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現代剣聖物語 モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 外伝  作者: よっしゃあっ!


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46.ベヒモス攻略戦 その7


「ゴ、ゴガァ……」


 火の海の中で倒れ込むベヒモスを私は見つめる。

 これで終わった?

 

(……いや、油断しちゃ駄目)


 まだベヒモスは死んでいない。

 最後の最後まで気を抜くなとボルさんに言われたばかりじゃないか。


『正解だ。まだ集中を解くな』


 するとボルさんの声が頭に響いた。

 ボルさんもベレさんも武器を構えたまま、倒れたベヒモスをじっと見つめている。


「ッ……!」


 私も剣と盾を構える。

 するとベヒモスの巨体がぴくりと動いた。


「ゴァ……ゴァァアアアアアアアアアアアアアッ!」


 ガバッとベヒモスは起き上がると、凄まじい速度で私に襲い掛かった。

 その気迫、威圧感プレッシャーは今までで最も強い。


「あやめちゃんっ!」

「大丈夫です、先輩」


 ベヒモスは燃え盛る体を全く気にする事無く、その動きは更に加速した!

 手負いの獣は、最後の瞬間こそ最も危険な状態だという。

 今のベヒモスは正にそれだ。

 でも私なら防げる!

 

「ゴァァアアアアアアアアアアッ!」

「ッ――!」


 弾く。

 ベヒモスの爪を。


「ゴァァアアアアアアアッ! ゴァアアアアアアアアアア! アアアアアアアア!」

「ッ――!」


 弾く。

 弾く。

 弾く。

 爪を、牙を、角を、尾を。

 その巨体から繰り出されるありとあらゆる攻撃を、私は弾く。

 ベヒモスの命懸けの一撃は重かった。

 文字通り肉体も命も何もかもを燃やして攻撃しているのだろう。


「ぐっ……あぁぁぁああああああッ!」


 衝撃が伝わり、腕が痺れる。

 全身の骨が軋み、筋肉が震える。

 でも、それでも――、


(この感覚は――なに?)


 剣と盾がまるで体の一部になったかのような一体感。

 ベヒモスの攻撃が全て見える。

 どうやって弾けばいいか、どうやって受け流せばいいか。

 その軌道が、体の動かし方が、盾の構え方が、重心の移動が、全て分かる。


(ああ、どうしてだろう……)


 もう先輩の声も、ベレさんの思念も、ベヒモスの咆哮も聞こえない。

 必要な情報だけが頭に流れ込み、必要な動きだけを繰り返す。

 どうして私にこんな動きが出来るのか分からない。


(少しだけ――楽しい……)


 私はこの時、自分が笑っている事に気付かなかった。

 決死の殺し合いを『楽しい』と感じている自分が居た事にも。

 もっと、もっと、もっと――、


『――だが、それに飲み込まれたら駄目だ』


 誰かの声が聞こえた。

 誰の声? いや、誰でもいい。

 今はこの戦いに集中するんだ。


「ゴァァアアアアアアアアアアアアアッ!」

「ッ――ここだッ!」


 ベヒモスの角による一撃を、私は渾身の力を込めて弾く。

 衝撃を受け流し、盾の反動を利用し、ベヒモスの体を大きくのけ反らせる。


「止めを――」


 私は一気に距離を詰めようとした。

 だが、


『――止めろ。お前じゃ接近して急所を斬っても、ベヒモスが死ぬまでの間に押し潰されちまう』


 まただ。

 また頭の中に声が響く。

 それと同時に、突如脳内に最初の夜の映像がフラッシュバックした。

 ベヒモスの体を斬り裂き、だがそのままボディプレスを喰らい相打ちに持ち込まれたアガさんの姿が。


「ッ――!?」


 刹那、私は踏みとどまった。

 否、誰かが私の肩を掴み、踏みとどまらせた。


『――俺の時と違って、お前は一人で戦ってるわけじゃないだろ? もっと周りを視ろ。仲間を信じろ』


「え……」


 振り返ると、少し離れたところに先輩とナイトメアさんが居た。

 すぐ後ろには誰も居なかった。

 でも今、確かに誰かに掴まれたような……。

 いや、今はそんな事よりも――、

 

