21.お嬢様と空のダンス
「各艦一斉射撃、撃てー!」
シュトレ王子の合図で、艦隊が一斉に帝国軍の飛空船にむけて魔法弾を打ち始めた。
たちまち、帝国軍の飛空船が数隻、炎に包まれていく。
「あともう少し間合いを詰めたら、騎士団を出すぞ!」
私は、シュトレ王子の言葉にうなずくと。
キナコに声をかける。
「私たちも……いくよ!」
「うん、ご主人様。了解ですよ!」
ぴょんと飛び跳ねると、私に近づいてくる。
彼女のツインテールがウサギの耳のように揺れた。
可愛らしい仕草に、ブリッジがすこし和んだ気がした。
「クレナ、気を付けて。絶対無理はしないこと!」
「ええ、シュトレ様も」
窓から朝日が差し込んできて。
王子の金色の髪と、やわらかな笑顔を照らし出す。
その笑顔が。
言葉が。
声が。
――私を強くするから。
「行ってきます!」
彼に大きく手を振って、私は飛空船の甲板に向かった。
**********
「あら、遅かったじゃない?」
甲板には、すでに出撃準備を整えた騎士団が整列していて。
彼らの前には。
美しい真っ白なドラゴンと、その上に魔星鎧を着たジェラちゃんがいた。
「ジェ、ジェラちゃん?!」
彼女は、頬を真っ赤にして私の目を見つめると。
ふいっと横を向いた。
「ち、ちがうわよ。アンタの隣で戦いたかったわけじゃなくて、だいふくもちがどうしてもって」
「いや、そんなこといってねーぞ……イテッ!」
乗っていた背中を大きく蹴飛ばしす。
「てめぇー、ひとのこと蹴飛ばしやがったな?」
「うるさいわね、おとなしく私を乗せて戦えばいいのよ!」
ジェラちゃんは耳まで真っ赤だ。
なんだか、目にも涙が溜まっていて。今にも泣きそうな表情にみえる。
「ねぇ、ジェラちゃん」
「な、なによ?」
「西の砦の戦いで、ジェラちゃんケガしてるし、ここは私に任せて!」
「アンタの回復魔法のおかげで……なんともないわよ」
そうかなぁ。
その割には、顔真っ赤だし。
ケガのせいで熱が出たのかもしれない。
「ああ! もう。何で気づかないのよ!」
「ジェラちゃん、どうしたの?!」
彼女は、だいふくもちから降りると。
うつむいた状態でずんずんと向かってくる。
もしかして、なにか怒らせた?
「あの……ジェラちゃん……?」
私が戸惑っていると。
いきなり両手を伸ばして、ぎゅっと抱きついてきた。
「……一緒にいたかったのよ……バカ……」
……。
…………。
ええええ!
そうだ。
そうだったよね。
ジェラちゃんは私の事を……。
「あのね、ジェラちゃん。この間も話したけど、私にはシュトレ王子が……」
「いいのよ、それでも。想うだけ自由でしょ?」
恥ずかしそうに真っ赤な顔を上げて、潤んだ瞳で見つめてくる。
想うだけっていうか。
思いっきり本人に言ってるんですけど。
「大体私が、ゲームのキャラになんて負けるわけないじゃない」
彼女は不意に視線を外すと、小さな声でぼそっとつぶやいた。
聞こえてる。
聞こえてるからね!
ふと視線を感じて周りをみると。
整列した騎士団の皆様がかたまっていた。
**********
「騎士団前へ!」
甲板の拡声器から、ラッパのような楽器とシュトレ王子の声が響いて。
少しだけ平和な空気だった甲板に緊張が走る。
「目標、目の前の帝国艦隊! 出撃!」
王子の合図で。
騎士たちは一斉に空に飛び出していく。
「いくわよ! クレナ!」
「うん! 頑張ろう、ジェラちゃん!」
ジェラちゃんは、大きな白い聖竜だいふくもちに。
私は、大きな赤いドラゴン、竜王キナコにのって
砲弾が飛び交う大空に飛び出していく。
「な、なんだあれは?」
「竜騎士……いや……ちがうな……」
「巨大な赤と白のドラゴン……星乙女か!」
私たちをみた帝国兵が動揺しているのがわかった。
それはそうだよね。
戦場でいきなり大きなドラゴンが出てきたら。
「やっぱり動揺してるわね。このままいくわよ!」
ジェラちゃんは一気に帝国の飛空船に近づくと、魔法を放っていく。
彼女の近くに浮かんでいた数隻の飛空船が、炎を上げながらゆっくり落下していった。
「安心して。船の魔法石を壊しただけだから。燃えてるのもその周囲だけよ」
不敵にほほ笑むジェラちゃん。
やっぱり。
彼女は……すごい。
「キナコ、私たちも頑張ろう!」
「ご主人様、いきますよー!」
私たちは、砲弾の間をくぐりぬけて相手に近づくと。
私は召喚した火の鳥の魔法。
キナコはブレスを使って。
どんどん帝国の飛空船を落としていく。
その周囲では、王国の騎士団が帝国を圧倒しはじめていた。
一対一でなら。
魔道具の発展している王国の魔星鎧は、どの国のものよりも強いから。
今の動揺した帝国兵に負けるわけがないよね!
「くそ。ワイバーンだ。ワイバーンを出せ!」
戦場に大きな声が響くと。
帝国の飛空船の影側から、多数のワイバーンが出現した。
……そうなんだよね。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』の戦闘パートでも出てきたけど。
王国の魔道具技術の代わりに。
帝国には、魔物を操って使役する技術がある。
次の瞬間。
ワイバーンの群れに、多数の魔法弾が命中した。
飛空船からの……ううん。
シュトレ王子からの援護射撃だ。
まるで動きが分かっているように。
私たちの間を砲弾が抜けてワイバーンに当たっている。
まるで。
まるで。
子供の頃に初めて晩餐会でダンスを踊った時のように。
息がぴったりと合ってる。
シュトレ王子が次にどこを狙っているかわかる。
きっと王子も、私がどこを攻撃するのかわかってる。
頭の中に、あの時の音楽隊のメロディーが流れてきた。
リズムにのって、軽やかに。
私は踊るように魔法を打ち続ける。
――気がつくと。
ワイバーンは全滅していて。
帝国の飛空船は、撤退していた。




