第4話 白の彼女
久しぶりに1人の日曜日。
僕は予備の弦とピックを買うために楽器屋に出かけた。
週末は何かと忙しかったから、久しぶりの骨休めだ。
——そう思っていたのも束の間、僕に骨休めなんてなかった。
事件は目的の駅に着いた時に起こった。
『ひったくり——っ!』
ひったくりって……ホームルームで先生が話してたやつ?……なんて思っていたら、ひったくり犯と思しき男がこちらに向かって走ってきた。
怖いと思う心と裏腹に体が勝手動いた。
僕はなんと、ひったくり犯を一本背負いでノックアウトしてしまったのだ。
つか、何のデジャブだろう……。
またしても子どもの頃に習っていた柔道が役にたった。
「ひったくり犯、見つけましたよ!」
ん? 彼女がひったくりにあった人だろうか?
「ハァハァ」
めっちゃ息が切れている。どうやらひったくり犯を追いかけていたようだ。
僕はノックアウトしたひったくり犯からカバンを取り返し、その人にカバンを手渡そうとしたその刹那。
「白!」
視界に飛び込んできたのは白のパンツだった。
僕はひったくり犯を追ってきた、彼女のハイキックをパンモロとともにくらってしまった。
ひったくり犯に続き僕もノックアウトされたのは言うまでもない。
——「……ですか?」
「……丈夫ですか?」
「大丈夫ですか?」
この感触は……膝枕?
目を開けると目の前に女性の顔が……つか、衣織?
「良かったです! 気が付いたみたいで」
衣織に似ているが衣織じゃない……。
彼女は衣織が髪を長くしてメガネをかけたような容姿だった。
——「ごめんなさい! 私、早とちりしてしまって」
早とちりで人を蹴ってはいけませんよ……と思ったが言葉を飲んだ。
「いや、大丈夫ですよ」
蹴られたところは若干痛むが、他は大したことない。
「一応病院いきませんか? 頭打ってたら怖いですし」
言われてみればと思い、入念に頭を触ってみたが……打撲の痕跡はない。
「あの……何をされてるんですか?」
「あ、ああ、頭打ってないか調べてたんです」
「そんなんで、わかります?」
ごもっとも。
「多分……大丈夫です」
変な空気が流れた。
——ひったくり犯は他の通行人が、取り押さえてくれている。
今は警察が来るのを待っている状況だ。
まだ、警察が来ていないってことは、僕が倒れていたのはほんの一瞬だったのだろう。
——僕にハイキックを食らわせた彼女は、たまたま居合わせて、ひったくり犯を追ってきただけの善意の第三者だった。
僕も彼女もカバンの持ち主にめちゃくちゃ感謝された。カバンには従業員の給料が入っていたそうだ。
——警察が到着して、任意だけど事情聴取させて欲しいとお願いされたので、僕とハイキックの彼女はパトカーで警察署まで同行した。
そして警察署で……。
「あれ鳴……どうしたの?」
偶然母さんに会った。
「母さんこそ、どうして……」
「だって母さん警察官だもん」
母さんは本庁の人間なのに、何で所轄にって意味で聞いたのだが、面倒くさいので、そのまま納得した。
「あれ……あなたもしかして……」
母さんがハイキックの彼女に反応した。知り合い?
「詩織ちゃん?」
詩織?
「は……はい、もしかして音無のおばさんですか?」
「違うわ、音無のお姉さんよ」
16の息子がいるのに図々しにもほどがある。
「あ……そうでしたね!」
ハイキックの彼女は、いきなりハイキックを人に食らわせるわりに、処世術に長けていそうだ。
「てことは……彼は鳴くんです?」
おや……?
「そうそう、鳴よ、イケメンになったでしょ」
僕のことも知ってるの?
「本当ですね!」
お世辞でもなんか嬉しい。
「でもダメよ、鳴には彼女がいるから」
「そうなんですね……羨ましいですねその彼女」
「詩織ちゃんの妹よ」
え……いま妹って言った?
「えっ! 衣織の彼氏ですか?」
え……いま衣織って言った?
「そうよ」
ちょっと待て……ちょっと待て衣織にお姉さんなんていたの?
「詩織ちゃん帰ってたのね」
「はい、ちょうど今日留学先から帰ってきて家族と待ち合わせしてたんです」
「手ぶらで?」
「あ……荷物!」
詩織さんはどうやら荷物を置き去りにして、ひったくり犯を追いかけていたようだ。
僕には早とちりでハイキック食らわせるし……。
自分の荷物は忘れてるし……うっかりにもほどがある。




