43.お嬢様と必殺技
真っ白な空間にきてから、数日がたった。
正確には、この空間は外の空間とは切り離されてて。
時間の概念がないみたいなんだけど。
私たちの体内時計に合わせて、かみたちゃんが朝昼夜を作ってくれている。
朝はゆっくり明るくなって。
お昼は暖かくて。
夜は暗くなって星空のようなものが浮かんでる。
地面はふわふわやわらかくて。
なんだか。
雲の中で生活してるみたいな気分。
「はーい、さぁ今日は最後の特訓ですよー」
朝食を食べ終わった後。
かみたちゃんが、みんなを集めて明るい顔で宣言した。
ふと、シュトレ王子と目が合った。
青い瞳がやさしげに揺れる。
「今日も男女別にわかれるんですか?」
「いえー。今日は必殺技の特訓なので、合同ですよー」
――必殺技?
えーと、確か。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』でも、そんな機能があったような。
星乙女と攻略対象の好感度が高いと選択できるようになって。
二人で合体技みたいなのを使ってたと思う。
え。
それを今ここで特訓するの?
「ハイ! それでは頑張りましょうー!」
かみたちゃんは笑顔で微笑みかけてくる。
だって、それって……。
「ねぇ。かみたちゃん。質問なんだけど」
「クレナちゃん、なんでしょう?」
「その必殺技って、ゲームと同じで好感度が高くないと使えないの?」
「んー。そうなりますねー」
やっぱり。
じゃあ。
「……技の威力も?」
「それはもう、ゲームと同じで好感度次第ですよー」
……。
…………。
ちょっと、なにこの仕様!
ゲームの時は全然疑問に思わなかったけど。
現実だと……。
「……もうやだ。今だって恥ずかしいのに! そんなの完全に公開告白じゃない!」
ジェラちゃんが、真っ赤な顔をして大声で叫んだ後。
両目に涙をためてうずくまった。
……だよね。
私もそう思ってた。
お互いの好感度っていうことはさ。
みんなの前で告白するのと一緒だよね。
成功なら技が出るし。
フラれるなら出ないし。
しかも、お互いの想いまで威力として現れるとか……。
――誰よ、こんなこと考えたの!
あれ?
でも。
「かみたちゃん、もう一つ質問なんだけど」
「ハイ。なんでしょうー?」
私はリリーちゃんをちらっと見ると。
かみたちゃんの耳元でささやいた。
「この場所に、大好きな人が来てない場合はどうするの?」
リリーちゃんの場合。
この場所に想い人がいると思えない。
シュトレ王子とも。
ガトーくんとも。
そんな雰囲気なかったと思うし……。
「この中には、そういった人はいないので大丈夫ですよー?」
かみちゃちゃんは、口元に手を当ててニヤッと笑うと。
私の両肩をぽんっと叩いた。
もう、なんなのよー。
**********
「それじゃあ、準備ができたら。隣でお互いの手を握り合ってくださいねー」
かみたちゃんの声を合図に。
ジェラちゃんが私のそばに駆け寄ってきた。
「もう、悩んでもしかたないわよね。やるわよ、クレナ!」
ジェラちゃんが、意を決したように私の手を握る。
目が潤んでいて頬も耳も真っ赤。
「お、落ち着こうジェラちゃん。必ず必殺技が必要なわけなじゃないし」
ゲームでは、星乙女と攻略対象だけが使えたから。
ジェラちゃんが使えなくても……。
「い、いいから。やってみないとわからないじゃない!」
ジェラちゃんの真剣な表情に。
思わず息をのんだ。
そうだよね。
だってこれ……告白と一緒なんだから。
「それじゃあ、目を閉じて。浮かんできたイメージをそのまま形にしてくださいー」
ゆっくりと目を閉じると。
ジェラちゃんの手のぬくもりが伝わってくる。
なんだろう。
この不思議な感覚。
幸せな気持ちで満たされていく。
浮かんできたのは。大きな……ピンク色のクマ?
……次の瞬間。
クマが思い切り、かみたちゃんにむかって走っていくイメージが浮かんだ。
「成功ですね! おめでとうございますー!」
え?
