63.お嬢様と愛の力
重いまぶたをゆっくりと開くと、眩しい光が飛び込んでくる。
どこだろう、ここ。
あたたかくて柔らかい場所にいるみたい。
ゆっくり周囲を見渡すと。
大きな天蓋がついてるベッド。
ピンクと白を基調とした、ハートがいっぱいの家具で統一された部屋。
窓には部屋のイメージにぴったりの花が飾られている。これもピンクと白。
床には子供の頃から大事にしている、白いクマのぬいぐるみが見えた。
柔らかい風が、窓から流れ込んでくる。
見覚えのある懐かしい景色。
ここって、ハルセルト領にある私の部屋……だよね?
「全部終わりましたよ、アカリちゃん。おつかれさま」
ベッドの横から声がする。
身体を起こして横を見ると。
泣きそうな顔をした赤い髪の少女が座っていた。
彼女が首を傾けると、ツインテールの髪がふわりと揺れる。
「キナコ……。キナコだ……」
「ご、ご主人様?!」
私はそのままキナコの胸に思い切り抱きついた。
「……あまえちゃって、どうしたんですか? また子供に転生でもしたんですか?」
キナコは優しい声で声で話しかけた後。
そっと私の頭をなでてくれた。
……だって。
……だって。
初めてこの世界に来てからずっと。
私の大切なパートナーだった、大切なドラゴン。
また私のそばにいてくれて。
それだけでもう……。
「アカリちゃん? ご主人様? これからどう呼びましょうか」
「……どちらでも平気だよ」
「……そうですか」
その一言だけで。
キナコはすべてを察してくれたみたい。
ゆっくり顔を上げると、嬉し涙でいっぱいのキナコの顔があった。
「おかえりなさい。アカリちゃん……」
**********
それから。
私とキナコは、しばらく抱き合って泣いていた。
何年分の涙なんだろう……。
ううん、何百年分? 深く考えるのはやめよう、気が遠くなりそうだし。
「ねぇ……封印は上手くいったのかな?」
「ええ。あんな方法を考えるなんて、さすがアカリちゃんですね」
「あれしか思いつかなかったの。色んな人を巻き込んじゃったから……後で謝りにいかないと」
「みんな希望してこの世界に来た人達ばかりですから。怒ってないと思いますけど」
「そうかなぁ」
かみたちゃんだった部分の私は、最後封印されるつもりだったから。
こんな未来、予想してなかったんだよね。
星乙女の力って……。
ゲームや私の想像より、ずっとすごかったみたい。
『星乙女は愛の力で強くなる』
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』のキャッチコピー。
言葉にするとちょっと恥ずかしいけど。
でも。
すごくあたたかくて、素敵な力だなと思う。
「クレナ、起きたんだね!」
「クレナちゃん!!」
突然、部屋に扉を開ける大きな音が響いて。
シュトレ様とリリーちゃんが飛び込んで来た。
「よかった……本当に。……二度と目を覚まさないかと……」
窓から差し込む朝日に照らされたシュトレ様の顔が……マロン王子と重なる。
うわぁ。
今まで以上に胸の高鳴りが大きくて。
顔が沸騰したように赤くなる。
……どうしたらいいのさ、これ!
思わずベッドの布団にもぐりこむ。
「クレナ……大丈夫? まだどこか体調が……」
「へ、平気です。ちょっと寝たらすぐ良くなりますから!」
シュトレ様の顔をまともに見ることができないんですけど。
ホントに大丈夫かな。
少しずつ落ち着いてくれるのかな、この気持ち。
「一週間も目を覚まさなかったんですよ……クレナちゃんの……バカ……」
布団の上から、急にリリーちゃんに抱きしめられた。
……え?
……私一週間も倒れてたの?
布団の隙間からちらっとキナコを見ると。
ツインテールを弾ませながら、大きく頷いている。
「あのまま、一緒に封印されてたら……このまま目が覚めなかったら……どうするつもりだったんですか……」
――リリーちゃんの声は。
――涙で震えている。
「リリーちゃん、ごめんね……」
「ゴメンねじゃありませんわ……クレナちゃんはもっと自分を大切にして欲しいのに……」
リリーちゃんに抱きしめられている布団が涙で濡れている。
「ホントにごめん! 私に出来ることならなんでもするから!」
「……本当ですか?」
「う、うん。出来ることなら、だよ?」
「それでしたら……」
彼女は布団に顔をうずめたまま。
小さな声でぽつっとつぶやいた。
「わたくしをクレナちゃんの侍女にしてくださいませ」
「……リリーちゃん?」
……。
…………。
侍女って言ったよね、今?
聞き間違いじゃないよね?
「王宮に上がって王妃になるのでしたら、貴族からお付きの侍女を募集しますわよね? その時にわたくしを……」
泣いてるからだと思うけど。
布団ごと私に抱きついてるリリーちゃんの顔も耳も、トマトのように真っ赤になっている。
「む、無理だよ。なんで侍女なんて……」
「だって! クレナちゃんこれからも無理しそうですもの!」
ううう。
今までも色々やってきたから反論できない。
そっと、布団から顔をだすと。
リリーちゃんは、涙で濡れたままの顔をあげて、私を見つめてきた。
「何度も諦めようと思いましたけど……」
零れ落ちそうな大きな青い瞳。
透きとおるような白い肌。
小さくふくらんだ可愛らしい唇。
肩にかかる金色の髪。
もしこの世界に天使がいるなら……。
こんな顔をしてるんだと思う……。
「ずっと一緒にいさせてくださいませ」
その絵画のような美しい微笑に。
魂まで奪われてしまいそうになる。
呼吸が上手にできなくて……おもわず胸を押さえる。
「ちょっと待って! クレナは伯爵家で、キミは公爵家だろう? 身分が上の侍女なんて無理決まってるだろ」
シュトレ王子の慌てた声が部屋に響き渡る。
「貴方には話してませんわ。わたくしはクレナちゃんと話してるんです!」
「クレナはオレの婚約者だ! 侍女も二人で相談して決めるから!」
「ちょっと、落ち着いて二人とも」
再び部屋に、扉を開ける大きな音が響いて。
ジェラちゃん、ガトーくん、ナナミちゃん。
それと、だいふくもちが飛び込んで来た。
「クレナ起きたのね! し、心配したんだから!」
「クレナちゃん、良かった……」
「お姉ちゃん!!」
「無事でよかったのだ!」
目の前に、いつものあたたかい風景が広がっている。
そっか。
本当に世界が平和になったんだ。
――よかった。
私はふと、窓から見える青空に目を移した。
雲の隙間から星が輝いている。
この世界の星は魔力の塊だから。
昼間でも見えることがあるんだよね。
美しい、星と魔法の異世界。
かみたちゃん……マロン王子との約束……守れたよ。




