く嬉しかったんですから」
「いや、でもあれはその場の雰囲気というか、冗談と言うか、なんというか――」
「先輩」
しどろもどろになる先輩の肩をがしっと掴み、私は笑みを浮かべて、
「――責任取って、一緒に東京に来てくださいね♪」
「ふぇぇーーー!?」
自分の言葉には責任を持ちましょう。
真っ赤になって慌てる先輩を引きづりながら、私は洗面所へと向かうのだった。
顔を洗い、佐々木さん達が準備した炊き出しを食べた後、私達は佐々木さんの元へ向かう。
お世話になったのだし、ここを離れる前に挨拶をしておきたかったからだ。
とはいえ、正直に東京へ行くと言っても絶対に止められると思うので、目的地は誤魔化して伝えたけど。
「そうですか……。九条さんと八島さんにはスキルやモンスターの情報提供など、本当に色々お世話になりました。本音を言えば、今後もここに残って協力してほしいのですが、家族に会いたいと願う気持ちはよく分かります。旅の無事を祈っていますよ」
「こちらこそ、色々とお世話になりました。何かあれば、『メール』でお伝えしますので」
「そうですね。こちらこそ、お力になれる事があれば、協力しますのでご連絡ください」
「はい、ありがとうございます」
佐々木さん達との話は、特に揉めることもなくすんなりと終わった。
それだけでなく残り少ない食料も分けて頂いた。
亡くなった大池さんといい、ここの消防隊の人達は本当に良い人ばかりだ。
「――あ、おねーちゃんっ!」
「……君はあの時の」
応接室を出ると、今度は小さな子供が駆け寄ってきた。
私が学校へ来た最初の日、蛇のモンスターから助けた少年だ。
「良かった……生きてたんだね」
「うん」
あのベヒモスの襲撃の後も、どうやら生き延びてくれていたらしい。
本当に良かった。
「……でもお母さんは」
あの時、この子の母親は校舎の瓦礫の下敷きになっていた。
それを助ける為に、この子は瓦礫をどかそうと奮闘していたが、おそらくあの状況ではお母さんはきっと――、
「こら、翔太! 駄目じゃないの廊下を走っちゃ!」
「……え?」
少し離れたところから聞こえたその声に、私は思わず振り向いた。
そこには少年の母親の姿があった。
……幽霊じゃない。
包帯を巻き、松葉杖を付いた痛々しい姿ではあったが、間違いなく生きている。
「あら? アナタはあの時の……?」
向こうも私に気付いたらしい。
杖を付きながら、ゆっくりと此方に向かって来る。
「良かった。アナタも生きていたんですね……」
「え、あ、はい……」
逆にこっちの心配をされてしまった。
私が何で驚いているのかを察したのだろう。
母親は、あの夜の事を話してくれた。
「……瓦礫の下に居たのが、逆に幸運だったのでしょうね。あの化け物は私達を見過ごすと、校庭の方へと向かって行きました。私は、自分を助け出そうとする翔太を逆に瓦礫の下へ引き込み、難を逃れたのです」
「そうだったんですね……」
すると、母親は私の手を握りしめた。
「あの夜、何があったかは聞き及んでおります。私や息子を助ける為に、アナタや消防隊の方々が命懸けで戦ってくれたのだと」
「いえ、それは――」
それでも力及ばず、多くの人を死なせてしまった。
大池さんだって犠牲になった。
「それでもアナタ達のおかげで助かった命も大勢いるのです。私やこの子もそう。だから、そんな悲しい顔をしないで下さい。もっと胸を張って下さい。アナタは正しい事をしたんです。何度でもお礼を言わせてください。ありがとうございます……本当にありがとう」
「……はい」
お礼を言わなきゃいけないのは私の方だ。
その言葉で、私は救われたんだから。
私や大池さんの行動には意味があったんだと、そう証明してくれたから。
親子に別れを告げて校舎を出ると、また声を掛けられた。
「おい、聞いたぜ、アンタらここを出るのかよ」
「君は……」
そこに居たのは上田君だった。
お兄さんと共にここへやってきて、『拳闘士』を選んだ少年。
彼もあの夜、ベヒモスの襲撃によって兄を殺されてしまった。
再会した時にはふさぎ込んでいたけど、どうやら少しは回復したらしい。
「もう大丈夫なの?」
「なんでもねーよ、このくらい……」
上田君は少しだけ俯くと顔を上げた。
「この程度でへこたれてちゃ、兄貴に笑われちまうからなっ」
そう言って上田君は力強く笑う。
「……兄貴はさ、すげー立派な人だったんだ。勉強だって部活だって俺よりもずっと凄くてさ。世界がこんなになってもすぐに動けるような人だった」
「……自慢のお兄さんだったんだね」
「ああ、本当に俺なんかとは違うすげー兄貴だったんだよ……。でも、死んじまった。最後まで皆を助けようとして、頑張った」
「うん……」
上田君はぐっと拳を握りしめると、私達の方を見る。
「だから、今度は俺がここの人たちを守る! どんな化物が来たってぜってー負けねー!だからあんたらも死なないでくれ! 兄貴が守った人達に死なれたら、俺が兄貴に顔向け出来ねえ!」
「! ……うん、分かった」
言うだけ言うと、上田君はダッシュで校舎の中へと消えて行った。
彼なりの別れのあいさつで、彼なりのケジメなのだろう。
そう言うところ、カッコいいと思うよ。
「いろんな人にお別れの挨拶貰ったね」
「はい……。寂しいですけど、でもすごく元気を貰いました」
私は学校の方を向くと、もう一度大きく手を振る。
「皆さん、お世話になりました! また、会いましょう!」
さあ、今度こそ出発だ。
気合を入れ直し、私は先輩に手を差し出す。
「それじゃあ、先輩、ハルさん、ナイトメアさん。行きましょうか」
「うん!」
「みゃぁー」
『ミャー』
ここから私達の東京へ向かう旅が始まる。
その一歩を、私達は踏み出した。




