44.ヒロインの見る夢
<<ナナミちゃん目線>>
夢を見ていた。
なんだかずっと昔のことのような。
つい先日の出来事だったような。
懐かしくて……切ない夢。
「ねぇ。……私、七海の事好きなんだけど」
放課後に呼び出された校舎裏で。
私は告白された。
中学に入ってから何度かこんなことがあって。
大好きな小説やマンガみたいな世界に憧れてたのに。
どうても胸がときめかなかった。
だからいつも。
罪悪感を覚えながらも断ってたんだけど。
でも、今日の相手は……。
「あはは、ちょっとどうしたの? 本気にしちゃうよ?」
私は、目の前の人物に微笑みかけた。
「……本気にしていいよ。私、七海のことが好きだから」
「え、ちょっとまってよ。落ち着こう? ね?」
ショートヘアの明るい髪が、風でさらさらと揺れる。
いつものような活発な表情は消えていて。
頬も耳も。
まるで熟したリンゴみたいに真っ赤になっている。
「最後まで親友でいようって思ってた……思ってたんだけど」
目に涙をためて。
目線を合わせたまま顔を傾けてくる。
「……ずっと。入学式からずっと、七海のことが大好きなの!」
絞り出すような切ない声に。
私は返事をすることが出来なかった。
――だって。
目の前で泣いているのは。
中学に入学してた時からの親友。
……咲良ちゃんだったから。
**********
「いつの間にか、寝ちゃったんですね……」
ベッドから起き上がると、近くにあった時計に目を移す。
文字盤がうっすらと浮かび上がって時間を教えてくれる。
まるで、立体映像みたい。
この時計は魔道具といって。
星の魔力で動く道具。
「ホントに、前の世界にそっくりなのになぁ……」
時計のほかにも。
冷蔵庫とかドライヤーとか。
自動車みたいなものもあって。
ラノベやゲームの異世界とは全然違ってるけど。
――でも。
手のひらを広げて小さな光を出現させた。
不思議なあたたかい光は、ここが元の世界じゃないことを教えている。
「お姉ちゃんの部屋に行こうかな」
そう思うだけで。
なんだか胸がきゅんと締め付けられる。
部屋をそっと出ると、魔法の光を連れてお姉ちゃんの部屋に向かった。
**********
咲良ちゃんから告白されたあの日の帰り道。
突然、足元に大きな図形と文字が浮かび上がって。
――私はこの世界の召喚された。
何が起こったのかわからなかった。
言葉が全く通じない。
捕らえられたこの世界で。
寂しくて現実から逃げ出したくて。
……パニックを起こしていた時に。
「大丈夫。これからは、もうひとりじゃないよ」
まるで絵本の妖精のような。
薄桃色の髪をした美しい女の子が微笑みかけてきた。
笑顔が太陽みたいにあたたかくて。
この世界に来てから初めて。
心から笑うことができた。
同時に。
生まれて初めて。
……ドキドキと胸の鼓動が早くなるのを感じていた。
それでも最初は憧れだったんだと思う。
お姉ちゃんは。
本当に優雅で、可愛らしくて。
誰にでも笑顔で明るくて。
私の理想の女性像だったから。
――でも。
私が魔法を覚えるのに協力してくれて。
私の居場所を作ってくれて。
いつでも笑顔で支えてくれて。
……無理。
……無理だよ。
こんなの。
誰だって惚れちゃうよ……。
お姉ちゃんが男の子だったらって。
ううん。
私が男の子でもよかった。
せめて良い妹でいようって思ってたのに。
胸の高鳴りは収まるどころか。
どんどん膨らんでいって。
止めるなんて無理だよ……。
お姉ちゃんの部屋へ向かう途中。
廊下の窓から見える星空を見上げた。
満天の星空に、薄桃色の少女のこぼれるような笑顔が浮かんでくる。
「……咲良ちゃん。今なら、気持ちがよくわかる……よ」
窓に片手を当てると。
そっと独り言をつぶやいた。
**********
私は、お姉ちゃんの部屋の前に立つと。
音を立てないように、こっそりと扉をあけた。
お姉ちゃんはいつも部屋のカギをかけてるんだけど。
何故か私は普通に開けることができる。
キナコちゃんいわく、これも星乙女の力なんだって。
変なチート能力!
もっと別の能力がよかったな。
例えば、魅了の魔法とか。
そうすれば、毎日お姉ちゃんとくっついていられるのに!
ゆっくりベッドを覗くと。
お姉ちゃんの可愛らしい寝顔があった。
私はいつものようにベッドにもぐりこむと。
お姉ちゃんをそっと抱きしめる。
大好きな甘い匂いが体を包んでいく。
このまま。
元の世界に戻れなくてもいいから。
……ずっとずっと、お姉ちゃんと一緒にいたいな。




