7.お嬢様と商船団
婚約式から……。
ううん。
かみたちゃんの予言を聞いてから五日後の夜。
私たちを乗せた飛空船の一団は。
夜の闇に紛れるように、西の守りの要「フェルニット砦」に向かっていた。
船の外装は偽装されていて、パッと見は普通の商船団にみえるけど。
実は全部、王国の最新鋭軍艦。
乗っているのは、シュトレ王子と私。
あと、キナコとだいふくもち、近衛騎士のみなさま。
「クレナ、眠れないの?」
船の甲板にあがって、ぼーっと夜空を見ていたら。
後ろからシュトレ王子に声をかけられた。
夜空の光が、金色の髪を照らし出していて。
本当に……絵本の王子様みたいだ。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』に出てくる攻略対象は四人。
第二王子のガトーくんに。
宰相の息子のグラウス先輩。
騎士団長の息子のティル先輩。
みんな素敵な人だけど。
でも。
この人は……別次元で素敵だと……思う。
胸の奥がすごくあったかい気持ちになるから、
これって、私が王子のことを。
好きだから……なのかな。
「……クレナ?」
いけない。
また考え事をしちゃった。
私は、慌てて王子に話しかける。
「ごめんなさい、あんまりシュトレ様がかっこよかったので、見惚れちゃって」
え? あれ?
今、普通に口に出して言ったよね、私。
おもわず、両手で口をふさぐ。
ボーっとしてたから、思わずやっちゃったよ!
恥ずかしくて、おもわずその場にしゃがみ込んだ。
顔が沸騰しそうなくらい熱くなるのがわかる。
「クレナ……すごく嬉しいよ」
恥ずかしくて頭を上げれない私の耳元に、優しい声が響く。
慌てて声のする方に顔を向けると。
王子の澄んだ青い瞳に、自分の姿が映っていた。
よく見みたら、王子も、耳まで真っ赤にしている。
「……シュトレ……様?」
「ごめん、クレナ。あんまり可愛くて嬉しくて、どうかなってしまいそうだよ」
シュトレ王子は、そのまま腕をのばして、私を抱きしめた。
腕のぬくもりと、大好きな優しい匂い。
そして、王子の甘い吐息で。
不安だった気持ちが消えていく。
これ絶対、私のほうが危ないんですけど!
王子の唇がゆっくりと近づいてくる。
私は慌てて人差し指で押し返した。
「……クレナ?」
物憂げな瞳が私をとらえる。
もう、その表情は卑怯だよ!
「あのね、シュトレ様。甲板には護衛の人がたくさんいるから……」
「ああ、そういうことか」
シュトレ王子は嬉しそうな表情で軽く笑うと。
甲板にいる護衛の人達を見渡した。
「ほらね。大丈夫だよ、クレナ」
王子につられて、護衛の人たちを見ると。
みんな、気づかないふりをして背中を向けてるんですけど!?
うわぁ……。
大変だよ、これ。
さすが王家の護衛のみなさま!
「ね?」
王子の綺麗な顔が再び近づいてくる。
「もう! ……今回だけですよ?」
私はゆっくり目を閉じると。
唇に優しい感触が広がった。
**********
次の日の朝。
私たちは、途中の村で着陸して、露店の準備をしていた。
フェルニット砦までは、最新鋭の飛空船でどんなに急いでもまだ二日かかるから。
昼間はバレないように、途中の村で商人のフリをすることになっている。
だって。
王都から直接砦に向かう商船団なんて、普通に怪しまれるから。
王国内の移動でも、バレるわけにはいかないもんね。
「クレ……お嬢様。あとは私たちがやりますので。船でお休みください」
「あら、私だって商人の娘なんですから。これくらいなんともありませんわ」
私は、近衛師団……商人たちと一緒に。
露店で売る商品を船から運び出していた。
「手伝うよ」
シュトレ王子は、私に近づくと。
持っていた荷物をひょいっと持ち上げた。
「ありがとう。ア、アナタ……」
おひげの近衛師団長が、この商団のトップで。
シュトレ王子と私は、その息子夫婦っていう設定になっている。
だから、演技なんだけど……恥ずかしい。
ふと見上げると。
シュトレ王子も、荷物を持ったまま赤い顔で固まっている。
「おい! 新婚だからっていつまでイチャイチャしてるんだ! 仕事だ仕事!」
ひげの師団長……商会長が、私たちの肩をぽんと叩いた。
「アナタだって。ご主人様……ぷぷぷ」
「あはは、いいじゃねぇか。似合ってるとおもうぜ」
後の荷物の影から、赤色と白色の頭が見え隠れしている。
「ちょっと、そこの二人! いいからちゃんと手伝いなさい!」
もう!
