12.お嬢様と西の国境
シュトレ王子のとの婚約式で、かみたちゃんに会ってから一週間後。
ファルシア王国の西の要「フェルニット砦」は、早朝から戦の準備に追われていた。
彼女の予言どおり。
砦の西にある草原地帯に、セーレスト神聖法国の騎士団が現れたから。
もちろん準備もしていたし。
攻めてきた場合の作戦も、みんなで何度もしてたんだけど。
でも。
本当に攻めてくるのかどうか、半信半疑な人も多くて。
ううん。
私自身も……。
できれば外れて欲しいとおもってたんだけど。
「宣戦布告の連絡はきてるのか!」
「いいえ王子。まだ法国からも王都からも連絡はありません!」
砦の上の塔から、草原の空をみわたすと。
飛竜にまたがった竜騎士団が多数飛翔している。
掲げられているのは、法国の国旗、白い竜。
それと、もう一つ。
紫に白の六芒星のマーク。
あれは……法王直轄軍の証だった……はず。
相手は本気で攻めてくるつもりなんだ。
これはもう……戦争を回避なんてできない。
「聞こえているか、フェルニット砦の諸君!」
突然、砦に大きな声が響き渡る。
魔道具の拡声器を使用してるみたいで、地上からも空からも同じ声が聞こえる。
「我々はまもなく、ファルシア王国に対して宣戦を布告する」
砦にいる騎士たちに緊張がはしる。
待機してた飛空船の魔法石が輝きだして、今にも飛び上がろうとしている。
「多少の援軍が入ったようだが、その程度我々の敵ではない。もし砦を明け渡すのであれば、命だけは助けてやる。ただし!」
飛空船に次々と魔星鎧を着こんだ騎士たちが乗り込んでいく。
「そちらにいる、星乙女を我が国に引き渡してもらう。それが条件だ!」
「……ふざけるな! 飛空船を上げろ! 迎撃準備だ!」
私の横にいたシュトレ王子が手を大きくあげると。
飛空船が一斉に上空に向けて浮かんでいく。
「それじゃあ、いってくるね、クレナ」
「ご武運を、シュトレ様……」
「クレナも……無理はないで……」
「ハイ!」
シュトレ王子がそっと私を抱き寄せる。
私はゆっくり、彼に身を預けた。
うん……。
私も覚悟は決めたから。頑張るよ。
**********
「見てよ、相手の陣形が変わっていくわ。こんなに飛空船がいるなんて思わなかったんでしょ」
ジェラちゃんが相手の竜騎士が動き回っているのを見て、にやりと笑う。
なんだか。
アニメとか漫画の軍師みたい。
「ふふん。私、前世では乙女ゲーと、シミュレーションゲームが好きだったのよね!」
「そうなの?」
「言ってなかったっけ?」
そういえば、毎週、ううん多いときは毎日話してたのに。
ゲームっていうと『ファルシアの星乙女』の話しかしてなかった気がする。
こんなときだけど。
友達の好きなものがわかるのって、やっぱり嬉しいな。
「クレナは、ゲームあんまりやってなかたんだよね?」
「うん。ゲーム機は妹のだったから」
「でも、スマホがあったんじゃない?」
「自分のキャラをオシャレにしていくゲーム? は少しやったんだけどね、お金がすごくかかりそうで」
「あー、着せ替え系ね。わかるわかる! ハマるとすぐお金がヤバそう」
よかった。
ジェラちゃんと普通に話せてる。
きっとこれって。
彼女の優しさ……だよね。
「ジェラちゃん……」
「な、なによ? おかしな顔をして!」
「ありがとう……」
私は思わず、ジェラちゃんの両手をぎゅっと握った。
「な、なによ。お礼を言われることなんて、してないわよ……」
彼女は、頬を少しだけ赤くして。
可愛らしく笑った。
**********
フェルニット砦のファルシア王国の騎士団は、相手の出方を待っていた。
私とジェラちゃんを乗せた飛空船も、味方の中央付近で待機中。
王国の主力軍が到着しているから。
周囲はすごい数の味方軍艦で埋め尽くされている。
相変わらず、相手の竜騎士が陣形を変えるために動いているのが見える。
ジェラちゃんの言う通り。
法国の竜騎士は、かなり動揺しているみたい。
これで。
いきなり奇襲されるっていうのは避けられたかな。
「こっちの飛空船の数をみて、法国がひいてくれるといいんだけど」
ジェラちゃんが相手の動きを見ながら、ぼそっとつぶやいた。
本当に……そうなればいいのに。
「ジェラ様、王都から魔法通信入りました!」
「そう、内容を教えて!」
通信係りの声に、船中に緊張がはしる。
「セーレスト神聖法国ならびにアイゼンラット帝国が、我が王国対して宣戦布告しました!」
――いよいよ始まってしまう。
ゲームじゃなくて、現実世界での戦争。
王国騎士団の船から、一斉に出撃合図の魔法が上空に打ちあがる。
相手の竜騎士団からも、同じように魔法が打ちあがった。
魔法はこんなにキレイなのに。
こんなに美しくお互いの空を彩れるのに。
今から……その魔法で、命の奪い合いがはじまるんだ……。
草原に展開していた法国の騎士団がまず動き出した。
法国は、魔星鎧の技術が発達してないから、騎士団は王国のように空を飛べない。
そのかわり、竜騎士が空での戦闘をカバーする。
飛空船の技術も発達してないから、後方から古いタイプの船が指揮用に飛んでるみたい。
「陣形を保ったまま、砲撃開始! 竜騎士を近づけないで!」
ジェラちゃんの合図で。
周囲の艦隊が、一斉に砲撃を開始した。
魔力を圧縮した魔法弾が次々と空に放たれていく。
「本当はさ、アンタ達にこんなお願いしたくないけど……」
ジェラちゃんが悲しそうに目を伏せた。
「もしも、味方が押されたり、竜騎士が突破してきたら……ゴメン、お願い……」
「ううん、大丈夫だよ。私たちも覚悟を決めてるんだから」
きっと。
私たちはこの先ずっと法国の人達に恨まれ続けるんだろうな。
でも。
それでも……。
「竜騎士団、止まりません! こちらに突撃してきます!」
法国の竜騎士団の一部が、砲撃をくぐりぬけて、飛空船団に近づいてきた。
魔星鎧を着た味方の騎士団が、飛空船から次々と飛び立っていく。
砦からも、一斉に上空に援護射撃が飛んでいるのが見えた。
それでも。
竜騎士団は、私たちのいる中央に押し寄せてくる。
「ホント単純ね。この旗が罠だとは思わないのかしら……」
ジェラちゃんがジェラちゃんと私が乗っている船に掲げられている大きな旗は。
盾と剣、それとバラが描かれている。
これは我が家の……ハルセルト家の家紋だ。
星乙女の私がここにいるよってアピールする為。
それで。
相手の攻撃を集中させて、防衛をしやすくしたり。
全体の被害を抑えるためなんだけど。
……でも。
もう、すぐ近くまで竜騎士が迫ってきている。
「それじゃあ、行くね。キナコ、だいふくもち。行こう!」
「ご主人様が望むなら!」
「人間同士の争いに興味ねーんだが、星乙女の望みじゃしかたねーな」
「ねぇ、クレナ……攻めてきたのは相手なんだからね! 何も責任なんて感じる必要ないわ!」
「ありがとう……」
なるべく笑顔で振り返ると。
ジェラちゃんに小さくお辞儀をした。
――行こう。
どんなに恨まれたとしても。
この戦争を終わらせるために。




