10.白いドラゴンの美味しいクッキー
窓の外から、ぽかぽか暖かい日差しが差し込んできて。
重いまぶたがだんだん開いていく。
わたしは、ふわふわのベッドの上で毛布を抱えて丸まっていた。
「気持ちいいのだー」
今度は、大きく両手足を広げて、のびをしてみる。
まるで雲の上で転がっているみたいなのだ。
伸ばした手をじっと見つめる。
白くて小さな子供の手。
柔らな長い髪が少し腕にかかって、くすぐったい。
あ、そうか!
だから人間は、こんなに小さなサイズなんだね。
ぬくぬくふわふわ、幸せだもんね。
もしもドラゴンの大きさでベッドを作ったら、大変そう。
……こんなにふかふかに出来るのかなぁ。
そのまま、ベッドの上でごろごろしていたら。
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「だいふくもち、起きてる? 朝の訓練行くよー?」
星乙女……アカリちゃんの声だ。
まるで鈴の音みたいにキレイな音。
わたし、アカリちゃんの声、大好き!
「おきているのだー……こほんっ。もう起きてるよ。すぐに行くから待ってな!」
ふう、危なかったのだ。
思わず、普通に話すところだった。
気を付けないと、すぐにバレてしまうのだ。
わたしは、ベッドから起き上がると、部屋の外からいい匂いがするのに気づいた。
もしかして今日の朝食かな?
すごく楽しみなのだ!
**********
この家では、毎日朝食の前に王宮で魔法の訓練をしている。
本当は、おなかがすくので嫌なのだ。
……嫌だけど。
……だけど。
訓練場の大きな音のする方を見ると。
アカリちゃんが、魔法で呼び出した金色の鳥を大きく変化させて。
的に向かって攻撃させているのが見えた。
攻撃の当たった的は、こなごなに砕け散っている。
やっぱり。
アカリちゃんはあいかわらずスゴイのだ!
わたしも負けないように、訓練がんばるのだ!
「うふふ、やる気十分ね。ほら、だいふくもちちゃん。ゆっくり目の前の魔力を集めてみて」
この人は、アカリちゃんのお母さんで。
そして、新しいわたしのお母さん!
今のアカリちゃんにすごくそっくりで。
美人で優しい人間なのだ!
あと、魔法の教え方がすごく上手なんだよ!
「なぁ、こ、これでいいか?」
「そうねぇ、ちょっとまってね。すこし私の魔力を流すわね」
お母さんが、わたしの手を握ってきた。
今までバラバラな方向に流れていた魔力の流れが、スムーズに流れはじめる。
「うん、そんな感じよ。上手ね、だいふくもちちゃん」
「気持ちいいのだ……おう! 今ならどんな敵も倒せそうだぜ!」
わたしは、魔力の塊を使って、的に炎のブレスを吹き付けた。
今までで一番大きな炎が、的に当たる。
次の瞬間。
何度やっても砕けなかった的が、ついにバラバラになった。
「やったのだー! ……ふん、これくらい当然だな」
近くにいたアカリちゃんと竜王が、ビックリしてこちらを見ている。
まずいのだ。
いまのバレたかな。
「どうした? 私の魔法に見惚れたか?」
わたしは両腕をくんで、高らかに笑ってみた。
バレたかな?
バレてないよね?
子供っぽいのがバレたら……こまるのだ。
**********
魔法の訓練が終わったら。
家に戻って朝食の時間。
起きてからずっといい匂いがしている。
多分これは、トマトとベーコンとトースト。
それと。
スクランブルエッグなのだ!
訓練のときからずっと楽しみにしていたのだ!
「今日は私が作ったのよ。たくさん食べてね」
目の前に料理を並べながら、アカリちゃんが楽しそうに笑う。
やっぱり転生しても料理が上手みたい。
ふと。
昔よく作ってくれた、星の形をした食べ物を思い出した。
口の中でふわふわに溶けて、とても幸せな気持ちになったのだ。
あれを作って欲しいのだ!
「なぁ、星乙女」
「ん、どうしたの?」
「ほらあれだ、星の形をしたアレは作れるのか?」
アカリちゃんは不思議そうな顔をして首をかしげている。
覚えてないのかな?