「『ベレっ! 止めを!』」

『ッ……! ア――ああ、任せろッ!』


 その瞬間、ベレさんが私の前に現れ、魔槍を構える。

 放たれた槍は真っ直ぐな軌道を描いて、ベヒモスの胸を――急所を貫いた。

 そのままベレさんは私を抱きかかえると一気にベヒモスから距離を取る。


「ァ―――――ゴァァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!」


 咆哮、絶叫。

 大きな音を立ててベヒモスはその場に倒れ込む。

 倒れると同時に、その巨体は消失し、拳大ほどの大きな魔石が地面に転がった。


≪経験値を獲得しました≫

≪経験値が一定に達しました≫

≪クジョウアヤメのLVが16から17に上がりました≫


≪経験値が一定に達しました≫

≪クジョウアヤメのLVが17から18に上がりました≫


≪経験値が一定に達しました≫

≪クジョウアヤメのLVが18から19に上がりました≫


 経験値獲得を告げるアナウンス。

 今度こそ戦いが終わったのだと実感した。


「はぁー……」


 大きく息を吐いて脱力する。

 疲れたぁ……。ホント、マジで死ぬかと思った。

 いや、一回本当に死にかけたんだけど。


「あやめちゃん、大丈夫?」

「せ、先輩、大丈夫です。あっつ……」


 マズイ……私たちの戦いの所為で、周りが火の海になってる。

 ベヒモスを倒すためには仕方なかったとはいえ、これは少々……いや、かなりマズイ。


『このままでは際限なく燃え広がるな……』

「ボルさん……ど、どうしましょう?」


 この火はハルさんの変換したガソリンを火種に燃えている。

 もう一度変換を使い、消火する事は出来ない。


『大丈夫だ、七味よ、君の出番だ』

「ふぇ……? わ、私ですか?」

『君の魔杖ならこの炎を操り、その杖の中に封じ込めることが可能な筈だ』

「わ、分かりました。やってみます」


 先輩はうーん、うーんと唸りながら杖を掲げる。

 すると周囲の炎が集まり、まるで掃除機のように魔杖の中へと吸い込まれてゆくではないか。

 瞬く間に周囲の炎は鎮火――いや、消え去ってしまった。


「で、出来た! 出来たよ、あやめちゃんっ」

「はい、先輩は凄いですね」

「え、えへへへ……あやめちゃんに褒められちゃった」


 照れる先輩可愛い。

 先輩って、ホント先輩なのに後輩みたいだよね。

 そこが良いんだけどさ。


「みゃぁー」


 するとハルさんが私の足元をぺしぺしする。

 その口にはベヒモスの魔石が咥えられていた。


「ハルさんもお疲れ様。あと魔石持ってきてくれてありがとね」

「みゃーう♪ ふみゃぁー」


 喉や耳の付け根を撫でると、凄く嬉しそうな声を上げる。

 今回は、本当にハルさんに助けられたなぁ。

 ハルさんが居ないと勝てなかったし。ホント、頼りになる相棒だよ。


『ムー、ミャァー』


 するとナイトメアさんも猫の姿に変身して私の方へ駆け寄ってきた。

 どうやら自分も褒めて欲しいらしい。


『どうやら、随分と懐かれたようだな』

「はい。ふふ、ナイトメアさんもありがとうね。私が気を失ってる間、先輩を守ってくれて」

『ミャァーウ♪ フミャァー……』


 ナイトメアさんは尻尾の付け根が撫でポイントだ。

 凄く嬉しそうに目を細める。


「……みゃーぅ」

「はいはい、ハルさんもちゃんと撫でるから、不機嫌にならないで」

「むぅー……」


 別に張り合わなくていいのに。

 ハルさんは可愛いなぁ。

 あと先輩、何で自分も撫でて欲しそうな顔してるんですか? 撫でませんよ。


(そう言えば、あの声って結局誰だったんだろう……?)


 気を失ってる時や、戦いの最中に何度も私を助けてくれたあの声。


(男性のような声だったけど……あれ? なんでだろ、よく思い出せないや……)


 思い出そうとすればするほど、記憶にモヤがかかる。

 何となく思い出さなくても良いような気もするし、別にいいか。

 そんな事を考えていると、ボルさんとベレさんが近づいてきた。


『……あやめよ、感謝する』

「えっ?」


 すると、ボルさんとベレさんは私の前で膝をついた。

 え、ええー?

 

『君たちのおかげで我々はベヒモスを打倒す事が出来た。貴殿らに最大の敬意と感謝を』

「あ、えっと……」


 ど、どう返せばいいんだろう?

 ボルさんだけでなく、ベレさんまで同じポーズで頭下げてるし。

 ちらりと先輩の方を見れば、眼を背けられた。裏切り者ぉー。


「えっと、顔を上げて下さい。ボルさん、ベレさんも。ベヒモスを倒せたのは、皆の力を合わせたからです。それに私達に戦い方や心構えを教えてくれたのはボルさんとベレさんです。感謝をしなきゃいけないのは私達の方です」

『……感謝する』

 

 するとボルさんは手を差し出した。

 私もその手を握り返す。

 

「……こんな事を言うのもおかしな話ですけど、お二人に出会えて良かったです」

『ふっ、我々も君たちのような人間に出会えて良かった』

 

 骨だけのボルさんの顔が少し笑ったように見えた。

 な、なんか照れくさいな、こういうの。

 

『そう言えば、あやめよ。少し気になったのだが、君は先程の戦いで――』


 ボルさんが何かを言いかけた――その瞬間だった。



「おーい、こっちだ! 誰かいるみたいだぞー!」


 声が聞こえた。


「おい、あれモンスターじゃないか」

「それに一緒に居るのは九条さんと八島さん?」

「お、襲われてるのか?」

「大変だ! 早く助けないと!」


 消防隊員の佐々木さんや学校の人達がそこに居た。


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本編及び外伝どちらもよろしくお願いします

― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しい。 七味先輩がもっと活躍してほしい
[一言] 長い長いプロローグは終わりを告げた。だがまだ世界は混沌として厄災は終わらない。 カズトと合流ポイントはどこでしょうね。
[気になる点] 変換って変換元・変換先に制限は無いのですか? ベヒーモスのスキルを勝手に変えることができるのなら、ベヒーモスそのものを犬とか猫にできるのでしょうか? また、そこら辺の小石をベヒーモス等…
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