25.猫又と歩くキノコ
ハルさんの種族が三毛猫から『猫又』になっていた。
おまけにレベルも9だったのが1に下がっている。
え、なにこれ、どういう事なの? ハルさん大丈夫なの?
≪個体名ハルは進化しました。進化するとLVは1にリセットされます≫
あ、そうなんだ。進化ね。
えぇ、進化!? 進化するの、この世界!?
≪進化について≫
≪個体のレベルが一定に達した際に起こる現象。人であればLV30、猫や犬、下級のモンスターであればLV10で進化することが出来る。基本的に進化するとステータスが強化されるうえ、新たなスキルの獲得及びスキル効果も強化される。デメリットとして、種族間での相性が存在する為、相性次第ではLVの低い相手にも負ける事も、逆に相性の良い相手であれば、LVが低くとも勝てる可能性もある。進化先はそれまでの経験から算出され、個体によっては複数の選択先が可能である≫
に、人間も進化可能なんだ……。
ますますゲームっぽくなってきたよ。
えーっと、じゃあハルさんが進化した『猫又』ってどんな種族なんですか? 妖怪?
≪猫又について≫
≪猫の進化先の一つ。猫がLV10になる事で進化可能。全ステータスが強化され、幻覚系のスキルが取得可能になる。妖怪ではなくあくまでカオス・フロンティアにおける種族の一種≫
へぇー、成程、ありがとうございます、検索さん。
一瞬、ハルさんが死んで妖怪になったのかと思って心配したよ。
良かったぁ……。
「あやめちゃん、どうだったの?」
「別に問題ないみたいです」
先輩も私と同じ懸念をしていたみたいで、話を聞き終わると安心したようだ。
「成る程……。じゃあハルちゃんも新しいスキルを覚えたのかな?」
「あ、かもしれないですね」
ちょうどレベル上ってSPも手に入ったし、これで『鑑定』のレベルを上げよう。
さて、どんな感じに変化したかな?
ハル
猫又LV1
HP :25/25
MP :10/10
力 :15
耐久 :■■
敏捷 :■■
器用 :■2
魔力 :■
対魔力:■
SP :20
固有スキル ■■
スキル
戦闘支援LV1、透過LV2、■■■■LV1、■音■■LV2、■主■守LV2、幻■LV■、■■LV■
お、前回よりもちょっとだけ見れる部分が増えた。
それになんかスキル欄のスキル数が増えてる。
やっぱりハルさんは進化して新たなスキルを手に入れたようだ。
幻覚系のスキルを覚えるって検索さんは言ってたけど……。
「ねえ、ハルさん。ハルさんが覚えたスキル、私たちに見せてくれないかな?」
「みゃぁー?」
ちゃんと通じただろうか?
するとハルさんの眼が怪しく光った。
「あ……あれ……」
すると急に周囲の景色がグルグル回りだした。
なにこれ、気持ち悪い……、くらくらする。
あれだ。ぐるぐるバットをした後の感覚に近い。
「うっぷ……もう駄目……」
「みゃ、みゃぁっ」
思わずその場に座り込むと、再びハルさんの眼が怪しく光った。
すると途端に眩暈も収まり、気分も良くなった。
「い、今のってハルさんが……?」
「みゃぁー。……みゃぅ……」
ハルさんは申し訳なさそうに下を向いた。
尻尾もだらんと下がっている。
「謝らないでよ、ハルさん。私が頼んだんだからハルさんは悪くないよ?」
「……みゃぁー?」
本当? 怒ってない? と不安げに見つめてくるハルさんマジ可愛い。
「大丈夫、怒ってないよ。むしろ、こんな凄いスキルを持ってるなんて、褒めまくりたいくらいだもん」
「みゃ、みゃぁー♪」
うりうりーとハルさんの体を撫でまわすと、ハルさんは嬉しそうに喉を鳴らした。
それにしても眩暈を起こさせるスキルかぁ……。
多分、スキル欄にあった『幻■』ってスキルだと思うけど、かなり凄いスキルだ。
足止めにも使えるし、私や先輩とのスキルとも相性がいい。
(それに『戦闘支援』に『透過』かぁ……)
この二つは名前が判明しているので、検索さんに調べてもらった。
≪スキル『戦闘支援』≫
≪パーティメンバーのステータスを上昇させる。LV1であればランダムに一つ上昇する。効果時間は1分≫
≪スキル『透過』≫
≪自分の肉体を透明にし、遮蔽物を無視して移動できる。ただし地面や自身の足場となる部分は透過できない。LVが上がるごとに持続時間、透過可能対象は増加する≫
どちらもかなり便利なスキルだった。
学校の時に使ってたのは、この『透過』ってスキルだったんだね。
道理で鍵がかかってたはずなのに、ハルさんが入ってこれたわけだ。
「何はともあれ進化おめでとう、ハルさん。これからも一緒に頑張ろうね」
「みゃぁー♪」
進化した影響なのか、ハルさんは以前よりも私たちの言葉を理解しているような気がする。
これなら今までよりも連携が取れそうだ。
「それじゃあ、行きましょうか先輩」
「うん」
私たちは再び勝てそうなモンスターを求めて移動を開始した。
それからしばらくして、私たちはあるモンスターを見つけた。
「……なにあれ?」
それを一言で言い表すなら、『デカいキノコ』だ。
人ほどの大きさもある巨大なキノコがのしのしと住宅街を歩いている。
非常にシュールな光景だ。
検索さん、アレなんてモンスターですか?
≪モンスター『マイコニド』について≫
≪キノコの姿をしたモンスター。ステータスは低いが、笠や柄の部分に衝撃を与えると様々な弱化効果を与える菌を放出する。毒、麻痺、幻覚など個体によって放出する菌は異なる。非常に美味で栄養価も豊富。良い出汁が出る。核が足の裏にあるため、足を切り落とせば簡単に倒せるうえ、身も消滅しない≫
……なんだろう。巨大ミミズの時といい、検索さんが妙にモンスターを食べることを推奨している気がする。
いや、確かにキノコだけど。
ワイズマンワームに比べれば、まだマシな部類だけど。
それでもやっぱり食欲は湧かないよ。
(てか、あれにもハルさんのスキルって効くのかな?)
試してみるか。
「ハルさん、さっきのアレ、あのキノコに使ってもらっていい?」
「みゃあ」
任せてとばかりに、ハルさんは前に出る。
「――みゃぁ!」
ハルさんの眼が怪しく光る。
すると、巨大キノコ――マイコニドは急に酔っぱらったかのように千鳥足になり、ずっこけた。
(ハルさんのスキルが効いた……。てことは、条件はやっぱりハルさんが『見る』ことか……)
てっきり目を合わせるとか、そういう制約があるかと思ったけど、どうやら思った以上にハルさんのスキルは使い勝手がよさそうだ。
「ありがと、ハルさん。後は任せて」
「みゃぁ」
私はハルさんと先輩をその場に残し、マイコニドに近づく。
「足……足かぁ……」
とりあえず検索さんに言われた通り、つぼの部分に生えている二本の足を切断する。
するとあっさりマイコニドは動かなくなった。
≪経験値を獲得しました≫
そして地面には極彩色の魔石と、巨大なキノコが残される。
うん、確かに検索さんの言った通りの結果になった。
≪――お薦めはスープです≫
いや、食べないからっ!
マイコニドの死体は先輩に焼却して貰った。
焼いた椎茸にお醤油を垂らしたような匂いがした。
……正直、ちょっと美味しそうだと思ってしまった自分が悔しい。
モ、モンスターなんて絶対食べないんだからねっ!




