42.お嬢様とこの世界の星空
セーレスト神聖法国の交流会から帰ってきてから、一週間がたった。
今私がいるのは。
白とピンクを基調にした家具と、レースで飾られた部屋。
床には小さい頃から大事にしている、白いクマのぬいぐるみが置かれている。
えーと、つまり。
私の部屋なんだけど。
部屋の真ん中には、いつもの映像クリスタルが浮かびながら光っていて。
ジェラちゃんとガトーくんの顔が映し出されている。
「リュート様ルートなら、私クリアしたけど。聖竜なんて出てこなかったわよ?」
「そうなんだ……」
「僕らが思っているよりも、ずいぶん現実とゲームが違っている気がするね」
うん、それは私も思ってた。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』。
この世界で起きることを予言者に占ってもらって。
神様のような女の子、かみたちゃんが作ったゲームなんだけど。
この予言。
50%っていってたから。
半分はあたらないんだもんね。
うーん。
「でもあれよね。ゲームだったら、もうこの世界荒廃してたわよね?」
ジェラちゃんが、クリスタルから少し視線をずらして話しかける。
たぶん。
部屋の外の星空をみたんじゃないかな。
「……実はそうでもないんだ」
え?
ガトーくんの声で。
おもわず、私も窓から見える星空を確認する。
空は宝石箱の中身のように、無数の光がキラキラ輝いていて。
子供の頃にみた、大好きな景色となにも変わってないのに。
「ガトーくん。それってどういうこと?」
「なによ、アンタ何かしってるの?」
映像クリスタルに映る彼は。
すごく真剣なまなざしで見つめている。
冗談……じゃないみたい。
「ねぇ……今の星空をみて、どう思う?」
えーと?
ガトーくん、何を言ってるんだろう?
「どうって? キレイだなっておもうけど?」
「そうよね? ゲームだと、ほとんど星がなくて真っ暗だったわ」
そう。
プレイヤーからは。
海苔弁当の空なんて言われて、意外に愛されてた光景だったんだけど。
「うん、そうなんだけどね」
彼は、少し考えるような仕草をしたあと。
手の上にあごを乗せて、静かな声で話しかけてきた。
「それじゃあ、セーレスト神聖法国の星空を見て、どう思った?」
「そういえば、あまり光ってなかったわね、天気が悪かったのかしら?」
「え? ウソ?」
ジェラちゃんの言葉に、思わずビックリして声をあげる。
だって。
リュート様と一緒に、アンネローゼちゃんと空を飛んだ時。
……満天の星空だったよ?
「なによ、私がウソをついてると思ってるの?」
ジェラちゃんが、すねたように頬をふくらませて横を向く。
驚いて、ガトーくんを見ると。
納得した表情をして頷いている。
「それがね。ある時間だけ、空が星空でいっぱいになったらしいんだ」
……え?
私は、リュート様と法王様との会話を思い出していた。
……そういえば。
なんで法王様まで、『星空散歩』の話をするのかなって思ってたんだけど……。
うわぁ。
ちょっと、これ。
嫌な予感しかしないんですけど!
「それがさ。ちょうど、クレナちゃんがいなかった時間なんだけど……なにかやった?」
「……うわぁ、アンタ、また何かやったの?」
えーと。
何って言われても。
「……魔法を使ったあと、アンネローゼちゃんにのって空を飛んでた……かな?」
私は、クリスタルに映る二人の視線から目逸らすと。
ベッドでごろごろ転がっているキナコに助けを求めた。
「キナコー、寝てないでちゃんと話してよー。今回は何もしてないって!」
キナコは、きょとんとした顔で私を見ると。
不思議そうな声でつぶやいた。
「あの星空? ご主人様が、キレイな星空を見たいって願ったからじゃないですか?」
しばらくの沈黙の後。
ガトーくんの笑い声が響き始めた。
「あはは、すごいな。さすが星乙女だね」
「アンタさ、どんだけチートなのよ……」
ちょっと、ジェラちゃん。ガトーくん!
違うよ。
違うからね!?
**********
ガトーくんの話だと。
星空がこんなに輝いてみえるのは、ファルシア王国だけなんだって。
セーレスト神聖法国も。
アイゼンラット帝国も。
最近は星がどんどん見えなくなってるって。
なんだか、まるで。
前世の都会の街みたいな話だけど……。
――でもこの世界では。
星が見えなくなるのは、本当に死活問題。
だって。
星は、夜空に浮かぶ魔力の塊だから。
もし星の力がなくなったら。
魔法が使えなくなるし、人々の生活を支えている魔道具も動かなくなる。
やっぱり。
ゲームのように少しずつ……世界が……。
私が悩んでいると、突然部屋の扉が大きな音を立てて開いた。
「みろ、クレナ! こんなにかわいくなったぞ!」
飛び込んできたのは。
フリルがたくさんついたワンピ姿の真っ白な少女。
絹みたいな白い髪にも、可愛らしくフリルのリボンが結んである。
「クレナちゃんに見せたくて、走ってきたのよね?」
後ろからお母様がニコニコした表情で追いかけてきた。
「どうだ、かわいいだろ!」
私の膝に飛び乗ると。
自慢げな表情で、可愛らしい瞳を大きくして見つめてくる。
「可愛い娘が増えて、お母さん嬉しいわ~」
……そう。
あのあと。
私には……三人目の妹が出来た。
ちょっと、お母様?
ハルセルト家って、養女率高くありませんか?




