26.お嬢様と転生者のチート能力
紫色の長い髪を妖艶なポーズでかきあげて。
赤い魅力的な瞳で私を見つめてくる。
頭には羊みたいな角、背中には大きな翼。
ゲートから現れた、サキさんは。
魔性の女って言葉は……この人の為にあるんじゃないかって思うくらい。
同性の私でもドキっとするような、キレイな人。
「久しぶりね、星乙女ちゃん……。あれ? そういえば、星乙女って二人いるのよね?」
サキさんは、唇に人差し指を当てて、少し考えるポーズをしたあと。
私を指さして、可愛らしく微笑んだ。
「そうそう、クレナちゃん。クレナちゃんよね? 会いたかったわ」
近づいてくるサキさんから庇うように、シュトレ王子が私の目の前で両手を広げた。
「オレの婚約者に何をするつもりだ!」
「あら、男の嫉妬かしら? 攻略対象のクセにカッコ悪いわねぇ」
「なっ……」
顔を赤くして、絶句する王子。
そのすぐ横を大きな氷の塊が通過した。
サキさんが手を前に差し出すと、氷の魔法は直前で砕け散る。
「残念、そっちはおとりよ!」
ジェラちゃんが叫ぶと、サキさんの頭上に巨大な氷の塊が出現した。
「こっちも準備完了! 痛い目にあってもらうよ!」
ガトーくんの雷の魔法が、サキさんを包み込むように周囲を取り囲む。
次の瞬間。
雷と氷が、一斉に襲い掛かった。
「いきなり大歓迎ね。もう、だから本当は来るの嫌だったのよ」
サキさんが指をパチンと鳴らすと。
魔法が大きな音たてて砕け散った。
「影は消えちゃえ! ブレスー!」
「しかたねぇなー」
今度は、キナコとだいふくもちの炎ブレスが襲い掛かる。
「ちょっと、こんなところで炎ブレスなんて。火事になるよわ!」
炎は彼女の直前で、吸収されるように消えていく。
よく見ると、ブレスの熱で周囲の家具が燃え始めている。
「キナコ、だいふくもち。ストップ!」
ダメだ。
二人とも興奮してて、聞こえてない。
……こうなったら。
「お願い。時間、止まって!」
**********
急に。応接室が無音になった。
いきなりだったので、耳が少し痛い。
時間……止まったかな?
「うふふ。ホント、主人公側のメンバーは容赦ないわねぇ。とりあえず火を消しておくわよ」
サキさんはちょっと楽しそうに微笑むと、近くの炎を魔法で消していく。
私も、無言のまま。
家具やカーテンに燃えうつった火を消していった。
時間が止まった空間ってすごく不思議で。
止めた瞬間の炎は動かなくて、熱さも感じない。
でも、例えば。
私がここで炎の魔法をつかったら、周囲の物は燃え始める。
止めた時間をうごかしたら、いきなり消し炭になってるみたいな感じ。
これって、どういう理屈なんだろう?
「ねぇ、クレナちゃん。今回は私たち以外誰も動いてないけど。止める相手って指定できるのかしら?」
気が付くと。
サキさんは私の目の前に立っていて。
嬉しそうに瞳を輝かせて見つめてくる。
「……話すことはなにもありません」
「もしかして、怒ってる?」
だって。
サキさんの言葉を信じたから……リリーちゃんが。
ううん、それは私のせいだけど。
だけど……。
「……だましたんですね?」
「あー。やっぱりそう思ってたのね。それが心配だったのよ」
「……え?」
サキさんは、少し困った顔をしたあと。
優しく抱きしめてきた。
「言ったじゃない。私はアナタの敵にはならないわ。信じて欲しいんだけどなぁ……」
彼女の腕の中で、温かいぬくもりに包まれる。
サキさんの甘い匂いと心臓の音を感じた。
なんだろう、この気持ちが落ち着いてくる感じ……。
って……いけない。
私は思いきり腕に力をいれて、サキさんを押し返した。
「信じるって……私たちを罠にはめたのに?」
「言い訳くらい言わせてね。いくら弱点を教えたからって、王国は二つの大国に挟まれてた上に倍以上の戦力差があったのよ?」
サキさんは少し怒ったような表情で、私を指さした。
「まさか、本陣まで攻めてくるなんて思わなかったわ。あのままだと皇帝陛下まで危なかったのよ」
「だって。サキさんたちは、リリーちゃんをさらったじゃない!」
私の言葉を聞いたサキさんは、大きなため息をついた。
「あー。それはね、アリアの命令なのよ。ほんとに困った子よねぇ」
アリア……由衣がリリーちゃんを連れ去ったの?