慌てて目を開けると。
巨大なピンク色のクマが召喚されていて、かみたちゃんを攻撃している。
なんだかすごくシュールなんですけど。
なにこれ……。
「あはは、それはね。ジェラの部屋にあるヌイグルミだよ。クレナって名前を付けて毎晩抱きしめてる……」
クマをみて大笑いしていたガトーくんに。
ジェラちゃんの飛び蹴りがきまった。
「なななな、なんで知ってるのよ! アンタバカなの!」
ジェラちゃんは、私に向き直ると。
こつんと寄りかかってくる。
「魔法、成功してよかったわ……まだ可能性があるって……ことよね?」
目を伏せながら。
静かに抱きしめてきた。
**********
「おねえちゃん、次は私がやるね!」
ナナミちゃんが、ジェラちゃんをひきはがすと。
嬉しそうに両手を繋いできた。
「え? ナナミちゃん? ガトーくんならそこにいるよ?」
私の声に不満そうに頬を膨らませたナナミちゃんは。
ぎゅっと両手に力を込めた。
「いいから。早く目を閉じてください!」
「え? う、うん」
ナナミちゃんの迫力に押されて。
思わず目を閉じると。
唇にあたたかい感触が伝わってきた。
彼女の甘い吐息が頬にかかる。
「ナ、ナナミちゃん?!」
「いいから! 目を閉じてて!」
頭に浮かんだのは、いっぱいのハート。
胸の中にナナミちゃんの想いが流れ込んでくる。
……え、うそ!?
私たちは……。
同性だし……。
義理でも姉妹だし……。
しかも、ナナミちゃん星乙女でヒロインなのに!
「そうですかー。お二人も成功ですねー」
目を開けると。
巨大なハートがかみたちゃん周辺にたくさん浮いていて。
一斉に攻撃をしかけている。
「……私の気持ち、今度はちゃんと伝わりましたか?」
頬を染めて見つめてくる姿は。
ゲームで見た彼女の何倍も可愛らしくて。
息が止まりそうになる。
「え? だって……」
混乱する私の腕にぎゅっと抱きついてきた。
「大好きですよ、お姉ちゃん。この世界に来てからずっとずっと、お姉ちゃんしか見てませんから!」
それはどうみても。
本気の告白で……。
…………ええええええ!?
**********
待って。それじゃあ……。
ガトーくんはどうなるんだろう?
彼がゲームの攻略対象なのに。
あわててガトーくんに視線を送ると。
両手を広げて小さくため息をついた。
そうだよね。
まさかナナミちゃんが……。
彼は髪をさっとかきあげると、さわやかな笑顔を見せた。
さすがイケメンキャラ。
これくらいじゃ動揺しないんだね。
「それじゃあ、僕の番かな?」
彼はゆっくりと近づいてくると。
それはまるで、恋愛映画のワンシーンのように。
片膝をついてナナミちゃんの手を……あれ? 取ってない。
な、なんでそこで、私の手を掴むのさ!
「ねぇ。目を閉じて、クレナちゃん」
ゲームのイベントスチルのような。
ううん。それ以上に綺麗な笑顔に、あわてて目を閉じる。
身体中が彼の優しさに包まれていくような感覚がした。
この世界に来てから初めての転生仲間で。
子供の頃からずっと大切な友達だったガトーくん。
でも、今彼から伝わってくる想いは。
友達なんかじゃなくて……。
次の瞬間。大きな音が響き渡る。
「これが僕の本心さ。驚いた? ずっと告白してたのに、本気にしてくれないんだもんなー」
かみたちゃんの頭上から大きな雷が幾重にも降り注いでいた。
**********
なんなのこの特訓。
告白大会になってるんですけど?
しかも……。
………。
…………。
なんで相手が私なの?
「クレナちゃん。次はわたくしがお相手しますわね」
私が混乱していると。
急に後ろから、ふわりとあたたかい腕に抱きしめられた。
リリーちゃんの金色の髪が頬にかかって。
大好きな甘い香りがひろがってくる。
「リリーちゃん?!」
「……ずっとずっと。大好きですわ。子供の頃、お屋敷で出会ってからずっと……」
だってそれは。
親友として……だよね?
ゆっくりと顔を横に向けて、目に映った彼女の横顔は……。
まるで。
恋を知った天使の姿みたいで。
――そうだ。
――そうだよ。
本当は気づいてて。
気づいてないふりをしてたんだ。
記憶にあるリリーちゃんはずっとずっと。
私に……。
今と同じ表情を向けてくれてたのに。
「目を閉じてくださいませ」
耳元でささやく彼女の声に、ゆっくりと目を閉じる。
体中が生まれ変わるような。
幸せな気持ちに包まれていく。
浮かんでくるのは。
初めて出会った時に、一緒に登った大きな木。
美しい風景と、夕日に染まった彼女の横顔。
そうか。
そうだったんだ。
だからリリーちゃんの魔法は……。
「な、なによこれ……」
「お姉ちゃんたち、すごい……」
リリーちゃんの幸せそうな笑顔が飛び込んでくる。
「クレナちゃん!」
抱きしめてくる彼女の後ろには。
上が霞んで見えないほどの巨大な樹が。
――金色に輝いてそびえ立っていた。




