56.お嬢様と世界の割れる音
砦の上空に、かみたちゃんの声が響き渡る。
……封印?
……封印って?
「うーん。悩んでる時間、ないんだけどなぁ」
彼女は、少し首をかしげると。
手をぽんと叩いた。
「それじゃあ。何が起きてるのか、わかりやすく教えてあげるね?」
大きな翼が禍々しい光を放ち始める。
かみたちゃんは両手を広げると、手のひらを空にかざした。
「これが……世界を滅ぼすっていうことだよ……」
彼女を取り巻く黒い光がかざした手に集まっていく。
次の瞬間。
二つの黒い光は強烈な光を放つと。
空に向けて、まるで大きな柱のように噴出された。
黒い輝きと、放たれた魔法の衝撃派が襲ってくる。
眩しさと風圧で……。
目を開けていられない!
「クレナ! 危ない!」
庇うように王子が抱きしめてきた。
私たちは、抱き合ったままの姿勢で、大きく吹き飛ばされていく。
――空がきしむような音を立てていた。
**********
気が付くと、私は森の中にいた。
砦とその上空に黒く輝く光が、木々の間から小さく見えている。
うそ……。
こんなに遠くまで飛ばされたんだ……。
何かが割れるような音が周囲に響いている。
なんだろ、これ。
「クレナ……大丈夫?」
私をのぞき込む優しい笑顔が視界に映る。
美しい金髪に整った絵本の王子様のような姿。
……シュトレ様だ。
「うん、私は平気だけど」
「そうか……よかった……」
王子は私を抱きしめたまま。
がくりと大きく倒れ込んで来た。
……え?
……シュトレ様?
慌てて彼を支えると。
地面に血だまりが出来ているのに気づいた。
「待ってて! 今すぐ回復の魔法を……!」
「大丈夫だよ……」
「全然大丈夫じゃないよ!!」
私は手をかざして、意識を集中する。
周囲が明るく光ると、彼の傷口が少しずつふさがっていく。
「じっとしててね。絶対助けるから!」
回復魔法って肉体を回復させるだけだから。
精神とか魔法力とか。
内面的な場所はすぐには回復しない。
「ゴメンね……私を庇ったせいで……」
「……あたり前だろ。大切な婚約者様なんだからさ……」
シュトレ様は私の手を取ると、そっと頬に当ててくる。
ずるいよ。
こんなの……。
不安と胸の鼓動が混ざって……。
涙で視界が滲んでくる。
「ちょっと、何なのよ今の!」
「クレナちゃん、大丈夫ですか?」
ジェラちゃんとリリーちゃんが駆け寄ってくる。
「私は大丈夫だけど、シュトレ様が!!」
「うわ、お兄様!?」
「シュトレ様、すこし我慢してくださいませ」
二人はシュトレ様の状態に気づくと、一緒に回復魔法をかけてくれた。
顔はまだ真っ青だけど。
傷口は全部ふさがったみたい
「リリーちゃん、ジェラちゃん、ありがとう」
「い、いいのよ……どうせお兄様がかっこつけたんでしょ」
「うふふ、クレナちゃんのためですから」
「それと。シュトレ様……ありがとう……」
私はそっと、シュトレ様を抱きしめた。
**********
「ご主人様ー!」
「無事ですかー!」
上空から、赤色と白色のドラゴンが舞い降りてくる。
その背中には、ナナミちゃんとガトーくん。
それと。
――サキさんとカレンさんがいた。
「お姉ちゃん!!」
ナナミちゃんは大きな瞳に涙を浮かべて、私の首に抱きついてきた。
「よかったです、お姉ちゃんが無事で……」
涙で頬を寄せてきた彼女の黒髪を、優しくなでる。
ナナミちゃんは少しだけ驚いた表情をした後、嬉しそうに目を細めた。
「あら、王子は倒れちゃったのね」
サキさんは紫の髪をかき上げると、妖艶な表情で近づいてくる。
「星乙女ちゃんを庇ってってところかしら? うふふ妬けるわね……」
「ちょっと、ここで戦うなら相手になるわよ!」
「クレナちゃんには近づけさせません!」
ジェラちゃんとリリーちゃんが魔法の杖を構える。
「ちょっとちょっと、もう戦わないってば。今度はホント!」
カレンさんが両手を広げて膝をついた。
一応、降参の姿勢なんだけど。
「アンタさっきも降参したじゃない! 信用できないわ!」
「とりあえず、結界で拘束させていただきますわ!」
「今そんなこと言ってる場合じゃないんだってば! 向こう見て! 向こう!」
カレンさんは慌てた表情で砦の方向を指さした。
周囲では相変わらず、何かが割れるような音が響き渡っている。
「……ゲームのどの周回でも……あんなの見たことないのよ」
サキさんも、砦の方向を眺めて険しい表情でつぶやいた。
――砦の方向?
ここからだと木々に邪魔されてよく見えない。
少しだけ身体を浮かべて砦の方角を眺めた私は……。
その異様な景色に言葉を失った。
砦の上空には、黒い光……かみたちゃんがいて。
空に向けて柱のような魔法を放っている。
魔法を受けた空は……。
まるで窓ガラスのようにヒビが入って……大きく割れている。
さっきから聞こえていた音は。
……割れ目から空が崩れていく音だ。
割れた空の隙間から見えるのは……。
なにもない真っ白な空間。
「ご主人様……」
キナコが寂しそうな瞳をして顔を近づけてきた。
「このままだと……かみたちゃん、ううん……アカリちゃんが。世界を壊してしまいます!」




