60.お嬢様と光の柱
キナコは砦の魔法石の近くに着地した。
近くでみると、ホントに大きい。
前世でいったら二階建ての家くらい。
普段は建物の中に入ってて見たりは出来ないんだけど。
今は、壁や天井が大きく崩れてむき出しになっている。
こんなに大きな魔法石……初めて見た。
「ご主人様、この魔法石に想いを込めてください!」
「急に想いとか言われても。何を想えばいいのさ!」
「綺麗な風景とか、楽しかった思い出とか。この世界でご主人様が感じた事全てを!」
魔法石は魔力の粒子がキラキラと輝いていて。
残っているわずかな壁に反射して……幻想的な景色を作り出している。
すごい……やっぱりこの世界は。
――本当に美しい。
そっと魔法石に触れると、指先がそっと光に包まれて。
あたたかい気持ちになる。
「この世界の想い……」
浮かんでくる風景は。
やっぱり、子供の頃に見た風景。
星がたくさん流れる星降りの夜。
王宮の空中庭園でみた夢のような美しい景色。
夜空も地上も魔法の輝きで満ちていて。
隣には優しく微笑むシュトレ様が……。
って……なんでそこでシュトレ様との思い出がてくるのさ!
世界のことだよね、世界の。
えーと。
えーと。
あれから毎年一緒にみた星降りの夜空。
二人で見た飛空船の空の景色。
舞踏会のキラキラ輝く風景。
皆で遊んだ美しい海。
……。
…………。
そっか。
私の幸せな景色にはいつも……いつも。
シュトレ様がいたんだ。
「オレも、一緒に想いを込めていいかな?」
ふと横から声をかけられた。
「うわぁ!」
「え? クレナ……?」
びっくりした。
だって横に本人の顔があるんだもん。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないから! うん、一緒にお願いします!」
シュトレ様が、そっと手を重ねてくる。
今の私……絶対……耳まで真っ赤だ。
胸の音が大きくて、隣にいる王子に聞こえてしまいそう。
こ、婚約者なんだし、聞こえても平気なはずなんだけど。
……恥ずかしい。
「お姉ちゃん。私も参加させて。これでも一応、星乙女ですから!」
固まっていた私に、ナナミちゃんが可愛らしい手を重ねてくる。
うわぁ、ウチの妹ってば。
ホントにすごくカワイイんですけど。
一応っていうか。
ナナミちゃんこそ、本当の星乙女なんですけど!
今の笑顔をゲームパッケージにしたら売り上げあがるよね。
私なら絶対買うし!
――って今はそれどころじゃないんだ。
世界を……かみたちゃんを助けないと。
「アンタだけじゃ足りないんじゃない? 私にも協力させなさいよ!」
「僕もさ、世界を……ううん、キミを助けたいんだよ?」
「クレナちゃん……わたくしたちも一緒に……」
私は、もう片方の手で。
リリーちゃんが差し出してくれた手を握りしめた。
「ありがとう、みんな……」
初代星乙女の時も。
仲間と一緒に暗黒竜に立ち向かった気がする。
……そうだよ。
……アカリちゃん……あなたは一人じゃなかったよね。
……今だって。
「ご主人様ー! 早くしてくださいー! アカリちゃんを……お願い!」
「そんなに長く持たないのだー!」
空を見ると。
私たちの方向に飛んでくる黒い魔法の塊を、キナコとだいふくもちがブレスで撃ち落としている。
ほらね。
今だって想ってくれてる人がいるんだよ。
だからね。
アナタのシナリオ通りにはさせないから!
**********
みんなの想いに反応するように。
大きな魔法石の輝きが強くなっていく。
「せっかく大好きな人といられるのに。この世界を終わらせたり……しないわ!」
「今日この日の為に……僕はいるんだ!」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
光は、空に向かってどんどん伸びていく。
砦にそびえたつ巨大な光の柱。
――これは、世界を想うみんなの力。
周囲の暗闇は、柱に触れた場所から光に吸い込まれていく。
やがて光の空間は広がっていって。
かみたちゃんのいる場所まで包み込んでいく。
「クレナちゃん、もうちょっとですわ!」
リリーちゃんが手に力をこめているのがわかる。
きっと……彼女は気づいてる。
「……このまま、封じますわよ!」
ごめん。
それは出来ないよ。
だって……かみたちゃんを……。
あんなに悲しい想いを抱えたまま封じるなんて……。
「クレナちゃん……行かせませんからね。世界なんて本当はどうでもいいの……だから……」
リリーちゃんの横顔が涙でいっぱいになってる。
「ごめんね……でも……」
「クレナちゃん!!」
かみたちゃんは影の力に抵抗してるみたいで。
苦しそうに上空でうずくまっている。
待ってて、今助けるから!
彼女の周囲にあった巨大な影はもうほとんど残っていない。
少しずつ。
かみたちゃんが、ひかりの柱に吸い込まれていく。
――今だ!
魔法石の力が、かみたちゃんを吸い込む瞬間。
そのタイミングで。
彼女を抑えて影だけ吸ってもらう!!
失敗したら私も吸い込まれるかもしれないけど。
でも!
でも!
かみたちゃんをこのままには出来ないよ。
私は残りの魔力をすべて集中させて、一気に上空に飛び上がった。
お願い、届いて!!
目の前のかみたちゃんは、ほとんど光の中に入っている。
だめだ。
間に合わない!!
「クレナ!! 手を伸ばして!!」
「クレナちゃん!! ダメ!!」
え?
なんで隣から、シュトレ王子とリリーちゃんの声が聞こえるのさ!
魔法石の輝きが突然強くなる。
目を開けていられない。
――次の瞬間。
あたたかい気配がして。
私とかみたちゃんの手を引いてくれたように感じた。
目の前で、綺麗な青い瞳が優しく微笑む。
誰だろう。今のって。
シュトレ様……なのかな?
私はそのまま……。
意識が遠くなっていった。




