33.お嬢様とこの世界のクリア方法
……リリーちゃんの記憶を?
入れ替えた?
由衣はクスっと笑うと、私に抱きついてきた。
「お姉ちゃんのお気に入りのゲームキャラでした? 私がもらっちゃいましたけど」
もらった?
お気に入りのゲームキャラ?
この子……なに言ってるの……。
「由衣……アナタ何をしたかわかってるの……!?」
「あー。結構大変だったんですよ。ただのゲームキャラのくせに記憶を入れ替える時、大泣きして暴れちゃって」
片手の指を唇に当てて、少し考えるポーズをした後。
私に頬を寄せてくる。
「どうしたのお姉ちゃん? あんなゲームキャラなんていなくても、私がいるじゃない?」
上目遣いで目が潤んでいる。
前世から由衣が得意な……おねだりポーズだ。
「……由衣!」
私は、大声を上げて由衣の胸元をつかんだ。
ダメだ。怒りの感情を押さえることが出来ない。
「今すぐ、リリーちゃんを元に戻しなさい!」
「お姉ちゃん……何怒ってるの?」
由衣は、不思議そうな顔をして私を見つめている。
可愛らしい動く唇が残酷な言葉をつむぐ。
「一度壊したらもう戻らないよ? そんなに怒るなら、別のゲームキャラで遊べばいいじゃない?」
頬を膨らませて、抗議してくる。
前世でいたずらがバレたときと同じ表情をしている。
……本気でリリーちゃんをゲームキャラだと思ってるんだ……。
次の瞬間。
私の体中に魔法の植物が巻き付いた。
「いくらアリアちゃんのお姉ちゃんでも、これ以上はゆるしませんよ!」
「……リリーちゃん!?」
ツタのようなものが、私の体を持ち上げて締め付けてくる。
私の記憶にあるリリーちゃんは、いつも天使のように微笑んでいたのに……。
彼女の目は……今までに見たことがないくらい冷たくて。
不思議と痛くはないけど。心が痛いよ……。
なんで……なんで。
「クレナ!!」
シュトレ王子がリリーちゃんから伸びるツタを光の剣で切り裂くと。
私を庇うように受け止めてくれた。
「リリアナ、アンタどうしちゃったのよ!?」
「いくらキミでも、クレナちゃんの敵なら……容赦はしない!」
「ついに正体をあらわしたわね、お姉ちゃん私に任せて!」
ジェラちゃん、ガトーくん、ナナミちゃんが、私の前に入ってきて。
魔法を唱える構えを見せた。
「なになに、戦闘するの? こっちも負けないけど!」
「アリアちゃんの敵は、私の敵です!」
案内をしてくれた赤毛の少女カレンさんと。
……リリーちゃんが由衣の前に立ちはだかる。
「ストーップ! 停戦中でしょ。私たちは!」
テントに入ってきたサキさんが呆れた顔で大きな声をあげた。
**********
リリーちゃんが、由衣を抱きしめながら、警戒するように私を睨んでいる。
「リリアナ、大丈夫だから離れなさい。邪魔だわ」
「でも、アリアちゃん……」
「命令よ、離れて!」
「……わかりました」
命令の言葉にビクッと反応して、残念そうに手を離す。
同じ顔なのに。
同じ表情なのに。
私の知ってるリリーちゃんじゃ……ない。
もう戻らないって……そんな……。
「……記憶をいじるって……こんなの最強のチート技じゃない……」
ジェラちゃんは、怯えたように自分の身体を両腕で抱きしめている。
隣に座っているナナミちゃんも、怯えた顔でぎゅっと私の袖をつかんできた。
「あら? 転生者には出来ないわよ。多分、転移者も。出来るのはそれ以外のゲームキャラだけね」
由衣は目の前のソファーに座ると、私たちを見て可愛らしく微笑んだ。
サキさんに促されて、私たちも近くのソファーに座る。
「だから安心していいわよ。私、転生者には優しいから。同じ目的の仲間だと思ってるし」
「……同じ目的って何?」
由衣をにらんだだまま答えた。
「もう、そんなに睨まないでよ。リリアナ、お姉ちゃんの隣に座ってあげて」
「わかりました、アリアちゃん。失礼しますね」
リリーちゃんは優雅にお辞儀をすると、私の横に座った。
彼女の金色の髪がふわりと広がって、甘い香りが漂ってくる。
「……リリーちゃん、本当に覚えてないの?」
「何をですか?」
彼女は、不思議そうな顔をして首をかしげる。
どうしよう。
どうしよう。
どうすれば元に戻るの?
隣にいるのは、間違いなくリリーちゃんなのに……!
不安で胸が押しつぶされそうになる。
――次の瞬間。
手のひらに不思議な感覚がした。
光が差し込んでくるような温かくて不思議な気分。
リリーちゃん、私の手のひらに何か文字を書いてる?
これって……。
あわてて、リリーちゃんの顔を見ると。
表情を変えずに由衣を見つめている。
そうだったんだ。
やっぱり……そうだよね。
よかった……。
私は。気づかれないように小さく深呼吸した。
あとは……この子だ。
「ねぇ、由衣……。由衣は何がしたいの?」
「決まってるじゃない、お姉ちゃん!」
由衣は、急に立ち上がると。
興奮気味に大きな声を上げた。
「ゲームのラストイベントをぶち壊すのよ!!」
……。
…………。
壊す?
ラスイベを?
ボスを倒して世界を救うんじゃなくて……?
「そうよ。せっかく異世界に転生してきたのに。ゲームキャラ達の為に、ラスボスを倒して終わりなんて馬鹿げてるわ」
由衣はすごく嬉しそうに、部屋にいる全員を見渡した。
まるで。
楽しいことを思いついた子供のように。
「だからね、私たち転生者の力で世界を治めちゃえばいいのよ! そうすればお姉ちゃんともずっと一緒にいられるし!」
突然、部屋に拍手の音が鳴り響く。
振り向くと、赤髪の魔人カレンさんが嬉しそうに拍手をしていた。
サキさんも私たちに向かって優しく微笑みかけている。
「こっちには、影の力を操れる私と魔人。そっちには、星乙女二人とドラゴン、王族と攻略対象かしら?」
由衣は腰に手を当てて、満足そうにうなずくと。
興奮気味に身を乗り出してきた。
「敵対する必要ないわよね? これだけいれば世界制服なんて余裕よ!」
「由衣……そんなことを考えてたの? 今すぐやめなさい!」
「バカなことを……世界中の人間と敵対するつもりか!」
シュトレ王子は勢いよく立ち上がると。
私の前で庇うように剣を構えた。
そのすぐ後ろから、二つの炎ブレスが由衣に襲いかかる。
キナコと、だいふくもちだ。
「はぁ、これだからゲームキャラは嫌なのよ……」
由衣はブレスを影のようなもので簡単に防ぐと。
勝ち誇ったように目を輝かせて宣言した。
「ちがわ。敵対するんじゃなくてね……支配してあげるのよ!」




