23.パン屋の娘と街の安全
<<イザベラ目線>>
「………緊急の連絡です! 帝国軍が国境を越えルーランド砦に向け進軍しています!」
街の各地に設置されている拡声器から、大きな声が鳴り響く。
なによ、この忙しい時に!
私は焼きあがったパンを抱えたまま、窓の外をのぞくと。
いつもの見慣れた景色が大騒ぎになっていた。
「街を守る義勇軍に加わりたい方は、明日広場へお越しください! 避難される方は王都へ飛空船を準備しています!」
街に響き渡る避難放送を聞いて。
慌てふためく男の人。
泣き叫ぶ子供。
力が抜けたように座り込む女性。
ここ『クレナの街』は、国境と王都の中間くらいの位置にある。
もしルーランド砦が落ちれば……途中で足止めできる砦なんて数えるほどしかない。
ふーん。
そうきたんですのね。
私はカゴのパンを一口放り込んだ。
甘い味が口に広がっていく。
私の家、アランデール家に接触してきた時から、なにか企んでるとは思ってたけど。
あの時のように背後から操るんじゃなくて、自分達から攻めてくるなんて。
なに変化があったのか。
それとも……。
「こら、イザベラ! 営業時間中だぞ。それに勝手に商品を食べたらダメだ!」
コック帽をかぶったお父様が、厨房から出てきて、私の頭をこつんと叩いた。
「ゴメンナサイ。それより、放送聞きました?」
「ああ。この街も、王国も。大変なことになりそうだな」
目を細めて、街の様子をじっと眺めている。
もし、まだお父様が公爵で、領軍を率いる立場だったら。
私も一緒に戦場に向かったのかしら。
でも今は、パン屋の店長と、その娘だから。
帝国が攻めてきても、やれることはなにもない。
「イザベラ、明日一番にここを発ち王都に向かいなさい。なぁに、パン屋のことは心配しなくてもなんとかなるさ!」
お父様は、背を大きく伸ばすと、胸をどんと叩いた。
大きく膨らんだおなかが、ぽよよんと動く。
なんだか……クマのヌイグルミみたい。
実の父親なんだけど、少しカワイイ。
「わかりましたわ、お父様。明日一番で発ちますので。お父様もあとで必ず避難してくださいね」
「ああ、そのつもりだ」
明日は少し早く起きて準備しないと。
うふふ。楽しみですわ。
――次の日。
私は、魔星鎧を着て、街の広場に向かっていた。
いても冒険者が数人くらいかと思ったのに。
広場には、街中のひとが集まったんじゃないかって思うくらい。
たくさんの人が集まっていた。
冒険者に混じって、杖の代わりに剣を携えた老人や、かっぷくのいいおじさん。
魔法の杖を嬉しそうに振る小さな子供まで。
……あれ?
ここ本当に義勇軍の集合場所よね?
「おお、コロネじゃねーか! お前も防衛に志願するのかよ!」
「コロネのお姉ちゃん、おはようござます!」
振り向くと、ウチのパン屋によく来るジョセフ君とマリーちゃんが立っていた。
二人とも、小さな体に子供用の鎧を着ている。
手には小さな魔法の杖を持っている。
ちょっと。まさか、戦う気じゃないわよね?
「アナタたち……。ここは街を守る義勇軍の集合場所よ。王都行きの飛空船は向こう!」
街の西にある飛行場を指さすと、二人は首を大きく横に振った。
「あんなの、誰も乗らねーよ! オレたちの街はオレたちが守るんだ!」
ジョセフの言葉に、周囲にいた人たちから大きな歓声があがる。
「そうだそうだ!」
「クレナ様の名前がついた街を逃げ出すなんて、オレには出来きねぇ!」
「ここを守らなきゃ、クレナ様に申し訳がたたないだろ!」
いつのまにか広場中が熱気に包まれていく。
……クレナちゃん……アンタ、いてもいなくても。
こんなに領民に愛されてるのね。
私は、ジョセフとマリーちゃんの頭を優しくなでると。
大きな声で宣言した。
「わかったわよ。こうなったら私たちでこの街を守りましょう!」
「よくいったぞ、パン屋のねーちゃん!」
「いいぞー!」
ん?
よく見たら、かっぷくのいい中年男性が、魔星鎧を着て広場に参加している。
あれ……お父様よね?!
私の視線に気づくと、慌てて人ごみの中に隠れていった。
もう。最初から……そのつもりだったのね。
さすが親子。
考えることは一緒ですわ。
「義勇軍に参加の皆様ありがとうご……ええ?! これ全員ですか?」
街の警備兵が、私たちをみて驚きの声をあげた。
広場にどっと笑い声が響き渡る。
私たちが、この街をささえてあげるから。
クレナちゃん……アンタは無事でいなさいよね!




