27.お嬢様と過去の幻
サキさんの作ったゲートの中に入ると。
周囲の空間がゆがんでいる。
すぐ隣にいるはずのシュトレ王子の姿も、ぐにゃぐにゃしててよく見えない。
「シュトレ様、いますかー?」
声も曲がっているように反射して、まっすぐ届いてないみたい。
なにこれ。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』ではいろんなところにいける便利魔法だったんだけど。
実際のゲートって、こんな感じだったんだ。
まずい、急に意識がとおくなっていく。
なんで?
うそでしょ!
……シュトレ王子!?
つないでいたはずの手の感覚もなくなってきて。
ゆっくりと視界が真っ暗になっていった。
**********
「アーカーリー、そんなところで寝てたら風邪をひくぞ!」
誰かが私を呼ぶ声がする。
……。
えーと、誰だっけ?
パッと目を開くと。
金色の髪に青い瞳の男の子が立っていた。
「んー、ごめん。なんだか気持ちよくて……」
「あはは、よだれついてるぞ」
「え!? うそ。 ホントに?」
私は慌てて口の周りに手を当てる。
「ウソだよウソ。アカリは可愛いなぁ」
もう!
すぐそうやってからかうんだから。
「そんなことより、お仕事は終わったの?」
「ああ、あんなの楽勝さ!」
「ホントかしら……」
春の日差しが彼の金色の髪を照らして。
とてもキレイ……。
「……どうしかした?」
「な、なんでもないよ」
見惚れてたなんて、本人に言えるわけないじゃない。
目の前にいる男の子は。
子供の頃に読んだ絵本の王子様そっくりで。
まぁ、そっくりというか。
彼は本当に……この国の王子様なんだけど。
周囲から魔法王国『ファルシア』と呼ばれているこの国は。
昔から星空がきれいなところで。
その力を利用して魔道具が発達してるんだって。
王宮内にある、この庭園は。
色とりどりの花が咲いていて、すごくいい香りがする。
遠くから鳥の鳴き声が聞こえてきて。
平和だなぁ。
日差しがぽかぽかあたたかくて、すごく気持ちいい。
「よし、僕も一緒にねようかな」
王子はイタズラっぽい表情で微笑むと、私の横に寝転んだ。
「そんなことしたら、あとで怒られるよー?」
「いいよ、その時はアカリも一緒に謝ってよね?」
そんな瞳で見つめられたら、断れないじゃん。
頬が赤くなっているがバレないように、反対側を向いて芝の上に転がった。
「……いいけど、私が言っても無駄だと思うよ」
「そんなことないさ、星乙女なんだから。アカリは」
「そうかなぁ~」
この不思議な異世界にきてから、王子との何気ない会話が。
私にとって、すごく大切な時間。
このまま。
ずっとこんな風に二人でいれたらいいのに……。
「そういえば、ずいぶん幸せそうな顔で寝てたけど、どんな夢をみてたの?」
「んー……」
夢?
あれは夢だったのかな?
「王子にそっくりな人が出てきたよ」
「僕にそっくり?」
「うん、すごく似てるの」
その人とは、子供の頃に花畑みたいなところで出会って。
ずっと友達みたいな感じだったんだけど。
「あのね。私その人と。世界を救うみたいなことになってね」
「なんだ、今の僕たちとそっくりだね」
「うん、そうなの!」
ただ。
夢の中では、王子様にそっくりな人だけじゃなくてね。
お姫様や、お嬢様。
別の王子様や、可愛い妹たち。
優しい家族もいて。
みんなで世界を守ろうって頑張ってた。
なんだか……。
大変だったけど楽しかったな。
「それに……王子と婚約式なんてしちゃってたし……」
「……え?」
うそ。
おもわず、口に出しちゃった?
さっき見てた夢の影響かな。
ちょっとこれ、恥ずかしすぎる。
頬がすごく熱い……多分耳まで真っ赤だ。
寝よう。
そのまま寝てしまおう。
今のは、寝言だったってことで。
そっと目を閉じると。
突然、隣で寝転がっていた王子が、私の事を抱きしめてきた。
「好きだよ……アカリ……」
え?
なにこれ、ウソ。
今……好きって……言ったよね?
「王子……?」
「なんだ気づいてなかったんだ。好きだよ、アカリ……」
王子は体をおこすと、優しい笑顔を浮かべていた。
「黒い髪も、大きな瞳も。可愛い笑顔も……アカリのすべてが大好きなんだ」
突然の告白に、涙が頬を伝っているのがわかる。
だって。
「ありがとう……私も大好きです……」
女神さまにこの世界に召喚されてからずっと。
ずっと。
ずっと。
王子といる時間だけが……私にとって宝物だったの。
「一緒に守ろう。僕たちのこの美しい世界と星空を」
「……うん!」
あなたが望むなら。
私はこの世界を……守って見せるから!
**********
……気がつくと。
真っ白な空間にいた。
ふわふわとした不思議な感触で床に寝そべっている。
――わかってる。
今の幻をみせたのは……多分かみたちゃんだ。
「なにか思い出しましたか?」
突然、金色に光る少女が目の前に現れた。
ショートボブの黒髪に、ぱっちりとした大きな瞳。
可愛らしい仕草で、私の顔を覗きこんでくる。
うん。わかる……わかるよ
だって、その姿は……。
「昔の……私だよね?」
彼女は、目を細めて嬉しそうにほほ笑むと。
両手を私に伸ばしてきた。
「正解ですー」
なんで今までわからなかったんだろう。
忘れてたっていうよりも……。
――閉じられてた記憶の扉が、いっきに開いた感覚にちかくて。
「かみたちゃんは……私だったんだね……」
彼女は、一瞬考える仕草をしたあと。
不思議そうな顔をして見つめてきた。
「ブブーっ! それは外れです。正確にいうと『元』ですよ?」
あれ?
それって、どういうことなんだろう?
「まだ全部は思い出してないみたいですねー。まぁ、それで十分ですよ~」
「え? どういう意味なの?」
目の前の景色が、ぐにゃぐにゃとゆがんでいく。
「まって、かみたちゃん。まだ話したいことが……」
「由衣が待ってるから、早く行ってあげて」
寂しそうに微笑むかみたちゃんが見えた。
ああ、間違いない。
……それ……私の声だ。
ゆがむ景色の中で、私は意識が遠くなっていった。