この二人は、すぐからかうんだから。
ホントに。
……竜王と聖竜なんだよね?
**********
「いらっしゃいませ。今、王都で大流行しているアクセサリーはいかがですか?」
私は道行く人に、並べられた商品を奨めていく。
今の私は。
紫色の髪の毛をおさげにしたウィッグをかぶっていて。
頭に丸いバレット帽子。
首元にリボンのついたケープ。
動きやすいゆったりとした服に、腰には小さなカバン。
もう完全に商人スタイルですよ!
変装とはいえ、商売だからね。
前世での経験もあるし。
イザベラのパン屋さんでもバイトをしてたし。
全力で頑張るよ!
「うわぁ……カワイイ。ねぇ、キミならこれを貰ったら喜んでくれる?」
「彼女さんへのプレゼントですか? きっと喜んでもらえると思いますよ!」
商売の基本は笑顔ですよ。
ここで、にっこりスマイル!
……。
少しだけ周囲が静かになったあと。
急にお店の周りに人だかりができた。
「オ、オレも売ってくれ」
「オレにも……二つ、いや三つくれ」
「あの、いろんな商品を取り揃えてますので、慌てないでください!」
えええ!?
あっという間にお店の前に長い列が出来る。
近衛……商人さんたちが、協力してくれて。
なんとか、無事に売り切ることが出来た。
はぁ、王都のアクセって、こんなに人気なんだ。
知らなかったよ。
まぁ、これで商人っぽくみえたでしょ。
お店の片づけを始めると、後ろから可愛らしい女の子の声がした。
「あの……あの……。星の形のペンダントはありませんか?」
振り向くと。
小さな女の子が、ぎゅっと手を握りしめて立っていた。
「お星さまが好きなの?」
女の子の目線に合わせしゃがんで中腰になった。
「お母さん。お母さんがね、星が大好きだから」
「そっかぁ。うーん、ちょっと待っててね」
確か、まだ船の中には在庫があったはず。
私は船に戻ると、箱の中から星型のペンダントをいくつか取り出してきた。
「ほら、これなんてどう?」
女の子の前に、ペンダントを差し出す。
真ん中にある宝石は、周りの魔力に合わせて色を変える色代わり石だから。
夜空の星みたいにキラキラ輝いている。
「うわぁぁ、おねえちゃん! これすごくきれい」
「気に入ってくれた?」
「うん! でも……これで買える?」
女の子は、おそるおそる握りしめていた手を広げると。
小さな硬貨が、手のひらに数枚乗っていた。
きっと、おこづかいをためたんだろうな……。
私は、硬貨を一枚だけとると、女の子にペンダントをそっとかけた。
「うん、似合ってる。こんなに可愛い姿をみたら、おねえちゃん、この硬貨だけで充分かなぁ」
やっちゃった。
よし……あとで怒られよう。
女の子は、嬉しそうに目を見開いて。
勢いよく私に抱きついてきた。
「おねえちゃん、ありがとう!」
その瞬間。
女の子の手に、私のおさげのウィッグがひっぱられて。
おもいきり、外れてしまった。
急に周囲がざわめきだす。
うわ。
これ……まずいよ……ね。




