16.お嬢様と王都への帰還
数日後。
私たちを乗せた船団は、ファルシア王国の王都『ファラン』に到着した。
すでに法国との戦闘の結果が人々にも伝わっていたみたいで。
飛空船を降りると、大歓声に包まれた。
「竜姫様ー!」
「シュトレ王子素敵ー!」
「竜王様、ありがとうー!」
ジェラちゃんが、頬を大きく膨らませて近づいてきた。
「なによ、私も頑張ったのにさぁ」
「うん、わかってるよ」
「じゃあ、これでどうよ!」
ジェラちゃんは、私の腕に手を絡めると、ぴったり横に寄り添ってきた。
すると、周囲から一斉に黄色い歓声が上がった。
「竜姫様と、ジェラ様よ!」
「お二人とも何と可愛らしい!」
「本当に天使みたい!」
得意げに胸をはるジェラちゃん。
「さぁ、このまま王宮まで行くわよ!」
えええ?
後ろを振り向くと、シュトレ王子が大きなため息をついていた。
「まぁ……今回はジェラの作戦のおかげだしね。ただし!」
彼は青い瞳でまっすぐ私を見つめてきた。
「……浮気はダメだからね?」
「あら、お兄様? 愛する二人が寄り添うのに浮気だなんて!」
なんだか。
すごく怖いんですけど!
二人の目から火花がとんでいる錯覚が見えるんですけど!
「相変わらず……平和ですねぇ」
後ろにいたキナコが私たちを見て、幸せそうに微笑んだ。
**********
王宮に到着してまもなく。
国王様から呼び出しを受けた。
私の部屋は王宮内にあるから、すぐ駆け付けられるんだけど。
今の私は……。
大きな鏡の前で、セーラ率いるメイド隊に囲まれている。
「ダメですよ、お嬢様。今日も世界一きれいになっていただかないと」
「そんな必要ないと思うんですけど!」
「あら。陛下の伝言は、『王族として正装で』とおっしゃられていましたよね?」
ぐっ。
思わず口をつぐむ。
言ってたけど。
言ってたけどさぁ。
それってホントに、こういう意味だったのかなぁ。
しばらくすると。
鏡の中に、絵本のお姫様が映っていた。
桃色の髪は、編み込んで後ろに可愛らしくまとめあって。
頭に小さなティアラが乗っている。
王族の証、白に金色を基調とした、レースいっぱいのふわふわドレス。
いつも思うんだけど……メイド隊おそるべし……。
ふと、窓から東の空をみる。
本当は、今すぐにでも東に向かって。
お父様やお母様、リリーちゃんと合流したいんだけど。
聞いた話だと。
今のところ、東のアイゼンラット帝国との戦いは、予想に反して王国軍が優勢で。
数で圧倒的に負けてるのに、すごく上手く防衛出来てるんだって。
……サキさんから聞いた、帝国軍の数や配置が本当で、すごく正確だったみたい。
『貴女の敵になるつもりはないわ』
彼女の言葉が頭に浮かぶ。
きっと理由があるんだと思うけど、でも。
ありがとう、サキさん。
**********
私が謁見の間に到着すると。
すでに、たくさんの人が整列していて。
私は、シュトレ王子の隣に案内された。
でもこの場所って。
玉座の隣だし、段の上なんだよね。
あらためて、私って王族扱いなんだぁ。
おもわず背筋をきちっとのばす。
「さて、はじめようか!」
玉座に座っていた国王様が片手をあげると、ゆっくりと立ち上がった。
私たちも、国王様に合わせて立ち上がる。
魔星鎧を着た騎士達に連行されてきたのは、セーレスト神聖法国の人達。
法王様と、リュート様。
それから軍服を着た五人の兵士。
胸に豪華な竜のバッジがついていて、たしか将軍だったはず。
小太りな中年男性……法王様は、王座を睨むつけると、大きな声で叫びだした。
「ははは。久しぶりだな、ファルシアの王よ!」
「……ひさしぶりだな、法王よ」
二人とも、にこやかに話してるけど。
目が……笑ってない。
「この度の我が国への侵略戦争、なにか言いたいことはあるか?」
「ああ。あるとも!」
法王様は、私をちらりと見ると、再び国王様をにらみつける。
「自国の為に、そこにいる星乙女を騙し、あまつさえ聖竜まで操らせるなど……貴様何様のつもりだ!」
「ちがう、私は騙されてなんて……」
おもわず声が出てしまった私を、国王様が優しい笑顔で制止する。
「貴様こそ。武力で、我が国の星乙女や星空を手に入れて。一体どうするつもりだったのだ」
国王様の言葉に。
リュート様がそれまでうつろな表情だった顔をあげた。
「我が国の……ですか。クレナ様、やはり貴女はその国の王族に騙されているのです。私と共に法国へ戻りましょう」
その笑顔は、どこまでも純粋な表情で。
乙女ゲームのスチル画面のように美しかった。
「リュート様、私は騙されなんていません。自分の意志で。自分で選んでここにいるのです」
「そんなはずはありません。可哀そうに……ご自身でも気づいていないのですね」
「竜姫様、是非我々と共に!」
「星空も星乙女も独占するつもりか! ファルシアの王よ!」
「星空も星乙女も、ダンジョンすら独占する王国には、他の国の苦しみなどわからんのだろう!」
「呪われろ、ファルシアの王!」
将軍たちも次々と、叫びだす。
「黙れ! 侵略者共が!」
国王様から、威厳ある喋り方が消えた。
謁見の間が静寂に包まれる。
「黙って聞いていれば。星空を独占する? 知るか! そんなに星空がピンチなら、支援を求めれば良かっただろうが!」
これ、たぶん。完全に素の国王様だ。
……すごく怒ってる?
「おまけに、ひとんとこの嫁を捕まえて、一緒に戻りましょうだと? 何考えてるんだ貴様ら!」
国王様が、不意に私に視線を向けた。
少しだけ表情をやわらげると、いたずらっぽい笑顔でにっと笑う。
「こういう不届きな奴らは……そうだな。沙汰が決まるまで、東の地に幽閉でもしておくか。もちろん労働もしてもらうぞ!」
あの国王様?
その東の地って、もしかして……ハルセルト領のことでしょうか?
もしかして。
もしかして。
……またですかぁ?
私が少しだけ睨むと。
大声で笑い始めた。
もう。
うちって、流刑地とかじゃないんですけど?!




