13.お嬢様と竜の王
フェルニット砦の上空に展開していた王国の飛空船団に、竜騎士たちが飛び込んできた。
魔星鎧を着こんだ騎士たちが、船を出て迎えっている。
私たちが飛空船の甲板にあがって周囲を見渡すと。
船の周囲は、大乱戦になっていた。
「なんとしても、竜姫様を守り抜け!」
「ここで食い止めるぞ!」
魔法技術が発達しているファルシア王国の騎士は他国を圧倒するくらい強いけど。
飛竜と一体になって攻撃をしてくる竜騎士は、それを上回っている。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』では。
王国の騎士団より二倍くらい強かったと思う。
どんどん、飛竜の姿が大きくなっていく。
「それじゃあ……キナコ、だいふくもち。行こう!」
「任せて、ご主人様!」
「おう、いくか!」
キナコは人化を解いて、元の小さな竜になった。
私は片手で構えて、キナコに魔法をかける。
次の瞬間。
キナコは巨大な赤いドラゴンになった。
「乗って、早く!」
私は彼女の上に飛び乗ると、目立つように上空に飛び上がる、
すぐ横には。
同じように人化をといた真っ白な竜、だいふくもちが飛んでいる。
船のすぐそばまで近づいていた竜騎士たちの動きが鈍くなった。
「おい、あれ……竜王と……聖竜様じゃないのか……」
「ばかな、聖竜様は、宮殿の地下におられるはずだ」
「どうなってるんだ……あれ……」
私たちを見た……ううん。
だいふくもちを見た竜騎士たちが動揺しているのがわかる。
だって。
聖竜は、セーレスト神聖法国が建国された理由。
信仰と国の存在、そのものなんだから。
「あれはまやかしだ! 予定通り竜姫をとらえろ! それで王国はなにも出来なくなる!」
「しかし……。もし聖竜様であったら……」
お願い。
できればこれで止まって!
だいふくもちは、私をじっと見つめると。
大きくうなずいた。
彼女は、大きく翼を羽ばたかせると、目立つように周囲を回転しだした。
「今すぐ戦闘をやめなさい。このような侵略、私は望んでいません!」
声は確かに同じだけど。
なんだか……別人みたい。
今のだいふくもちは、絵本に出てくるような、完璧な聖竜だよ。
「ダメだ。聖竜様には刃をむけられない」
「法王め、今回の戦は聖竜様の意思だと言っていたではないか!」
竜騎士の一部が、黒と黄色の旗を掲げはじめた。
旗の意味は。
『降伏する』
一度その旗を上げた人は、もう戦闘には加われない代わりに攻撃もされない。
でも、それは想像よりずっと少なくて。
全体の十分の一にもみたないくらい。
「あまり効果ありませんでしたねー」
「うるせぇ、そもそもあんな国しらねーんだよ。寝てる間に勝手に出来たんだ!」
だいふくもちは、ふてくされたようにその場で丸くなる。
「それじゃあ、ご主人様、よろしいですか?」
「うん、やろう……」
これが私たちの切り札。
使えば……戦いが終わる。
多分、一方的に。
「静まれ! 竜の同胞達よ! 貴様らは誰と戦っているのかわかっているのか!」
私は、持っていた魔道具で、キナコの声を拡散する。
上空に羽ばたいていた飛竜の動きが、一斉に止まった。
「誰に刃を向けている! 何故我らが人同士の争いに加担しているのだ! 我らが敵は影であろう!」
聞いたこともないような声。
まるで。
まるで、キナコじゃないみたい。
どこかで聞いたことがある。
あれはたしか……子供の頃に誘拐された地下神殿で……。
うん! そうだよ。
あの時の影竜のしゃべり方にそっくりなんだ。
「あまつさえ、世界を守る星乙女に攻撃をむけるなど。竜の誇りをどこに置いてきたのだ!」
周囲の空気が震えている気がした。
その迫力に。
戦場に静寂が訪れる。
――次の瞬間。
法国の竜騎士団はパニックに陥った。
ある飛竜は、崖の上に降り立つと、そのまま身動きを止めた。
ある飛竜は、空高く舞い上がるとそのまま降りてこない。
竜騎士は次々と戦場を離れていく。
「なぜこんなところに! 早く戦場に戻るぞ!」
「どうしたんだ、降りろ、もっと降下するんだ!」
騎士たちの混乱する声が響き渡る。
聞いてたけど。
どうなるか聞いてはいたんだけど。
目の前で起きている風景は、想像と全然違った。
「……これって、どうなったの? 竜がキナコの言葉に従うっていうのは聞いてたけど」
「そうですね。だからみんな戦闘をやめたんです。パートナーの言葉を無視してまで……」
「でも……これって」
飛竜たちはみんな戦場から離れると首を大きく下げている。
「それでも……せめてパートナーを戦闘に巻き込まないようにしているんですよ」
そうなんだ。
王国も。
法国の騎士達も。
状況がわからずに、呆然としている。
「竜王っていうのは、ただ大きいだけじゃないんです。文字通り、竜の王様だから『竜王』なんですよ」
キナコが寂しそうに笑った。
なんだか。
ずっとずっと遠い昔に。
こんな風景を見たことがある気がする。
竜王の合図で、竜たちが一斉に大きな影に向かっていって。
すごく頼もしかったけど。
でもその瞳がすごく悲しそうで。
もうやめてって、泣きながら制止した……そんな記憶。
なんだろう……これ。
大きな魔法の破裂音でハッと意識が戻る。
頬に涙が伝っている。
もしかして泣いてたの?
慌てて周囲をみわたすと。
……戦場は一変していた。
セーレスト神聖法国は、魔法技術が発展していないから。
空は竜騎士団と、旧式の大型飛行船で構成されていた。
……だから。
竜騎士が戦えなくなった今。
どんなに数が多くても……空から一方的に叩かれていく。
遠くで大きな爆発音がした。
法国の飛空船が次々と炎上して落下していく。
草原に展開していた法国の騎士団は、もう陣形を保てていなくて。
飛空船と魔星鎧を着た王国騎士たちの魔法で、次々に倒されていく。
わかってた。
多分こうなるってわかってたけど。
……本当に、残酷なくらい。
一方的な戦い。
もう。私に出来ることは何もない。
「キナコ、だいふくもち。帰ろう……」
「そうだね、もうこの戦いは終わりですよ」
「アカリちゃん……いや、星乙女、そのなんだ。大丈夫か?」
「なんで? 平気だよ? 覚悟はしてたから……」
なんで。
なんで攻めてきたの!
友好国だったのに!
ゲームでは影と一緒に戦ったのに!!
私は、飛び立った飛空船の甲板に降り立つと。
そのまましゃがみ込む。
急に身体が暖かいものに包まれた気がした。
振り向くと、ジェラちゃんの……涙をこらえた表情があった。
「もうじき降伏勧告をだすわ。それで全部終わりよ……」
「うん、そうだね……」
「ごめんね、ありがとう……」
「……いやだなぁ、なんでジェラちゃんが謝るの?」
「うん。それでも……ごめん」
もっと色々出来たのかな。
一週間の時間をもっと有効に使えたら……止められたのかな。
でも……。
「まだだ、まだ終わってませんよ!」
突然、上空から大きな声がした。
大きな金色の飛竜が落下するように近づいてくる。
「貴女さえ手に入れれば、法国の勝利です!」