なんで?
私の動揺に反応するように、ゆっくりと音が戻ってきて。
止まっていた時間が……動き出した。
**********
「無傷? じゃあもう一回!」
「まかせろ!」
「やめなさい!」
再びブレスを吐こうとしていた二人の頭を、コツンとたたく。
キナコって、すごく頭のいい子なんだけど。
影の話になると冷静じゃなくなるよね。
「いたっ! ご主人様、何するんですか!」
「それ、いたいのだ……いたいじゃないか!」
二人は頭を押さえながら涙目で抗議してきた。
「あはは、アナタ達本当に面白いわね。でも今回はいい子にしててね」
サキさんが指をパチンと鳴らすと。
魔力が少しだけ吸い取られたような感覚がした。
周りを見たら。
キナコも、だいふくもちも。
ううん。
ジェラちゃんも、ガトーくんも、ナナミちゃんも。
駆け寄ってこようとしていたシュトレ王子も。
みんなその場で固まっている。
「な、なによこれ、動けないじゃない……」
「これはちょっと、まいったな……」
「お姉ちゃん、気を付けて!」
「クレナ……逃げろ……早く!」
「ご主人様逃げて!」
「は、早くにげるのだ!」
サキさんは、両手を広げると。
部屋にいる私たちを見渡して、大きなため息をついた。
「ねぇ。アナタたちは、私の能力もクレナちゃんの能力もわかってるのよね?」
「……何が言いたい!」
シュトレ王子が苦痛の表情を浮かべながら。
私の横に並んで、光の剣を構えた。
「あら、これで動けるなんて。さすが攻略対象ね。……これって、星乙女の愛の力なのかしら?」
彼女は、クスっと笑うと言葉を続けた。
「だったらわかるでしょ。私が本気でゲートを使って国王や宰相なんかを誘拐したら、それで戦争終わりよ?」
「王宮には何重にも結界が張られている! ゲートなんて魔法使えるわけがないだろ!」
「それは……この砦も、なんでしょ?」
王子の顔色が変わる。
このルーランド砦は東の守りの要。
当然だけど、結界は厳重にかけられていたはず。
「まぁ。同じようにね。私たちもクレナちゃんに時間を止められたら、対抗手段なんてほとんどないんだけど」
サキさんは、妖艶という言葉がぴったりの表情で。
片方の手を口元に当てて、美しく微笑んだ。
「わかるかしら? こんな戦い、転生者のチート能力でなんとでもなるのよ」
彼女は、再び応接室の空間を歪める。
ゲートの魔法だ。
「信じてもらえたかしら。私は星乙女……クレナちゃんに敵対するつもりは全くないわ」
「だったら……リリーちゃんを返してよ!」
私の訴えに。
サキさんはきょとんとした表情をしたあと。
大きな声で笑い出した。
「いやねぇ。もちろん、そのつもりで来たのよー」
え。
みんなの動きが固まる。
ううん、もともと固まってたんだけど。
「アリアちゃん、私の言うこときかないのよ。申し訳ないんだけど、自分で説得してもらってもいい?」
サキさんは、嬉しそうな笑顔でゲートを指さした。
ここに入れってこと?
「罠だ!」
シュトレ王子が腕を伸ばして私の手をつかむ。
罠かもしれなけど。
でも……。
「……ごめんなさい。シュトレ様。私行きます!」
「……わかった。それじゃあ、オレも行くよ」
「シュトレ様……」
青く澄んだ瞳に私の姿が写り込んでいる。
つないだ手から、彼の優しさが伝わてってくる気がした。
「はぁ? 何二人の世界を作ってるよ。私もいくわよ!」
「僕も行くよ。兄上だけじゃ心配だからね」
「お姉ちゃん、私もいくよ!」
「はぁ、いいわね、主人公側の友情。私もこっちに入りたかったわぁ」
サキさんが再び指を鳴らすと。
これまで押さえつけられていたような感覚がなくなって。
自由に動けるようになった。
「さぁどうぞ。アリアちゃんのいるところにつながってるわよ」
罠かもしれない。
でも。
私はゆっくり顔を上げると、シュトレ王子と視線を交わす。
お互いの目が、まるで言葉を話したように意思を伝えあって。
二人でゆっくりと頷いた。
行こう。
私たちは、ぎゅっと手を繋いだまま。
空間のゆがんだゲートの中に入っていった。




