55.お嬢様と最後の試練
「やっぱり追ってきたんだ。さすが私……」
かみたちゃんは。
空中で魔物を吸収しながら、嬉しそうに笑った。
それは、影に乗っ取られた禍々しいものじゃなくて。
まるで。
まるで。
美しい絵画を見ているようで。
おもわず息をするのを忘れそうになった。
「ねぇ、もう少し待ってて。すごく素敵なものを見せてあげるから」
「……素敵なものって?」
「ナイショ!」
話している間にも。
上空にはたくさんの魔物が押し寄せてきている。
人間くらいのコボルトやゴブリンから。
巨大なオーガや、ワイバーンまで。
まるで。
……魔物の見本市のような恐ろしい風景。
彼らは、自分の意思がないみたいで。
抵抗もせずに次々とかみたちゃんに吸収されていく。
「ねぇ、かみたちゃん。なんで魔物を集めてるの! 今すぐやめようよ!」
「うーん。それは無理かな?」
かみたちゃんは首を少しだけ傾けて、可愛らしく笑う。
「ずっとほしかったの、この能力。素敵でしょ?」
彼女の周囲を取り巻く黒い炎はどんどん大きくなっていて。
禍々しい光を放っている。
背後の影の中から、暗黒竜のような大きな羽根が出現した。
かみたちゃんの姿は……。
既に、かみさまのようなものじゃなくなっていて。
……まるで悪魔……みたいに見える。
「素敵って……かみたちゃん、自分が何やってるかわかってるの?」
「暗黒竜の能力と、この神様みたいな力があれば……世界中の魔物を吸収できるの!」
「……あの王子はこんなこと、望んでなかったはずだよ!」
……変だよ、こんなの。
この美しい世界の平和を望んでいた、金髪の男の子。
いつも自分に向けてくれていた、優しい笑顔を思い出す。
彼がこんなことを望んでいたはず……。
絶対にない!
**********
「クレナちゃん、下がって!!」
魔法の木の葉が、かみたちゃんに襲いかかる。
「リリーちゃん! ダメ!」
「今のうちに、はやく逃げてください!」
かみたちゃんが両手を広げると。
目の前に大きな黒い壁が出来て、魔法を弾き飛ばした。
「クレナ、なにやってるのよ! どうみてもそいつがラスボスじゃない!」
「クレナちゃん……その姿はどうみても……」
私を避けるように、氷と雷の魔法が、かみたちゃんに降りそそぐ。
「待って! ちゃんと話を聞いてあげて!!」
私はかみたちゃんの前で大きく両手を広げる。
だって。
かみたちゃんはずっとずっと味方してくれて……。
こんなの……ありえない。
ありえないよ……。
「クレナー!!」
大きな声がして。
私は優しいぬくもりに抱きしめられた。
澄んだ青い瞳に、涙でいっぱいの私が映っている。
……シュトレ様……。
「クレナ……つらいだろうけど、ゆっくりでいいから砦の上空を見てごらん?」
……砦の空?
私は、シュトレ様の腕の中で、後ろを振り返る。
黒く輝きを放つかみたちゃんは。
みんなで倒した暗黒竜よりも……ずっとずっと大きな、黒い炎に囲まれている。
周囲を取り囲む魔物たちで、空は光の差し込むスペースがないほど真っ暗だ。
――怒りや憎しみや悲しみ。
負の感情が、彼女を中心に集まっているようにみえた。
そのまま影が世界を飲み込むような……恐ろしい未来が見える気がした。
「今、彼女を止めないと……世界を守るために……」
わかってる。
頭では理解しようとしているのに。
どうしても。
心が納得してくれないよ……。
私は王子の胸の中でうずくまる。
**********
「うふふ、王子様とラブラブですね。うらやましいなー!」
え?
突然。
その場の空気にあまりに不似合いな、かみたちゃんの明るい声が響く。
「やっぱり、ハッピーエンドがいいよね。王子様と結ばれる主人公。物語はこうじゃなくちゃ!」
私は、涙でいっぱいになったままの顔を上げた。
滲んだ景色に、黒く光るかみたちゃんが映る。
なんでそんなに禍々しい姿なのに。
……優しく微笑むのさ!
「あれ? クレナちゃん。もしかして怒ってる?」
「……誰のせいだとおもってるのよ」
「あはは、でももう全部終わったから大丈夫」
気がつくと。
空一面に埋まっていた魔物が一体もいない。
もしかして……全部吸収したの?
「驚いたでしょ? あれはね、この世界にいた全ての魔物なの」
「え? ……全てって、世界中の魔物全部?」
「そうなの。うーん、やっぱりすごい数だったわ。見て、おかげですっかり真っ黒」
かみたちゃんは、くるりとその場で一回転する。
……この世界にいた魔物。
……すべて吸収したの?
「ねぇ、そんな姿になって……平気なの?」
しゃべり方や、表情は中学の私のままだけど。
体にまとわりついている影は、まるで黒いドレスのようだし。
背中には禍々しい黒い翼。
頭にも悪魔のような大きな角。
体中から黒い炎がたちのぼっている。
……私の知っているかみたちゃんとは。
ううん、中学の頃の私とは。
完全に別の姿。
「今は割と平気なんだけどね。たぶんもうすぐ、破壊衝動で自分を抑えられなくなるかな?」
「……それって」
リリーちゃんが影に飲まれた時の、キナコとだいふくもちの言葉を思い出す。
それはたぶん。
影に浸食されているってことだよね……。
なんでそんなこと……。
動揺して固まる私に向けて。
かみたちゃんは、太陽みたいな笑顔を見せた。
「だからね、星乙女のクレナちゃんに、最後の試練」
「……え」
「このまま私を……封印して!」




