17.お姫様と帝国の優雅なひととき
<<いもうと目線>>
「姫様、報告しますー!」
部屋をろくにノックもせずに、赤髪の少女が入ってくる。
ショートヘアの髪。
やや吊り上がった目。
背中にはコウモリのような羽が生えている。
「いやぁ、ホントつかれたんですけど! ねぇ、何か飲み物ある?」
「ちょっと、アンタ伝令でしょ! 早く状況報告しなさいよ!」
少女は軽く舌打ちをすると、映像クリスタルを空中に浮かべた。
映像には、各地で負け続けている帝国軍が映っている。
「いやぁ、マジやばいね。負け続けてるから、帝国軍!」
「アンタさ、仮にも皇女なんだけど私……」
彼女は、にーっと笑顔を浮かべると。
私の肩をぽんぽんと叩く。
「いいじゃん、同じ転生仲間なんだからさー」
「もう、カレンちゃん。ほどほどにしなさいよ」
横にいた魔人のサキが、私とカレンを引き離した。
「今度やったらクビねクビ。何度言っても治らないんだから……」
「いやだなぁ、アリア様。冗談ですってば」
カレンは、サキが拾ってきた魔人なんだけど。
とにかく人懐っこくて明るい子。
一応、私の密偵の一人だ。
「ねぇ、カレン。ルーランド砦の様子はどう?」
ルーランド砦は、ファルシア王国の東の砦。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』でも、帝国軍と戦う舞台になっている。
「帝国軍は近づくこともできてないから、すっごい平和。あそこホントに戦場かっていうくらいー」
彼女は笑いをこらえて震えだす。
え? 今の笑うとこなの?
この子……よくわからない。
「まぁ、あれよ。誰かの情報のおかげで、帝国はボロ負け。これって、計画通りなんでしょ?」
「まぁね……」
私は、クリスタルが映し出す映像を眺めていた。
ホントに。
見事なくらい負けてるわね。
計画より……若干負け過ぎだわ。
特に、赤い魔星鎧と水色の魔星鎧を着た騎士が強すぎるわね。
確か伝説の冒険者だったかしら?
「で、どうするのよ? 前線にいる皇帝陛下からは、魔人軍団をはやくよこせって、矢のような催促よ?」
サキが、持っていた魔法の封書を広げると。
お父様の緊迫した声が部屋に響き渡った。
『私の愛する娘アリア。王国軍は何故か我々の動きを熟知しているようなのだ。おそらくネズミが紛れ込んでいるようだ……』
……ネズミねぇ。
私は、サキをちらっと見つめる。
「なによ、こんなに可愛いネズミがいるとでも?」
彼女は髪をかき上げると、妖艶な瞳でウィンクした。
ホントに、サキって美人よね。
無駄美人……。
「ちょっとなによ。私のこと哀れんだ目で見るのやめてくれない?」
「無駄美人……」
声にだしてしまったカレンは、頭を思い切りはたかれた。
部屋の中では、お父様の切迫した声が続いてる。
『今すぐ、後詰めの魔人部隊をつれてきてくれないか。このままでは、ここも危ない……』
「え? なに? 逆に攻められてるの?」
「あー、そんな感じだったね。本陣の近くでドカーンと魔法がさく裂するのを見た気がするわ」
うわぁ。
サキの流した情報だけで、倍以上いる敵に攻め込むとか。
どんだけ強いのよ、主人公の国。
「で、どうするの? 援軍にいってあげるの?」
「……まだよ。まだ、西のフェルニット砦の様子はわからないの?」
「んー、さすがに遠すぎるから、情報は時間がかかりそうよ?」
サキの言葉に、両手をぎゅっと握りしめる。
お父様は、この世界でわたしを大切に育ててくれたけど。
でも。それでも……。
お姉ちゃんと一緒にいたい。
一緒に笑っていたい。
すっとお姉ちゃんと一緒に……。
私の願いは、それだけなのに!
「魔人軍団は、フェルニット砦の戦いの結果がわかるまで待機よ。計画に変更はないわ!」
「……ホントにいいのね?」
サキが、心配そうな顔で見つめてくる。
「いいのよ! そのためにここまで頑張ってきたんだから!!」
……若干計画がずれてるけど、問題ないわ。
西に行ったお姉ちゃんも、あと数カ月でセーレスト神聖法国に勝つはずだわ。
ゲームのように。
星乙女と攻略者の愛の力で。
相手はきっと、婚約したシュトレ王子よね。
でも。
それでも。
最後にお姉ちゃんを手に入れるのは私なんだから!
「まぁ、あれよね。アリアが決めたならみんな従うわ。それじゃあお茶にでもしましょうか」
サキは、ぱんと手を叩くと。
部屋の奥でお茶の準備を始めた。
「ちょっと、サキ。そんな場合じゃないでしょ! のんびりお茶だなんて」
「あら、待つだけでやることもないんだし、のんびりしましょうよ?」
「サキちゃんに賛成! アリアもお茶しようよぉー」
カレンが私の後ろにまわって抱きついてきた。
サキは、手慣れた動きで、カップに紅茶を注いでいく。
部屋に華やかな甘い香りがひろがっていった。
「はい、どうぞ」
差し出された紅茶を飲むと、優しい味に心が落ち着いていく。
「サキ……ありがと……」
「んー……」
サキは、人差し指を唇にあてて、考えるポーズをした後。
私に抱きついてきた。
「やっぱり可愛いわね、アリア! もう我慢できないわ!」
真っ赤な顔で頬をすりよせてくる。
この、残念美人め!
「あの、ラブラブなところわるいんだけどー。なんか仲間から伝言きたみたいよ?」
カレンが、申し訳なさそうに話しかけてくる。
彼女の手元には、魔法の小鳥が止まっていた。
伝言?
どこからよ?
彼女が、両手を差し出して小鳥を部屋の天井に放つと。
録音したメッセージをしゃべりだした。
『西のフェルニット砦攻防戦は、ファルシア王国の勝利。法国軍は壊滅状態』
続けて小鳥が次々と部屋に飛び込んできて。
思い思いにメッセージを読み上げていく。
『ファルシア王国が、法国を返り討ち。王国側ダメージほぼなし、法国軍は全滅』
『砦の王国軍は王都へ移動中。星乙女も同行』
『見慣れない白い竜の目撃情報あり』
『法王とその息子がとらえられて、ファルシア王国の王都へおくられた』
……え?
私たちは、部屋に鳴り響くメッセージに固まっていた。
終わったの?
こんなに早く?
そういえば、ファルシア王国には、星乙女が二人いたんだっけ。
主人公の力ってすごいわね。
――それにしても。
さすがに早すぎでしょ!




