39.お嬢様と胸の鼓動
ごめんなさい。
この話の前に、28~36話の内容を一部変更しています。
もしよろしければ、そちらからお読みください。
「あの……まさかとは思いますけど。クレナちゃん、一応話しておきますね?」
「うん、どうしたの?」
リリーちゃんは、私の腕に抱きしめられたまま。
顔を真っ赤にして、慌てたような表情で目を泳がせた。
「わたくし記憶を書き換えられてませんわよ?」
周囲で私たちを囲んでいた人たちの動きが固まる。
真っ白な世界に一瞬静寂が訪れた後。
「はぁ~、ウソでしょ!?」
「ホントですか?」
「だって、リリアナお前……」
みんなが一斉に騒ぎ出す。
あの日の夜に会った時にも。
手のひらにメッセージをくれた時にも。
もしかしてそうかなって。
思ってたけど。
思ってたけど。
……やっぱり!!
「わたくしが、クレナちゃんとの記憶を忘れるなんて……絶対にありえませんわ!」
リリーちゃんは頬を染めて。
天使のような微笑を私に向けてくる。
「もう……そうかなって思ってたけど。かみたちゃんが変なこと言うから~」
私は、かみたちゃんをじっとにらむ。
「えええ!? 治すとはいいましたけど、記憶の話はしてませんよねー?」
かみたちゃんはうろたえながら、キナコとだいふくもちに目線を移す。
「ご主人様、影の影響があったのは本当ですよ?」
「そうなのだ! 女神さまはウソをいっていないのだ!」
そうだけどさぁ。
絶対誤解すると思うんだけど。
……あれ?
今だいふくもち、かみたちゃんのことを女神様って?
「ちょっと! じゃあ、なんで私たちを裏切ったのよ!」
「そうだね、説明してもらえるかな?」
ジェラちゃんとガトーくんが、リリーちゃんに詰め寄る。
当たり前なんだけど。
すごく険しい表情をしている。
「ちょっとまって。一度落ち着こう? ね?」
私は、リリーちゃんと二人の間に入って、両手で押しとどめる。
「クレナ! コイツは裏切り者なのよ! なんで庇うのよ!」
「……クレナちゃんも魔法で攻撃されてたよね!?」
二人の怒りは収まりそうにない。
困ったなぁ。
「あれは。あんまりアリアちゃんを攻めると、魔人が怒りそうだったからですわ」
リリーちゃんが笑顔のまま答える。
そういえば。
私が魔法を使われたのって、アリア……由衣に近づいた時だけだった。
植物が巻き付いたときも、痛くなかったし。
本当は。
彼女に……守られてたの?
「いざとなったら魔法の木で守ろうとしたんですけど、相手の魔人さんが冷静でよかったですわ」
リリーちゃんと目が合うと。
嬉しそうに顔を輝かせている。
――どうしよう。
……同性なのに。
……小さい頃からの大親友なのに。
顔が勝手に火照りして。
胸の高鳴りが止まってくれない。
「じゃあ、なんでラスボスを召喚した時に、魔法で邪魔したのよ!」
「みなさん魔法が封印されてたのに、魔法陣に近づいたらあぶないですわよ?」
「なんでお姉ちゃんを裏切ったふりなんってしてたんですか?」
「そのほうが、クレナちゃんのお役にたてそうだったからですわ」
リリーちゃんは、私たちの質問に丁寧に答えているんだけど。
私の頭は、別の事でいっぱいになっていて。
会話が全然頭に入ってこなかった。
なんで。
なんでこんな気持ちになるの?
だって。おかしいよ。
私にはシュトレ様がいるのに。
ずっと胸の音がうるいし。
視線がリリーちゃんに吸い込まれるようで、目を離すことが出来ない。
「……ご主人様、聞いてます?」
気が付くと。
すぐ横でキナコが耳打ちをしてきた。
「う、うん。キナコどうしたの?」
「だからですね、記憶を変えるんなんて強力な魔法……普通だったら影に取り込まれるんですよ」
「そっか……そうだよね」
私はリリーちゃんを見つめたまま。
静かにうなずいた。
「ご主人様への愛が、影の力に勝ったんですね」
ちょっと、キナコ!
愛。
愛って。
ダメだ。
顔が蒸発しそうで、思わず両手で頬を抑えて座り込む。
「ご、ご主人様?」
「クレナ、どうした! 顔が真っ赤だぞ!」
シュトレ様が慌てて、私のそばに駆け付け来る。
申し訳なくて。
彼の顔が……ちゃんと見れないよ。
「はーい! ラブラブ話はここまでにして。暗黒竜のお話をしましょうか?」
かみたちゃんは、両手でパンパンと手を叩くと。
背後に大きな画面が出現した。
そこに映っているのは。
巨大な黒い影。
大きな四つ足と、三本の大きな首。
空高くそびえる翼。
高く持ち上がった長い尻尾。
瞳が炎のように真っ赤に光っている。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』で最後に登場したラスボス。
世界を飲みむ巨大な影の王。
「リリアナちゃんー? 召喚する魔法陣に何かしましたねー?」
かみたちゃんはじっと映像を眺めた後。
目を細めならリリーちゃんに問いかけた。
――え?
その場にいた全員の視線がリリーちゃんに集まる。
「今砦に出現している暗黒竜は、王宮の地下にいた時より、ずっと弱くなってますー」
リリーちゃんはゆっくりと私に近づくと。
両手を伸ばして嬉しそうに抱きついてきた。
「リリーちゃん……?」
「うふふ。魔法陣の文字を、いくつか別の文字に書き換えておきましたわ!」
彼女は頬をすり寄せると、勝ち誇ったような表情を浮かべている。
……。
…………。
書き換えた?
魔法陣の文字を?
ええええええええええ!?




