14.お嬢様と西の終焉
「クレナ様、私と一緒に法国へ!!」
「クレナ逃げて!」
飛空船の真上から落下するように接近してくる金色の飛竜。
あれは。
リュート様とアンネちゃん!?
ジェラちゃんが、私を庇うように上にかぶさる。
そんなのダメ!
慌ててジェラちゃんの腕から出ようとすると。
彼女の体が、するりと横に倒れていった。
慌てて支えた腕が、彼女の血で赤く染まっていく。
……え? うそ。
ジェラ……ちゃん?
「ま、待ってて、すぐに回復するから!」
「いいから……逃げなさい……はやく」
彼女の背中は、魔星鎧が飛ばされていて。
大きな傷が出来ていた。
あわてて回復魔法をかけようとした腕を、大きな手がつかむ。
「やっと捕まえました。クレナ様」
緑色の髪に整った顔立ち。
でもそれは、私の知っている優しい笑顔のリュート様ではなくて。
瞳がずっと一点に集中していて。
私しか……映していないような……そんな表情。
「離してください。今はジェラちゃんを!」
手を振り払おうと腕を大きく振りはらおうとしたけど。
甘い笑顔で、手を離そうとしない。
「クレナ……ずっと……ずっと会いたかった……」
なんなのこれ?
今はそれどろじゃないのに!
「離して! このままジェラちゃんが!」
「もう離さない……僕といつまでも一緒にいよう」
私の手を取って、甘い表情でまっすぐ見つめている。
それはまるで。
乙女ゲームの告白シーンのようなのに。
彼の瞳に。
表情に。
言葉に。
背筋が凍るような感覚がした。
――いけない。
今は早くジェラちゃんを助けないと!
「お願い!時間、止まって!」
震える声で叫ぶ。
次の瞬間。
戦場の喧騒が消えて。
世界が静寂に包まれた。
**********
「ご主人様、大丈夫ですか」
「いやぁ、あぶなかったぜ!」
声のする方をみると。
キナコとだいふくもちが、金色の飛竜アンネちゃんを取り押さえていた。
アンネちゃんの足は血で赤く染まっている。
……ジェラちゃんを襲ったのは……たぶんこの爪だ……。
ううん。考えるのはやめよう。
それより今は、ジェラちゃんを助けないと。
私は、ジェラちゃんに駆け寄ると。
回復魔法を使用した。
私とジェラちゃんの体が光に包まれて。
みるみる傷口が治っていく。
私……。
この世界の魔法で一番すごいのって。
回復魔法なんじゃないかなって思う。
ただ、回復魔法って肉体を回復させるだけだから。
精神とか魔法力とか。
内面的な場所はすぐには回復しない。
これだけひどい傷だと、ジェラちゃんはしばらく動けないかもしれない。
「ジェラちゃん……ありがとう……」
私は、彼女をぎゅっと抱きしめる。
すると。
突然、甘い吐息が顔にかかる。
え?
びっくりして固まった瞬間に。
唇に温かい感触を感じた。
「お、お礼は今もらったから平気よ!」
「ジェラちゃん?! ……大丈夫なの?」
「んー……」
彼女は真っ赤な顔をして立ち上がると。
少し考えるようなしぐさをして微笑んだ。
「そ、そうね。唇と、頬が少し熱いくらい? それより……」
「それより?」
すこしイタズラっぽい表情をして、私に顔を近づけてくる。
「ねぇ、今泣いてたわよね?」
「え?」
ジェラちゃんに指摘されて頬を触ると。
指が涙を感じた。
いつの間にか泣いてたみたい。
「そっかそっか。それじゃあ、私もまだ脈があるかもしれないわね」
「ちょっとジェラちゃん? 親友になにかあったら、普通泣くと思うんだけど?!」
「親友でもなんでもいいのよ。アンタが私を想ってくれるなら……」
うつむくいたジェラちゃんは。
真っ赤な顔をして、ボソッとつぶやいた。
「そ、それにしてもすごいわね、アンタの魔法。時間は止めるわ、ケガ人がすぐに動けるわ、さすがチート持ちだわ」
そういえば。
あれだけの怪我ですぐに動けるなんて。
普通だったら、絶対むりなんだけど。
……これも、星乙女の力なのかな?
