40.お嬢様と聖竜の力
大陸の西にある大国「セーレスト神聖法国」、通称緑『緑の法国』。
その王宮に地下に眠っていた、聖竜だいふくもちは。
私とキナコを乗せると、吹き抜けの空間を飛んでいく。
地面にあった結界は光を放っていないし。
青く包み込むような結界も追ってこない
うん、時間を止めたおかげで発動していないみたい。
だいふくもちは、どんどん上に登っていく。
やがて目の前に、美しく装飾された天井が見えてきた。
魔法石が模様に埋め込まれているみたいで、やさしい輝きを放っている。
「ちょっと、この先行き止まりに見えるんですけど!」
慌ててキナコとだいふくもちに声をかける。
すごくきれいな景色だけど。
……ここからは出れないよね?
もしかして、壊して進むとか?
「大丈夫。前に、王宮の大きな塔がありましたよね? これは同じ作りで、ドラゴンが通ると開くようになってるですよ」
それって、アンネローゼちゃんがいたとこだよね?
私は、扉が積みあがってできたような塔を思い出す。
だからあんなに扉があったんだ。
「そうなんだ。でも、キナコ……何でそんなことまで知ってるの?」
キナコもここ初めてだよね?
彼女は一瞬、慌てた表情をみせあと。
すぐに自慢げに胸を大きくはった。
「それは、もう。ドラゴンですから!」
目が泳いでるんですけど!
キナコ……。
絶対なにか隠してるよね?!
「二人とも、おしゃべりはあとにしな! いくぜ!」
だいふくもちが、可愛らしい声に全く似合わない大きな声を上げると。
天井に向かって飛び込んでいく。
「あ、危ない!」
天井が目の前まで迫ると。
模様に使われていた魔法石が強い光を放ち始める。
――眩しくて目をつむると。
新鮮な空気と、やわらかい風が身体に伝わってきた。
目を開けると。
雲のじゅうたんが目の前にひろがっている。
うそ。
あんなに一瞬で、ここまで飛んだの?
「いやぁ、久しぶりにおもいきり身体を動かしたわぁ」
だいふくもちは、嬉しそうな声をあげると、大きなのびをする。
「当り前だよ、どれだけ眠ってたとおもってるんです?」
「いやだってよ、お前ら二人が魔物討伐に出かけてから、やること無くてヒマでさぁ」
キナコの言葉に大声で笑ったあと。
少し寂しそうな声に変わった。
「ホントに、ついて行けばよかったよ……。あんなことになるとは思わなかったぜ……」
「なんだ……知ってたんですか?」
「まぁな……」
それって多分。
初代星乙女ちゃんと、竜王の話だよね。
人間の為に……最後まで魔物と戦って……それなのに。
胸が苦しくなる。
でも、どうしても守りたかったから。
あの人が好きな、星降るこの世界を……。
でも……そのせいで……。
急に、金髪に澄んだ瞳をした青年が頭に浮かんだ。
シュトレ王子に似てるけど……そうじゃなくて。
王子が、この人に似てるんだね……。
……え?
今の何だろう?
私以外の、別の人の……記憶?
「さて、これからどうするんだい?」
だいふくもちは、背中にいる私たちに顔を向ける。
なんだか目が輝いていて、すごく嬉しそう。
「まずは、ボクとご主人様は元の場所に戻らないと」
「え……戻るの?」
「当り前じゃないですか! 元々あの国は聖竜を守ろうと集まった人が作ったんですよ?」
「え? そうなの?」
へー。
ドラゴンを崇めてる宗教国家なのと。
その影響でドラゴンを大切にしてるのは知ってたけど。
そんな過去があったんだ。
「しかも、今ではその魔力を使って国の色んな魔道具を動かしてるんです。そんな聖竜を開放したとしたら?」
「したとしたら?」
えーと。
国の基になった崇めてるドラゴンで。
魔力の元にもなっていて。
それを開放したら?
……。
あれ?
「もしかして、犯罪者……です?」
「もしかしなくても……です!」
キナコが大きなため息をつく。
「なんだい! そんなのは人間の勝手な理屈だろう! 私はあの場所で寝てただけだぞ!」
そうなんだけど!
そうなんだけど!
でも……。
寝ているドラゴンの魔力を勝手に奪いとったり。
逃げられないように結果を作っていたり。
……きっと話してもわかってくれない。
だからといって。
だいふくもちに、あの場所に戻ってっていうのは……なにか違うよね。
「なんなら、そんな国滅びしてしまえばいいじゃないか。人の魔力を勝手につかったんだろう?」
「それはダメ!」
私は思わず大きな声で叫ぶと、だいふくもちの大きな背中に抱きつく。
「それを星乙女が望まないことは、キミもよく知ってるでしょ?」
「あはは、まぁ、そうだな!」
だいふくもちは大きく旋回すると、宮殿の大きな中庭に降り立った。
私たちも、だいふくもちから飛び降りる。
「で、竜王。何か考えがあるんだろ?」
キナコは少し考えるように指を唇に当てたあと。
ゆっくりとうなずいた。
「じゃあまず、キミの毛を少しもらうね?」
キナコは怪しげな笑顔でだいふくもちに近づくと。
すごい速度で毛を……むしりはじめた。
「いてぇ! てめぇ、なにしやがる!」
「もぅ、大人しくしててくださいよ。むしれないじゃないですか?」
「いや、ちょっとまてって。禿げるだろうが!?」
「心配しなくても、また生えますよ!」
なんだか。
じゃれあって遊んでるみたいに見えるんだけど。
……ちゃんと考えてるんだよね?
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私とキナコは。
だいふくもちの白い羽毛をいっぱい抱えて。
一度降った祠の階段を、再び降りていく。
ちょっと!
これ前が見えなくて、すごく危ないんですけど。
「ねぇ、これで本当に大丈夫なの?」
「まぁ、当分はこれで平気ですよ」
やがて。
元の広い空間にたどりつくと。
だいふくもちの寝ていた付近に、羽毛を並べた。
なんだか。
ふかふかのベッドみたい。
「ふぅ、これでしばらくはバレないとおもいますよ」
「ホントに?」
「ええ、だいふくもちの毛には強い魔力がありますからね」
「……これで、どれくらいもつの?」
「そうですねぇ……たぶん、十年以上は平気じゃないですか?」
え?
あの羽毛だけでそんなにもつの?
だいふくもちって……すごい。
さすが聖竜だよね。




