37.赤いドラゴンの見る夢
<<キナコ目線>>
「一体どこから……私たちは間違えたんだろうね……」
黒髪の女の子が、目の前で泣き崩れる。
泣かないで。
泣かないで。
そんな表情をさせるつもりはなかったのに。
いつものように。
お日様みたいに笑っていて欲しかったのに。
もう身体の感覚がなくて……彼女に手を差し出すことも出来ない。
「おさがりください、星乙女様!」
「それ以上庇われるのでしたら、同罪とみなしますぞ!」
鎧を着た人間たちが、周囲を取り囲んだ。
黒髪の少女は、両手を広げて私の前に立ちふさがる。
「ダメ! どうしてこんなことするの?」
「いつまで聞き分けのないことを……これだから子供は……」
騎士の間を通って、かっぷくの良い白髪の男が近づいてくる。
身に着けているものは、どれも豪華に見える。
白地に金色の服は、この国の王族の証だ。
「いいから、おとなしく来なさい!」
女の子は、震える声で訴える。
「……世界を守るためにずっと戦ってきたのに!」
「新しい怪物を生み出してくれと、お願いしたつもりはないですぞ!」
そうだ。
私は、彼女の純粋な願い。
『世界を平和に』
それだけの為に戦ってきた。
帝国が連れてきた影の王を倒して。
その後もずっと。
ひたすら目の前の魔物を倒してきた。
その代償が……。
この身体だ……。
炎のように真っ赤だった私の体は、闇のように黒くなって。
あらゆるところにヒビが入っている。
きっと異形の怪物のように見えるのだろう。
「ねぇ、お願い! 絶対私が治して見せるから!」
彼女は金色に輝きだすと。
黒くゆがんだ私の身体に当ててくる。
星に祝福された彼女にだけ使える特別な力。
奇跡のような魔法。
眩しい光が、私を包み込む。
――次の瞬間。
私の体に無数の剣が突き立てられた。
もう痛みは感じたりしないが……体が少しずつ崩れていく。
「……なんで……どうしてよ!?」
黒髪の少女は、騎士の前に立ちはだかると。
のどが張り裂けそうな叫び声をあげる。
「なぜそこまで、この怪物をかばわれるのですか!!」
「やはり……この怪物を生み出したのは……」
少女は、近くにいた騎士たちに取り押さえられた。
王家の男は邪悪な笑みを浮かべて彼女に近づく。
「王子にコロリと騙されて……利用されるだけされて……かわいそうだな、異国の化け物」
「ちがうわ! 彼は世界の平和を望んだだけ!」
「だから、だまされてるんだよ。影の王も倒したし帝国も撤退した。……王家にとって残りの邪魔ものは……お前らだよ」
彼女を。
私の大切な人を。
……許せない!
憎しみで精神が支配されていく。
私を包む影の性質が変化していく。
なんだか。
身体と精神のすべてが、作り変えられていくような感覚がする。
あははははは。
動く。
体が自由に動くぞ!
「我に挑むとは愚かな人間たちよ! すべてを闇に葬ってくれよう!」
壊す。
壊す壊す壊す。
彼女を傷つけるものはすべて
徹底的に壊してやる!
「くそっ! 化け物め!」
王族の男が巨大な炎の玉を召喚し、我にぶつけてくる。
無駄なことを……。
「我が力の前に、消え去れ!」
我は、その魔法ごと、その男を炎のブレスで消し去った。
最初から。
最初からこうすればよかったのだ。
全てだ……魔物も人間もすべて……破壊しつくしてやる……。
――最後に覚えているのは。
黒髪の少女の悲しそうな笑顔。
我の意識は闇の中に消えていった。
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「気が付きましたかー? 気分はどうです?」
目を覚ますと。
そこは真っ白な空間で。
目の前に、金色に輝く少女が立っている。
肩までの長さの髪。
大きな愛らしい瞳。
「アカリちゃん!」
思わず駆け寄ろうとして。
自分の体の変化に気が付いた。
アカリちゃんはまるで巨人のように大きくて。
ボクの羽根や手、シッポがすごく小さい。
まるで子供の頃みたいだ。
アカリちゃんの姿も。
頭にドラゴンのような角、背中にもドラゴンのような羽が生えている。
「んー。私が誰にみえてるんでしょうかー?」
「え?」
金色の少女を改めてみると。
アカリちゃんなのに、アカリちゃんじゃない。
そんな不思議な魂の色をしている。
……これなんだろう?
「転生させるのはアナタだけじゃないのですよー。待っててくださいね、もっとにぎやかになりますよー」
彼女はボクを抱きかかえると。
そっと頭を撫でてきた。
「それまで、お休みなさい……竜王。きっと今度は幸せになれますよ」
彼女のあたたかい腕の中で。
ボクは久しぶりに。
――静かに眠ることができた。




