11.体育館にて
体育館の中も人がごった返していた。
知り合い数名と共に話し合いをしている人、家族で避難してきた人、一人で頭を抱え込んでいる人と様々だ。
発電機を使っているのか、外に比べれば中は明るく――まあ、それでも薄暗いけど、あっちこっちにコードが敷かれていた。
「八島先輩以外の知り合いは……いないみたいですね」
「うん、私も探したんだけど多分他の所に行ってるんじゃないかな」
近くには中学校や高校もあるし、そっちにも人が集まってるだろう。
どこも似たような状況だとは思うけど……。
「……みゃぁー」
「シィー、出てきちゃ駄目だよ、ハルさん」
「みゃ」
こんな状況だ。
誰もが緊張で神経質になってるだろうし、猫一匹でも言いがかりをつけられかねない。
ハルさんは了解した、とばかりに私の服の中に隠れた。
ちょっと不自然な体勢だけど、まあこの状況なら不審がられないと思う。
「あれ、あやめちゃんちゃん、猫飼ってたの?」
「あ、はい。大分に来てから、飼い始めたんです」
「へぇー、可愛い猫さんだね」
ハルさんは一応、雄なので可愛いは褒め言葉なのかなぁ?
服の中でハルさんはご機嫌そうにもぞもぞした。
……ハルさん的には有りだったらしい。
「ずっと立ちっぱなしで疲れましたし、どこかに座りましょうか」
「そうね。私も疲れちゃった」
体育館の隅に二人で座り、一息つく。
(これからどうなるのかなぁ……)
ぼーっと天井を眺めながら、今後の事を考える。
本当に自衛隊が助けに来てくれるのであればそれに越したことはないが、そうならなかった場合、私達はいつまでここに居ればいいのだろう?
そもそも食べ物だってないし、お風呂だって入れない。
毛布だって十分にないだろうし、まだ五月だから夜は割と冷える。寝るのだって辛いだろう。
この状況で風邪や病気になれば、それこそ致命的だ。
(そう言えばスキル欄にウイルス耐性ってあったような……)
アレを取得すれば、風邪とかに強くなるんだろうか?
他にも色々耐性スキルがあった気がする。
(八島先輩はこの事を知っているのだろうか?)
モンスターを倒せば、経験値が手に入り、レベルが上がり、スキルが手に入る。
まるっきりゲームのような話だが、これは現実だ。
一応、聞いてみよう。
「あの八島先ぱ――」
「ぐー……」
もう寝てるよ、この人。
この状況でよく寝れるな。
私の服の裾をぎゅっと握りしめたまま、幸せそうに寝息を立てている。
あー、もう、可愛いなぁ、この先輩は。
ぎゅっと服を掴んでくる先輩を見てると、東京に残してきた妹を思い出す。
「……みんな、無事かな……」
お父さん、お母さん、葵ちゃん、それに――。
「……会いたいよ……」
駄目だ。
家族の事を思い出すと、途端に心細くなってくる。
泣きそうだ。
スマホが使えれば、すぐに連絡が取れるのに。
感傷に浸っていると、なにやら言い争ってる声が聞こえてきた。
「――いや、本当だって! 本当にモンスターを倒したらレベルが上がったの!」
「お、俺もだ! ステータスとか職業とかゲームみたいな現象が本当に起きてるんだよ!」
「そんなの信じられる訳ないだろ!」
少し離れた所で中学生くらいの男の子と大学生っぽい青年が叫んでいた。
どうやら私以外にもモンスターを倒し、レベルを上げた人がいたようだ。
彼らの前には同じ学生服を着た生徒や仲間らしき人たちが集まっていた。
「お前ら、この状況でよくそんな冗談みたいなことが言えるな?」
「そうよ、この非常時に! 何言ってるの!」
「う、嘘じゃないって! ほら、見てよ、これ! 俺のレベルとかが載って――」
「そんなもん、どこにあるんだよ? 何もねぇ空中を指差してんじゃねーよ」
「え……?」
男性の言葉に、少年は愕然とする。
隣に居た青年もハッとなった。
「まさか……いや、そうか。他人には見えないのか……、だとしたら……」
「テメーも何をブツブツ言ってんだ!」
ドンッと学生の一人が青年を突き飛ばす。
「な、何するんだ!」