「まぁ、ご主人様ですからねぇ」
いつの間にか人化したキナコとだいふくもちが、すっと間に入ってきた。
「さぁ、時間が止まってる間に、最後の仕上げをしましょうか」
「うし! そこの緑のやつと金色に飛竜を縛ればいいんだろ?」
「いいから、まずアンタたちは、船にもどって服を着てきなさいよ!」
「「えー?」」
ジェラちゃんの言葉に、
二人が、不満そうに頬をふくらます。
その可愛らしい表情に。
少しだけ。
すこしだけけど。
……重かった気持ちが楽になった気がした。
**********
フェルニット砦前の草原には、多数のテントが張られて。
敵味方関係なく、けが人の手当てが行われていた。
止めていた時間を動かしてすぐ。
セーレスト神聖法国は降参した。
……竜騎士を失った法国とは、あまりにも一方的な戦いになってしまったから。
私たちは、一番大きなテントのなかで。
今回の戦後処理を行っていた。
「クレナ様……竜の加護を受けている貴女は、法国にこそ必要なお方だ! 何故王国の味方をされたのです!」
何重にも魔法で力を抑え込まれているリュート様が、苦しそうな表情で訴える。
私は、彼の質問にはこたえず、そっと目をふせた。
その周囲には、捕らえられた法国の軍人たちと。
豪華な衣装に身を包んだ、小太りな中年男性……法王様。
「なぜだ……なぜ法国の聖竜が……ありえない……ありえない……」
精神をやんでしまったように、小さな声でつぶやいている。
「さて、この場の責任者はオレにある。貴様らは拘束を解かずにそのまま王都へ連行する」
シュトレ王子が、ゆっくり立ち上がると。
静かな声で宣言した。
「また、飛竜たちの能力もしばらく封印させてもらう」
「貴様! 何故ここまでする必要があったのだ! 竜騎士が戦えなくなった時点で決着はついていたはずだ!」
リュート様が王子を強くにらみつける。
その表情は険しく。
怒りに満ちているのがわかる。
でも。それは……。
「東西から同時に攻められたからです……。もし降伏をしても……法国に戦力が残っていたら……また……」
私はたまらずに。
シュトレ王子の代わり答えた。
私たちだって、こんなことやりたくなかった。
……やりたくなかったのに!!
「その通りだ。砦の兵が東の帝国との戦いに向かう際、背後から再び襲われないために必要だったのだ」
かばうように、シュトレ王子がそっと横に立つと。
震える私の肩を引き寄せてきた。
心配そうな優しい瞳で私を見つめている。
ゴメン、王子……ありがとう。
大丈夫。大丈夫だから。
「しかし……! クレナ様、目を覚ましてください。その男に騙されています!」
「黙れ! そもそも友好国である貴様らが、突然我が国に侵略戦争を仕掛けてきたのだ!」
王子は魔法の剣を出現させると、リュート様の目の前に突き付けた。
「正式な沙汰は王都で行う。それまで大人しくしていろ!」
私たちがテントの外に出ると。
飛竜たちがその身体を魔法で何重にも封印されて並んでいた。
その中でも、大きな金色の飛竜と目が合う。
……アンネローゼちゃんだ。
「よくボクの声に抵抗できたね、ちょっとびっくりしました」
キナコが、不思議そう顔をしてアンネちゃんに話かけた。
キナコから聞いた話だと。
竜王の言葉には、強制力があるんだって。
……だから。
アンネちゃんは何かに耐えてるように、ずっと苦しそうな表情をしている。
「当然じゃない! 片方の国に肩入れして、『こっちは戦うな』なんて命令、聞けるわけないでしょ!」
アンネちゃんの言葉に。
ずきんと胸が痛くなる。
それは私がずっと……感じていたことだったから。
キナコは、キョトンとした表情をした後。
私と、アンネちゃんにむかって、大きなため息をついた。
「あのねぇ、ボクたちの敵は影なんです。救いたいのは国じゃなくて『この世界』なんですよ!」




