36.お嬢様と法国の聖竜
私たちが、リュート様からもらったペンダントの話をしていると。
突然、部屋の扉が開いた。
「皆さんおそろいになったんですね!」
丸い眼鏡をかけた、小柄な少女がニコニコしながら入ってくる。
そうだった。
男女別でお泊りするんだから、セーレスト神聖法国の魔法学校の子も一緒だよね。
えーと、この子は確か。
生徒会で会計の……。
「あらためまして、私、ルシエラといいます!」
ぺこりと勢いよく頭をさげると。
栗色のみつあみおさげが、勢いよく跳ね上がる。
彼女は、人懐っこい笑顔で近づいてきた。
「うわぁ、こんなに近くでクレナ様とお会い出来るなんて!」
なんだか。
大人しそうな見た目の印象と違って。
すごくテンションが高い子みたい。
「あらためまして、クレナ・ハルセルトです」
「竜姫様ですよね! ああ、もう。感激です!」
両手をお祈りみたいに組んで、目を閉じている。
「なにアンタ、クレナの事知ってるの?」
ジェラちゃんが、尋ねると。
大きな目をパッと開いて、嬉しそうに早口で話し始める。
「当り前じゃないですか! 大きな竜に乗って国を救った英雄ですよ。ああ、今日の出会いを聖竜様に感謝します!」
「そ、そうなんだ」
ジェラちゃんは、一瞬固まったあと。
不機嫌そうな表情に変わった。
「ほら、アンタのファンみたいよ。よかったじゃない?」
……ちょっと、ジェラちゃん?!
なんで、このタイミングで腕を絡めてくるのさ!
「あのね、たぶん、ウワサが大きくなってるだけだと思うんだけど……」
「そんなことありません!」
メガネが、キラッと光った気がした。
なんだか、すごい圧なんですけど。
「あああ、ごめんなさい。つい興奮しちゃって」
私の表情を見たルシエラちゃんは、少し落ち込んだ表情になって。
ぽかりと自分の頭を叩いた。
「クレナちゃんは、セーレスト神聖法国でも有名なんですか?」
リリーちゃんが、優しい声で話しかける。
「はい! それはもう。この国は竜と共存していますので。竜姫様はみんなの憧れなんです!」
もうすごくキラキラした瞳で私をみつめてるけど。
えーとね。
多分、間違って伝わってるよ?
私、国を救ったこと無いし?
公爵家のクーデターの時なんて。
演説? みたいなことしただけだから。
「……だそうですよ? クレナちゃん?」
「あ、うん。ありがとう。でもね、憧れじゃなくてお友達になりたいな、なんて」
だってね。
この子の瞳が、憧れのアイドルを見てるみたいだったから。
同い年くらいだし……友達の方が嬉しいんだけどな。
「ホントですか! 嬉しい!」
ルシエラちゃんは、青い大きな目をさらに大きくして。
嬉しそうな笑顔で飛び跳ねた。
「ああ、聖竜様、今日この日を感謝いたします」
再びお祈りする、ルシエラちゃん。
――そういえば。
かみたちゃんに、白い聖竜に会えって言われたてたよね。
「ねぇ、ルシエラちゃん」
「ハイ! なんでしょう!」
「その……聖竜様に会う方法とか……あったりする?」
彼女は、一瞬ぽかんと口を開けた後。
大きな声で笑い出した。
「あはは、そうですね。聖竜様は、はるか昔にこの国を人たちを守ってくれた伝説の竜なんですけど」
……え?
はるか昔?
「一応、今でも生きてるってことになっていますけど。さすがに無理ですよね!」
「でも、お祈りを聖竜様に捧げてたよね?」
「あー。私これでも、巫女なんですよ。お祈りはクセみたいなものなので」
**********
次の日の朝。
私のキナコは、部屋を抜け出して二人で散歩をしていた。
「……ちょっと、キナコさん? 聖竜様、もういないみたいなんですけど!」
「……そうですねぇ」
「……かみたちゃん、会えって言ってたよね?」
「言ってましたね」
……。
…………。
「ねぇ、これ無理だよね? どうやって会うのさ!」
「ご主人様、落ち着いて!」
もう完全に無理だよね、これ!
ルシエラちゃんの話だと。
セーレスト神聖法国って、もともと聖竜様を崇めていた宗教が発展して国家になったから。
今でも、国全体でお祈りをささげてるんだって。
つまり……。
もう完全に、神様的な感じだよね!
かみたちゃんと同じポジションじゃん!
それに。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』を思い出してみても。
出てこないもんね、白い聖竜なんて。
「もしかして。あれかな? かみたちゃんみたく、どこか別の空間にいるとか……」
「それなら、西にいますって言わないですよねー……」
「……だよねー」
私たちは、庭にあった小さなベンチに腰掛けた。
大きな木の影が出来ていて、朝のさわやかな風の香りがする。
「もう、どうすればいいんだろう……」
「なにか、お悩みですか?」
「どうやったら聖竜様に会えるのかなぁって……」
あれ?
今の声……って?
振り向くと。
朝日に照らされた、リュート様が立っていた。
緑色の髪が、陽の光で透き通るように輝いていて。
隠しキャラで攻略対象になるわけだよね。
すごくカッコいいもん。
「聖竜様に……会いたいの?」
「あはは、なんでもないんですよ。気にしないでくださいね」
慌てて、顔の前で両手を振って否定する。
うわぁ。
絶対へんな子だと思われたよね。
恥ずかしすぎる……。
「わかりました。クレナ様の為なら。会えないか頼んでみますよ」
「ありがとうございます。……え?」
リュート様は。
まるでゲームのイベントスチルのような、すごく優しい表情で微笑んだ。
「昨日の星空のお礼ですよ」
そんなに、あの星空に感動したのかな?
あれ、でも。
頼んでみるって?
……誰にだろう?