「うるせー! こんな時に、冗談なんか言ってるテメーらが悪いんだろうが!」
「冗談じゃないんだ! 本当なんだよ! 信じてくれ!」
「二人とも落ち着いて、こんな時に喧嘩なんてしてる場合じゃなだろう!」
仲間が仲裁に入るが、言い争いはヒートアップしていく。
「……何か聞ける雰囲気じゃないわね……」
私以外にもスキル持ちがいると分かったのはありがたかったが、この状況じゃ確かに信じて貰うのは難しそうだ。
それこそ魔法みたいに一目で分かるスキルでも使えれば別だろうけど、話を聞いてる限りじゃ、あの二人もその手のスキルや職業は選ばなかったのだろう。
(とりあえず彼らの言い争いが収まってから、ちょっと話をさせて貰おうかしら……)
こんな状況だ。
少しでも情報は集めたい。
(あ、そうだ。今の内に、さっき調べられなかった事とか調べておこうかしら)
時間は有効に使おう。
明かりがあるとはいえ、薄暗いし、不審な動き――ステータスをいじる動きをしてても目立たないだろう。
ついでに向こうの人達に聞き耳を立てるのも忘れない。
盗み聞きとは言わないでほしい。あんな大声で言い争いをしてれば嫌でも耳に入るんです。
(とりあえずは取得したスキル、それと初期獲得可能って出てたのを一通り調べてみようかな……)
先ずは獲得したスキルの方からだ。
≪スキル『剣術』について≫
≪剣系の武器を使用する際、その扱いが上達する。LVが上がるごとにその精度は上昇する≫
≪スキル『纏光』について≫
≪全身に光のオーラを纏わせる。光を纏っている間はステータスが上昇する。LVに応じて上昇するステータス及び消費するMPは変化する。LV1では10秒につき5MPを消費する≫
≪スキル『聖属性付与』について≫
≪武器や道具に聖属性を付与する。付与された武器はアンデッド系モンスターに対し与ダメージが上昇し、耐久性が上がる。浄化作用あり≫
≪スキル『浄化』について≫
≪対象に付与された呪いを解除する。LVが上がるとより強力な呪いも浄化する事が出来る≫
へぇー、スキルってこんな感じなのか。
なんか凄いなぁーという感想しか出てこない。
(アンデッド系ってことはあのスケルトンとかに強いのかな……?)
あの骸骨の騎士とか、その後現れたスケルトンとか。
聖騎士ってああいうのと戦うのには凄く有利な職業なのだろう。
(でもモンスターと戦うなんて私には無理だよ……)
スキルや力が手に入った。
じゃあ、戦えるかと言われればそれは別問題だ。
戦いなんて、殺し合いなんてしないに越したことはない。
(そう、これはあくまで自衛手段……逃げれる状況なら迷わず逃げよう……あれ?)
次の質問を打ち込もうとした時、ふと画面の下にある一つのアイコンに目が行った。
(そう言えば、このマイクみたいなマークってなんだろ?)
検索に質問事項を打ち込む際に、画面の下にはキーボードのようなパネルも出現する。
その隅にマイクのようなアイコンがあるのだ。
ちょっと気になって、そのアイコンをタップする。
≪検索の音声及び思念入力をオンにしますか?≫
音声入力とか出来るの!?
あと思念入力ってもしかして頭で考えるだけで大丈夫ってこと?
無駄に高性能だった。
当然、オンにする。
≪音声及び思念入力をオンにしました≫
これで考えるだけで検索ができるようになったのかな?
≪検索に該当する思念が確認された場合、アナウンスにて回答を行います≫
うぉ!?
なんか頭の中にアナウンスが!?
しかもなんかすごく丁寧だ。
このアナウンスって、私の頭の中だけに届いてるんですよね?
≪検索に該当する思念を確認しました≫
≪アナウンスについて≫
≪カオス・フロンティアシステムサーバーより、通達は個別に行われます。それぞれの個体へのアナウンスを、別の個体が傍受する事は出来ません≫
へぇー……。
なんかまた気になる単語が出てきたけど、とりあえず打ち込む手間が省けたのは凄くありがたいな。
とりあえずこれなら他の質問も手早く済みそうだ。