昔あんなにたくさん作ってくれたのに。
あらためて、じっとアカリちゃんを見つめる。
彼女の魂はどうみても昔のままなのに。
やっぱり、覚えてないんだ。
星の食べ物も……わたしのことも……。
なんだか。
すごく寂しい……。
「ねぇ、アレがなんだかわからないけど、あとで作ってみるね?」
アカリちゃんが優しい表情で微笑んだ。
わたし、この笑顔大好き!
**********
「前から聞こうと思ってたんですけど、なんでそんな変な話し方なんです?」
朝食を食べて部屋に戻る廊下で。
竜王がわたしに話しかけてきた。
「変じゃないのだ! 大人なのだ! ……なんだぜ!」
「はぁ……無理がありますよ、だいふくもち」
竜王は大きなため息をついた。
無理じゃ。
無理じゃないのだ!
「だって!」
「だって?」
「大人じゃないと、またおいていかれるのだ……」
ずっと昔。
アカリちゃんと竜王は、世界を守るために戦いに出かけて。
わたしは、子供だからってお留守番だった。
ずっとずっと。
長い間、いい子にして待ってたのに。
迎えにきてくれたアカリちゃんは、私のことを忘れていて。
竜王は、すごく小さくなっていた。
だから。
だから。
今度こそ、大人として二人についていくのだ!
「はぁ、そんな変なしゃべり方をしなくても、大丈夫ですよ」
竜王は、私の目線に合わせてしゃがむと。
頭を優しくなでてくれた。
「ドラゴンは眠っている間、年をとりませのんで大人ぶっても無駄ですよ。それに」
彼女は、少し泣きそうな表情で、わたしを抱きしめた。
「それに……。転生してどんな姿になっても、ちゃんと魂の中に記憶は残ってますよ。絶対に」
それは、なんだか。
竜王が自分にいいきかせているようにも見えたのだ。
**********
わたしは部屋に戻ると。
柔らかいベッド上でごろごろしていた。
竜王はあんなこといってたけど。
結局、アカリちゃんは覚えてなかったし。
もうこうなったら。
ふて寝してやるのだ!
わたしは、枕元にある小さな魔道具に魔力をこめる。
魔道具は時間を刻みながらゆっくりと輝きだす。
これで大丈夫。
前みたいに何百年も寝ることはないのだ!
眠気を感じてうとうとしはじめると。
どこからか、甘い匂いがしてきた。
この香り……覚えてる。
匂いをたどって、調理場につくと。
アカリちゃんと竜王の姿があった。
「もぐもぐ、美味しいですよ、ご主人様」
「もう、つまみ食い禁止!」
二人とも、すごく楽しそう。
やっぱり……わたしのことはいらないのかなぁ。
だからおいていったのかなぁ。
「あ、だいふくもち! ちょうどよかった!」
そっと部屋をでようとしたら、アカリちゃんに呼び止められた。
彼女は笑顔で近づいてくると。
「えいっ!」
私の口に手に持っていたものを入れた。
口の中に。
ふわふわ甘い匂いと味がが広がっていく。
これ……わたしの大好きな星型のあれだ!
「朝話していた、星の形をしたクッキーよ。なんだか、だいふくもちの話を聞いたら作りたくなったのよね」
私を見て嬉しそうに笑うアカリちゃんの笑顔が。
遠い記憶にある黒髪の少女の面影と重なる。
やっぱり。
アカリちゃんは、アカリちゃんだ!
嬉しくて甘くておいしくて。
気が付いたら、涙が頬をつたっていた。
「ちょっと、どうしたの、だいくもち!」
「なんでもねーよ。ちょっとのどにつまっただけだ」
「それ、なんでもなくないでしょ! 早く水を飲んで!」
アカリちゃんは慌ててコップに水をいれて、差し出してきた。
わたしはいっきに水を飲み干すと。
涙をぬぐって、おいてあった星型のクッキーを口に入れた。
今度こそ。
ずっとずっと一緒に。
この暖かい場所にいたいから。
だから。
わたし、がんばるからね!




