24.帝都と闇にうごめくもの
<<ある帝都の男性目線>>
「ねぇ、美味しい話があるのよ。のってみない?」
いつもの通いなれた酒場で、金髪の女性が話しかけてきた。
彼女が話すたびに、ふっくらと膨らんだ可愛らしい唇が動いて。
……すごく魅力的だ。
「いいね、どんな仕事?」
「興味ある? うふふ。大金が稼げてしかもすごく楽そうなのよ」
テーブルを挟んで座っていた彼女は、ゆっくり立ち上がると。
オレの隣に座ってきた。
大きな胸としなやかな細い体。
男なら誰でも、彼女にほれるんじゃないだろうか。
「どうせまた、ヤバいやつだろう……」
オレは、動揺を悟られないように、なるべく冷静に話しかける。
「またってなによ! 私は貴方の為に……!」
オレは数年前まで、この帝国の騎士だった。
騎士団の仕事は、まぁ。
街の警備や。
先輩の雑用。
付近のモンスター退治なんかで。
そんなに刺激的でもないが、退屈もしない程度のいい仕事だったんだが。
……ある仕事でちょっとへまをしちまった。
帝都の近くに出没する盗賊の情報を得たオレたちは。
森の外れにある街道で彼らを待ち伏せして、馬車に襲い掛かった奴らを一網打尽にした。
と。まぁ、ここまでは順調だったんだが。
襲われた馬車に乗っていた女性ってのが問題だった。
見事な金色の髪に澄んだ青い瞳、整った顔立ち。
まるで美術品のような美貌に、隊長が我を忘れやちまいやがった。
で、彼女を守るために、隊長を殴り飛ばして……。
めでたくクビってやつだ。
一応、オレは自分の潔白を説明したさ。
だけどな、貴族出身の隊長が金を配ったらしく。
いつのまにか。
オレが女性を襲おうとしたあげく、止めにはいった隊長を殴ったことになっていた。
いやぁ、さすが偉大なるアイゼンラット帝国が誇る騎士団だぜ。
……ホントにこの国は貧しくて……腐ってやがる。
「ちょっと何かんがえてたのよ?」
「なぁに、昔の思い出さ……」
「私と出会った時の思い出だったり?」
にやっと笑う彼女の笑顔から目を逸らす。
図星だ。
こいつはたまに鋭い時がある。
「さぁ、働かざるもの食うべからずよ! 早く部屋に行きましょう?」
肩を寄せて上目づいかいで見つめる瞳に、胸の鼓動が早くなるのを感じた。
そうだな。
こいつと生きていく為なら……どんなことでもしてやるさ。
**********
彼女の美味しい話ってのはすごく簡単で。
この近くのさびれた教会に。
最近、身なりの綺麗な少女が一人でお祈りにくるらしい。
恰好からして多分貴族の娘だそうだ。
その世間知らずなお嬢ちゃんを誘拐して、恵まれた貴族様から少しお金を恵んでもらおう。
まぁ、そんな感じだ。
「いっとくけど、その子に乱暴なことをしたらダメよ。あくまでもビジネスだからね」
「ああ、わかってるよ」
オレたちはこれまでに、何度も同じような手口を繰り返してる。
誘拐といっても。
オレか彼女が子供と遊んでいる間に、貴族を脅して金をとるって感じなんだが。
いつだったかは、懐かれて大変だった。
この時代、貴族の子供ってのも楽ではないんだろうな。
「しーっ! きたわよ」
人の気配に気づいたオレたちは、長椅子の裏側に隠れてコッソリと周囲の様子をうかがう。
教会の扉を開けて入ってきたのは。
銀色の髪に、青い瞳。
まだ子供の雰囲気を残した、可愛らしい顔立ちの女の子。
赤いレースのかかったドレスは、確かに高そうだ。
ありゃ、相当金持ちの令嬢だろうな。
護衛を付けずにここまでくるのは、不用心な話だ。
あの少女……。
どこかで見たことがあるような……まぁ、気のせいだろ。
「おい! おとなしくこっちにきな!」
オレは剣を抜くと、彼女の首元に突き付けた。
「ちょっと、やめなさいよ。ねぇ、お姉さんたちとしばらく遊ばない? 怖くないからさぁ」
銀髪の少女は、うつむいたまま微動だにしない。
少し怖がらせちまったか?
「ごめんねー。この人少し野蛮で。ちょっとだけ遊んでくれたらすぐに帰れるから」
「悪かったな。ほら、もう剣はしまったぞ」
「ねぇ、お兄さんとお姉さん。もしかして私を誘拐するつもりなの?」
おう!
鋭いなこの子。
「そうねぇ、貴方も街を自由に探索してみたくない? お姉ちゃんが案内してあげるから」
「お姉ちゃん……?」
顔を上げた少女は。
どこもみていないような空虚な瞳だった。
なんだこの雰囲気は……。
まるで凶悪なモンスターが目の前にいるかのように。
体中が警戒信号を放ってやがる。
まずい。
まずい、まずいまずい。
こいつは……危険だ。
「おい、逃げるぞ!」
「ちょっと、なんでよ?!」
彼女の手をつかんで、慌てて教会の入り口まで走ると。
突然目の前の扉が、大きな音を立てて閉まった。
「ちょうど良かったわ。実験材料が欲しかったのよ」
じわじわとドレス姿の少女が近づいてくる。
「畜生! なんで扉があかないんだ!」
よく見ると、扉は黒い影のようなものに覆われている。
なんだ……これは。
「大丈夫、殺したりはしないわ。……大事な実験ですもの」
影は、首に下がっている不思議な形をしたネックレスから周囲にじみ出ている。
「さぁ、いきなさい!」
少女の言葉に反応するように、黒い影が、大切な金髪の彼女を包んでいく。
「ちょっと、なによこれ」
「おい! 何をするんだ! やめろ! やめてくれ!」
慌てて彼女に駆け寄ろうとしたその時。
両肩を羽の生えた女性二人にに抑えられた。
なんだこいつらは。
一体……なにがおきてるんだ!?
「うふふ、見てなさい。もうすぐわかるわ」
やがて。
影が消えると、金髪の彼女が瞳をゆっくりと開いた。
良かった無事だったのか。
安心した次の瞬間。
信じられない言葉を口にした。
「おねえちゃん、だあれ?」
まるで子供のような言葉遣い。
「あはは。ねぇ、貴方は誰とここに来たの?」
「えーと、えーと。……わかんない!」
な、なんだ。
なにがおきたんだ。
「あの影はね、彼女の記憶を……食べたのよ」
食べた?
記憶を?
「ふ、ふざけるな! 早く彼女をもとに戻せ!」
「あら、皇女の私を誘拐しようとしたのよ? 命があるだけでも感謝してよね?」
皇女……皇女だと?
昔宮廷に行ったときに見かけた、幼い銀初髪の女の子を思い出す。
だいぶ成長しているが……たしかに……彼女だ。
「いや、ホントにすまん。……すみませんでした! 皇女様だとは知らなかったんです。どうか見逃してください」
なんとか、彼女だけでも助けなければ。
「この計画を立てたのは私なのです。罪は私に! どうか彼女の記憶を戻して開放してください」
左右を羽の生えた女性に抑えられたまま、必死に頭を下げる。
「いやよ、言ったでしょ、実験って。それに、記憶を『食べた』のよ? 元に戻るわけないじゃない」
うそだろ。
なんでこんなことに……。
「怖いの? 安心して。すぐに楽にしてあげるわ」
オレの周りに黒い影がまとわりつく。
「やめてくれ! 彼女は悪くないんだ! せめて……」
……。
…………。
せめて、なんだろう?
なにか考えてたんだけど、忘れちゃった。
うわぁ、それより。
目の前にいる銀髪のお姉ちゃん。すごくキレイ。
なんて楽しそうに笑うんだろう。
「ねぇ、貴方、名前は?」
名前……えーと。
「ボクの名前はカルだよ、おねえちゃん」
「そう」
お姉ちゃんは、女神のように優しく微笑むと、ボクの頭を優しくなでてくれた。
「いくわよ、カル! まぁ、番犬くらいにはなるでしょ」
わーい!
お姉ちゃんと一緒にいられるんだ。
嬉しいな。
ボクは、胸躍る気持ちで、お姉ちゃんについていった。




